■興味参加型コミュニティの創出例

 地域生活の充実に関わる要求は、趣味生活を楽しみたい欲求から奉仕という高次の自己実現欲求まで非常に多岐に亘る。そうした様々な生活上の欲求の実現につながる輻輳したコミュニケーション・チャネルの敷設によって、地域は豊さの内的エネルギーを大きく高めることができるようになる。このような多重ネットワーク生活圏構想の実現方策として、多様な生活要求を受け止めることができる様々なコミュニティ・チャネル開発の考え方について、以下に幾つかの例を挙げてみたい。

[生活と地方自治体とのネットワーク]

 地域に生きる生活の知恵や何らかの改善要求を常に把握しながら、地方自治体の地域整備事業は推進されなければならない。しかし、まちづくり協議会活動などの、地域の声を聞くための従前からの行政活動は、多分に義務的で形式ばったものが多い。それは、担当者の顔が見える展開を由としない行政独特の組織の論理や、地域コミュニティを義務結束的に捉える地域政策の基本的スタンスによるものであり、更にいえば、そもそも行政にエリア・マーケティングに関するノウハウが乏しいためである。

 「生活の都合を受け止めた生活環境整備策を行って欲しい」「地域に賑わいが欲しい」「社会人教育の機会を増やして欲しい」「近隣住民との交流の輪を拡げたい」

 より望ましい地域生活や生活環境づくりに関する「民」と「官」による地域生活向上会議を小学校区単位で定期的に開催し、広範な住民の自由な参加を求める中で、地域に必然性の高いまちづくりの方向に関するコンセンサスの醸成を図るのである。

 またその時には、声の大きい人間の意見に全体が振り回されたり、少数の意見が無視されるような状況が生まれないように注意しなければならない。どんな地域計画にも利害の対立は必ず生じる。その調整を住民間に求めるのではなく、地方自治体はどの意見も地域生活の必然として受け止め、より望ましい地域政策として行政活動に反映させることができる仕組みを案出しなければならない。

[生活と地域産業との交流ネットワーク]

 地域住民グループと地場製造業や地域商業との「民」と「産」の交流を中心に、「学」と「官」が支える構造を持つ地域産業会議を設け、新しい地域生活貢献型の商品開発・流通促進に関する情報交流の機会を設ける。生活に関する興味領域毎にグループ化を図り、生活上の課題やニーズを地域産業側に伝え、地域産業はそれに応えることのできる商品やサービスの開発と供給に努める。地域産業側の商品開発能力が低い場合には、地方自治体がインダストリアル・デザイナーや芸術系大学などの協力を求めながら、高度化を支援することも必要になる。

 産業社会とのこのような新たなコミュニティ・チャネルの形成によって、地域住民は生活に貢献度の高いオーダーメイド的オリジナル商品やサービスを手にすることができるようになる。また、製造業は地域固有の生活課題に応える新しい商品開発の視点を、そして地域商業はその流通を担当することによって新たな活性の視点を持つことができるようになる。

 また、実際の生活要求に基づく商品開発は、生活実態の希薄化によって新たな産業目標を喪失して苦しむ我が国の産業界全体の一つの活路となる可能性も秘めている。当初は身障者用の商品でしかなかったウォシュレット・トイレが広く一般に普及したように、こうした交流ネットワークから地域発の全国ブランド商品の誕生を展望することも可能になる。

[生活者のビジネス・ネットワーク]

 生活をサポートする様々な機能が充実した理想的な地域生活環境を頭に思い描いて地域を眺めたとき、財とサービスの供給者が既存の産業主体だけではあまりに充足率が低いことに気がつく。そうした供給体制の隙間を埋めるためには、地域を熟知してフレキシブルに対応することができる新たな活動主体の登場が望まれる。その供給者を需要者である地域生活者自身に求めるのである。

 現役の時代に取得したノウハウを社会に還元したい。あるいはOLの時のキャリアを主婦のパートとして活かしたいといった、様々な活動欲求を抱える生活者を編成して、地域ビジネス需給ネットワーク・チャネルを築くのである。また、地域産業の高度化をサポートする地域生活者の活動領域も考えられる。

 地域の様々な要求を理解して、それに応える供給技術と供給者を地域の中から発見するといったコーディネート業務は、地方自治体にしかできない。地方自治体はこうした地域生活の高度化に関わる需要と供給に関するニーズを見極めながら、広範なビジネス・ネットワーク・チャネルの構築を図らなければならない。地域の労働需要と供給ニーズのお互いの顕在化を促し、それを繋ぐという行為は、一種の民間活力の活用策でもあるということができる。

 また、地域の中で完結するこのようなビジネスの需給構造が顕在化している環境の下では、生活と仕事のフレキシブルな時間の配分が可能になる。このことは、家庭や身体上の都合や、年齢などの何らかの要因によってフルタイム勤務できない地域生活者に、過去に取得した技術や地域生活の知恵を生かした新しい就業の道を開くものでもある。

[趣味・カルチャーのネットワーク]

世を挙げてカルチャー・ブームである。企業からリタイヤした中高年男性や、主婦を中心にカルチャー熱は大いに高まりを見せている。そのような状況の中で、更にこのエネルギーを豊かさを実感できるまちづくりや地域コミュニティの醸成に役立てていくためには、参加者を単なる文化の消費者という位置づけに放置しておくのではなく、彼ら自身を文化の生産者、情報発信者へと導くことができる活動領域に誘導を図る必要がある。

例えば、地域に固有性の伝統芸能は、その芸能を通じて、その芸能本体の周辺に付帯している多くの文化的なるものまでも現在に伝承している。したがって伝統芸能の衰退は、長い時間をかけてせっかく地域に根づいていた多岐にわたる地域固有の文化性全ての消失を意味している。地域に伝わる文化的環境を維持・拡大することを目的として、その地域固有の文化を伝承するために、伝統芸能の継承に携わる活動への地域生活者の参加を誘導するべきである。

また、生活に関わる行動欲求の中で比較的容易に顕在化を促すことが可能でコミュニティ活動に発展させやすいのが、この趣味・習い事に関する領域であろう。そうしたコミュニティ醸成の環境を更に整えるために、主婦の発想や趣味、特技を生かした様々な作品を製作する趣味のグループの結束を促す。地方自治体は、場所と機会の提供によってこの活動をサポートするが、更に、参加する生活者に収益ももたらす高次の展開策として、「主婦の趣味の店」といった地域住民に開放された商業施設を設置して、広く一般に対して趣味商品の展示、販売を行うことも考えられる。

[ボランティア・ネットワーク]

 高齢者介護を地域住民のボランティアで支え、その介護に関わった時間を登録しておき、自分が要介護状態になった時にその分だけ介護サービスを受けることができる「時間バンク」という制度を採用している自治体がある。この制度自体は、高齢化社会が現実化したとき、介護人口と被介護人口の比率が悪化することから将来の介護サービスの履行が危ぶまれる向きもあるが、こうした考え方や最近話題になっているエコ・マネーの考え方などを参考に、地域社会の中で需要と供給が完結できるボランティア・ネットワークのシステムを構築する。 

奉仕の欲求は人間が持つ欲求の中で最も高次の領域に位置している。地域人材バンクを設立して、「子守します」「食事サービスをします」「庭の手入れをします」「お年寄りのお世話をします」といったサービス提供希望を登録し、そのサービスを受けたい人との縁結びを地方自治体やボランティア・サークルが行う。地域における住民どうしの互助活動は、本来は有償の行為を助け合いによって無料にするということでもあり、このことは地域で日常生活をおくるうえでの互いの経済的負荷の低減にも繋がる。

[環境美化推進ネットワーク]

生活環境の美化を推進するために、住民の手による遊休地での花卉の栽培運動を地域全体にわたって展開する。地方自治体は、官民問わず、遊休地での花卉の栽培活動に対する理解を地権者に求め、周辺生活者による花卉栽培活動のための暫定的用地無償利用の許可を得る。そして、花卉の種を無償で生活者に提供し、生活者の自助努力による花いっぱい運動を支援する。

花卉の栽培には経験に基づくノウハウが必要であり、それによって作品の優劣が歴然とする部分がある。そのため近隣の栽培従事者間では互いにノウハウを教えあう環境が育つようになり、全体の作品の完成度とコミュニティ醸成の環境は年月を経るにつれて飛躍的に向上していくようになる。

この運動を更に支援するためには、コンテスト方式によって優秀作品を表彰したり、花卉流通業者と提携して、駅前の花屋などで作品の委託販売も行えるようにすることなども考えられる。

[スポーツ・ネットワーク]

 ヨーロッパでは、サッカーやラグビーなどのスポーツを核とした地域コミュニティが活発に機能している。しかし、我が国における地域のスポーツ・コミュニティは、参加者の属性が限定された少年野球やゲートボールなどの限られたものでしかない。鳴り物入りでスタートしたサッカーのJリーグも、いまひとつ地域コミュニティの結節点事業にはなりきれていない。

 地域コミュニティの振興という観点だけに留まらず、地域生活者の健康増進のためにも、より広範な住民層を対象とした様々なスポーツが地域に定着していかなければならない。そのためには、サッカー、ラグビー、バレーボールなどを手軽に行うことのできる環境整備策の一環として、地域に点在する官民所有の遊休地をまちづくり行政で借り上げ、暫定スポーツ・コートとして整備することが望まれる。また、更に地域のスポーツ需要を喚起するためには、地域単位のスポーツ倶楽部の結成を誘導したり、地方自治体主催の各種地域対向競技大会を定期的に開催して全域的なスポーツの振興を図ることも有効と考えられる。

[子供と地域とのネットワーク]

 子供の健全な育成を家庭だけで担っていくことは難しい。全人格的な資質は健全な地域の中でこそ育まれる。したがって、地域社会を実体験して「世間」というものを知ることと、地域社会で生きていくうえでの健全な精神を養うために、高校の課外授業の一環に前述のボランティア活動の実践を取り入れることを考える。特に、若者の力を必要とする作業に関して、主婦のボランティアと一緒に行動して大人のボランティア活動を支えることが望まれる。

 このことは混迷する高校教育の一つの活路とも成りうるものと考えることができる。カリキュラムの一環として地域からの要請を学内の掲示板に貼りだし、生徒が自ら選択してボランティア活動に従事できる環境を整えて、地域社会とのネットワークづくりに努めるのがよいだろう。




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