3.行政の支援領域


■新産業創造に関わる望ましい支援領域とは

 ベンチャービジネスの起業化支援や、新産業の誘致などの地方自治体による新しい産業創造支援の動きは近年活発化する傾向にある。それらの取り組みは新たな雇用機会の創出や地域の活性への波及効果をもたらしてくれる。しかし、そうした新産業誘導に関する地方自治体の既存の支援領域を見てみると、技術開発的な部分や新規開業資金融資などの事業化段階を対象としたものが多い。

 一般的に、行政の支援領域は商品開発技術などの製造技術の更新や、融資面などの「入り口」部分に偏りやすい傾向があるが、販路という「出口」のないモノづくりの支援体制は、往々にしてモノづくりの情熱を腐らせていくことにしかつながっていかない。立ち上げようとする事業は"誰"を対象として組み立てられた事業なのか。そのターゲットに対してリーチ出来る体制は整えられているのか。特に製造系の中小企業ではモノづくりのための技術の革新という部分に関心が集まりやすいが、「販路の確保」という領域は開発段階からなおざりにされているケースが多い。

 また、行政もこの領域の支援に関してはあまり熱心ではない。「販路の確保」とは「如何に売り上げをあげるか」ということであり、儲けるということは民間企業の自助努力の範疇であって、行政の支援領域ではないという考え方に立っているのである。しかし、中小の企業の新商品開発の努力がマーケットの確保まで視野に入れて行われているケースは少ないであろうし、大手企業のように力技で押し通す資金力や組織力を備えているわけでもない。新たな展開領域を模索する時に、中小の製造業にとって最も自助努力を発揮しにくいのが、実はこの「販路の確保」なのである。それに比べれば、むしろ技術開発の問題の方が自助努力の範疇と言えるのではないか。

 中小製造業の商品開発を支援する優れた施設を完備した公的な技術試験場が関西にある。その試験場を視察したとき、新しいモノづくりを技術的に支える環境としては抜群のものがあるが、ここで試作を済ませた中小企業は、その新商品をどうやって市場に流通させているのだろうとふと疑問に感じた私は、販路の確保の現状を案内してくれた担当者に質問した。その答えは、「その問題はこの試験場では対応できませんが、実際は隠れた大きな問題なんです。ここで実験を済ませた開発商品の少なからずの部分が、その販路の問題でとん挫していきます。」とのことだった。

豊かな地域社会を具体のものにするためには、地域産業の生活産業化を誘導したり、生活への対応力をより高めるための生活周辺産業の起業化を支援しなければならない。そして、それらの誘導を図る際に、ある意味で最も重要な支援策となる領域がこの「販路の確保」という部分なのである。

その問題に応えるために、地域生活の一層の充実を企図して生活者の一定の組織化を図ったり、既存の域内の流通企業との水平分業をコーディネイトする意義と可能性を備えた主体は行政を置いては考えられない。地域の課題はある意味で産業課題でもある。地域の課題を把握し、その解決策を探り、その解決策の中に産業ニーズを見出すことによって企業の参入を誘導する。地域課題を産業ニーズと関連付けて解決を図ることによって、地域と産業の同時活性は可能になる。

地方自治体が中小企業の誘導、育成を図るためには、事業化の入り口部分の支援だけで後は偶発的な成功を期待するというスタンスではなく、中小企業の自助努力の範疇を大きく超えるこの"販路の創造"という課題に、地域生活への対応力の強化という観点から積極的に取り組んでいかなければならない。 


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