T章.企業人たちよ

我に目覚めるか企業人




■はじめに

会社組織というものには、収益性の追求という目的以外には業務の取り組み方に関する具体的な行動指針が乏しい。したがって、本来ならば業務に取り組む際には社員個々人の自らの判断力が重要になる訳だが、組織への依存体質が強い会社人間にこうしたことを求めるのはいたって難しい。

一般的に言って、組織が小さければ、企業活動の全容を把握しやすい環境のおかげで、自分自身の実感をベースにバランスよくものごとに取り組める人間は出やすいが、組織が大きくなるほどそうした人間は生まれにくくなる。大手企業のサラリーマンの中に、自分自身の行動規範によって自らの業務の取り組み方を判断できている人間がどれほどいるだろうか。一個の人間としての視点を備えず、組織と資本の論理を背景に力技だけで業務を展開している者が大半だろう。また、そのような業務の取り組み姿勢に疑問を感じている人間すら少ないと思われる。

組織の一員としてではなく、一人の人間として問題を捉えなければ正しい判断はできないし、対応するための知恵も生まれない。どんな組織にいようと、一人の人間としての原理原則に立ち返ってものごとを考え、そして判断することが重要なのである。

 しかし、戦後半世紀続いた既定路線を大きく転じようとする社会全体のドラスティックな構造変革期に、ガバナビリティ(当事者能力)を持てない免責者の群れで構成される企業組織は、組織としての意志を確立させることができず、大きく揺れ動く社会の中でただ単に翻弄されるだけの存在となってしまっている。従来は企業社会のエリート集団として見られていた大手企業が引き起こす社会的な問題は、今や枚挙にいとまがない。

現在の私たちの社会は、こうした企業文化のレベル低下現象に足を引っ張られている側面が強い。また、個人の主体性よりも組織という抽象的な概念を重視する企業社会の体質は、社会の枠組みの変革期においては会社そのものの存在を危うくするものであり、その結果は社員にも深刻な影響を及ぼすようになっている。

今や企業組織は自助努力だけで変革の時代に付いていくことは難しい。二十一世紀においても、企業社会が自立した集団として堂々たる運営を行っていけるかどうかは、今まで軽んじられてきた構成員である社員一人ひとりの精神の自立性や、価値観の在り処にかかるようになってきている。



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