序章                    



■はじめに

明治以降、「近代化」と「富国強兵」を旗印に、我が国は挙国一致の体制で近代国家の建設に取り組んできた。しかし、その百年余の歩みは、いまだに私たちを穏やかで安定した社会へと導いてくれてはいない。男たちはいつまで企業戦士を続けなければならないのか。女たちは、消費社会を維持するために、いつまで街に出て買い物と食事を続けなければならないのか。

世の中で「サステナブル・シティ(持続可能な都市)」が標榜されたり、「豊かさ」が声高に求められるようになって既に久しい。そして、それらに対する希求は経済的発展と歩みを合わせるように大きくなっている。

経済的エネルギーは"変化"の中でこそ増幅される。したがって、"安定"は経済活性という観点から見れば、消費マインドを冷え込ませるもの以外のなにものでもない。企業社会は自らの安定のために絶えざる変化を求めるが、その変化は進めば進むほど人間から離れていく流れでもある。我が国の経済は西欧型社会への一大転換の流れの中で発展を続けてきた。変化の連続こそが安定的な経済的発展を約束するものであるが、我が国の過度に純化した経済一元化社会体制は、一方で経済活動の人間からの乖離と、何処まで行っても着地点の見えない不安定な状況をもたらした。

世界有数の経済大国になったにも関わらず、いつまでたっても次なる安定の時代に向かわない社会。モノに囲まれる中で逆に拡大する生活不全感が更なる変化を求めさせている。西暦二千年時代を迎えるにあたり、私たちは高度経済成長時代に築いた社会の枠組みを見直し、総力戦体制で臨んできた明治以降の経済百年戦争を早期に終結させ、安定に向けて着地できる新たな社会の枠組みを確立すべき時を迎えている。


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