■雇用なき経済回復

 産業社会は効率化を金科玉条のように掲げ、そのためにハイテク化や省力化を推進してきた。しかし、このような状況のまま今後も産業社会が推移すると、最終的には、工場生産指数は上っても有効求人倍率は下がり続ける、ジョブレス・リカバリー(雇用なき回復)という状況が生まれることになる。つまり、人間の存在自体が非効率なものとして産業社会から一定排除されるようになるのである。人間の存在はある意味でローテクであり、究極の効率化の概念からは受け入れがたい部分がある。

社会の繁栄と発展のために、経済活動は不可欠な存在として大きな期待を受けた。産業社会が稚拙な時代には、もっと早く成長するようにと人々から激励を受け、国を挙げて支援が行なわれてきた。

しかし、その経済社会も後期資本主義といわれる段階に入ると、人間不在の経済システムの本質はその本領を発揮するようになり、人間社会の営為への奉仕という本分は忘れ去られ、経済のための経済という自己目的化した世界に埋没していった。効率を求めてのハイテク化の流れも同様であり、企業存続のための人間の制限という考え方は実はもはや一般化されているといっても過言ではない。そして、今後本格化するグローバル経済化の道は、経済を実体経済にも、人間自体にも一層無関係なものにしていこうとしている。

 市場経済化の流れは世界的な潮流であり、国家間にまたがる瞬間的な資本移動によって大きな富を吸収しようとするシステムに必要なものは、コンピューター・ネットワークシステムと極くわずかの意思決定者でしかない。二十一世紀のマス経済社会は、人間の生活や実体経済からは大きく乖離して、世界を一つのマーケットと見立てて、金で金を贖う、自己目的化の最終段階とも言える限りなく強大なマネーゲームの世界に突入していこうとしている。


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