■情報化の進展が促す産業社会規模の縮小

現在の情報化の流れの中で、大きくクローズアップされているものの一つにインターネットがある。個人と世界を瞬時に結ぶこの情報ネットワーク・システムによって、ベンチャービジネスは大きく隆盛に向かうだろうと言われている。実際に、証券業界の株式委託手数料の完全自由化の動きに合わせて、インターネットを武器に取引を行う動きなども既に具体化している。個人に近い存在が、社屋や社員を抱えずインターネットだけを頼りに株の売買に参入できるのだ。その時の武器は手数料の安さである。既存大手は、逆に従来の規模の論理が足かせとなってダンピング合戦には付いてこれない。既存大手の顧客への情報提供機能と手数料ダンピングのゲリラの戦いはどちらに軍配が上がることになるのだろう。

しかし、経済拡大の推進役という、巷で言われる正義の立場とは逆に、インターネットという、個人情報にもかかわらず世界を瞬時でつなぐ情報システムは、現在の産業社会の少なからぬ部分に壊滅的な打撃を与える危険性をはらんでいる。様々な産業界に膨大に存在する、従来の中間産業の多くを瞬間的に駆逐してしまう可能性があるのだ。それは中間マージンの極度のダンピングによって実際のものとなる。作り手と買い手(BtoC:ビジネス・トゥ・コンシューマー)をダイレクトに結ぶこの情報システムは中間マージンを限りなくゼロに近づけるものであり、そしてその流れは最終的には中間マージンゼロの世界に到達することになる。製造者が消費者とインターネットによって直接やり取りをして、中間費用を負担すればよいのである。

土地・資本・労働は従来から生産の三要素といわれてきたが、実はインターネット・ビジネスはそのいずれをも必要とはしていない。

インターネットの普及は、中間マージンのカットと商品価格の大幅な値引き合戦によって、多くの価格対応力の低い中間産業や製造業者を駆逐するだろう。しかし、その流れは産業サイドにとって、何ら利益をもたらさない流れであるということができる。更にいえば、勝者のいないこの様な価格競争は、最終的に経済規模そのものの縮小につながっていくのではないか。

経済のグローバル化を支える情報化の進展は、皮肉なことにこのネット経済の具体化によって、比較的早い段階で現在の産業社会の枠組みの崩壊と、実体経済の規模縮小を導くことになるのではないかと予測することができる。しかし、だからといってもはや誰もこの流れに背を向けることはできない。このネット経済の普及によって、あらゆる産業は、アメリカと国内の異業種からの瞬間的な参入の危機に晒されることになる。価格破壊を伴なった強力な競争相手はある日突然インターネットに乗って現れるのである。


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