■地域社会実態化に向けての社会の各構成員の役割分担と行動順序

[第一走者は地方自治体職員]

 地域社会の実態化に向けてアクションを起こすべきトップランナーの役割は、全国に三千三百ある地方自治体の職員に求められる。まず地域住民の参加意欲を喚起できる、地域の実態化を促進するための興味参加型の新たな地域コミュニティ・システムの開発と、そのコミュニティの更なる醸成をサポートするための装置としての様々な交流系施設の設置を推進することである。それによって生活の活性化と地域の実態化を誘導し、並行して、大手を中心とする産業社会と地域産業の水平分業的な協働体制をコーディネートして、地域の活性化を展望できる事業領域への参入を誘導するのだ。

 特に地域産業の生活産業化を促進する産業活性策は、生活の多様化のための支援と全体的な地域環境向上に大きな効果をもたらす。そのために、地方自治体が地域産業のために「出口」である新たな需要構造の創造と、そこに至る流通システムの開発を行なうのだ。

 これらのことは決して簡単な道程ではない。また、まちづくりを地方自治体が過度に誘導することも真に正しい方策とは思わない。しかし、豊かな地域社会を建設する義務を負う地方自治体こそがトップランナーとしての役割を担わなければ、いつまでたっても豊かな地域社会の実現に向けてのコトの始まりは起こらない。ヨーロッパの地域コミュニティは過酷な自然との対峙の中で、人間の命の存亡を賭けて育まれてきた。穏やかな自然に包まれている我が国で地域コミュニティを実態化させるためには、ヨーロッパの命を賭けた協働の歴史に匹敵する動きを人為的に行わなければならない。

 それは制度や金を用意すれば実現できるような類いのものでは決してない。少なくとも立ち上げ期に関しては、地方自治体職員個々人の知恵と汗にしか求めるところはない。豊かな地域社会実現に向けての地域コミュニティ創出計画は、ヒューマニティへの回帰を果たした地方自治体職員を主たる牽引役とする一種の地域革命なのである。

[第二走者は生活者]

 地方自治体職員による地域実態化推進の動きに呼応して生活の多様化を求めて行動をおこすべき次なる主体は、主婦を中心とする生活者である。生活の実態化こそが地域の実態化と地域コミュニティ、更には生活文化の醸成を導く。既に実感の時代にシフトした社会の中で、生活実感をベースとして自信を深めつつある主婦の行動力はますますパワーを強めつつあり、旺盛な知識欲と活動意欲は地域生活の実態化と多様化に大きく貢献することになる。

 生活を豊かにしたいという生活者自らの欲求と具体的な行動を如何に高めることができるかによって、地域社会実態化計画の成否は大きく左右される。活き活きと輝く生活の存在こそが豊かな地域の証なのだ。しかし、前述の地方自治体職員の地域実態化に向けてのセルモーター的活動も、地域住民側に呼応する動きが高まらなければ、民意の後ろ盾ない試みと化し継続は不可能になってしまう。

 また、地方自治体が働きかける興味参加型の地域コミュニティ実態化計画は、産業主体から見れば地域マーケットの顕在化促進計画でもある。地方自治体職員と生活者との協働によるこのような地域社会実態化促進活動によって、その後の地域産業の生活産業への転換や、大手企業の地域との連携などの各産業主体の地域戦略は大きな弾みが付くのである。

[第三走者は地域産業従事者]

地方自治体と主婦を中心とする生活者の動きに応えて、サードランナーとして行動を起こすべき主体が地域で生活者とともに生きる地域産業である。地域産業はいつまでも敗者の地位に甘んじて行政に保護を訴えるのではなく、隣人たる生活者に視点を合わせ、地域生活の豊かさに貢献する生活産業化の道を探らなければならない。地域産業の自立性強化の課題は、地域の自立性強化にそのまま繋がる重要なテーマなのである。

生活者に視点を合わせた地域産業の生活対応型事業開発によって、既に目覚めた生活者の多様な生活要求は高い実現可能性を持つことができるようになる。また、生活産業化による地域産業の活性は、雇用、地域環境などの地域の総体的なポテンシャルを押し上げる効果をもたらす。まさに地域産業は地方の時代の基幹産業であり、その動向は地域の今後の盛衰に大きな影響を与えることになる。

[最終走者は企業人]

 そして、そのような地域社会の実態化によってオルタナティブの社会が形成される中で、最後に地域に登場するのが大手企業である。この四者の社会の構成員の中で、最も実感の時代に対応するための柔軟性に欠けているのが企業社会であろう。企業社会が属人的体質を回復し、企業人が組織人でありながら一人の人間として世の中を眺め、自分自身の実感によって地域の望ましいありように向けて行動できるようになるためには、まだまだ多くの条件整備が必要であろう。現状では、企業が生活者に視点を合わせて地域社会に胸襟を開いたり、フットワークの良い動きを展開することは、いかに企業人が我に目覚めたとしてもやはり難しい面がある。

 したがって、企業が地域社会に参入できるようにするためには、生活者と地方自治体と地域産業が連携したある種の御膳立てがどうしても必要となる。地方自治体のコーディネートの下に地域産業と水平分業を図りながら、実態化した地域マーケットに対して新たな取り組みを行なうのである。現状では、地域は企業人にとって言語の通じない暗黒大陸でしかない。しかし、この難易度の高い地域への参入という課題を達成することによって、企業社会はポスト高度経済社会における新たな産業目標の獲得という大きな果実を手にすることができるようになる。




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