第2節.企業マネージャーたちよ


1.企業社会の変質とともに変わるマネジメントの仕組み


■誰も言わなかったマネジメントの本音

 個人の力量がさほど問われることのない職場で平準化された業務に携わるのは、よほど基本的な資質に問題を抱えた社員ではない限り、実は誰でも良かった。事業は人なり。優秀な人材が期待されているといった言葉は、建前としてはよく企業トップが口にする。酒場などで、「あの部署は俺のおかげで成り立っている。俺がいなければあの部署はとっくにつぶれている」というようなサラリーマンの酒の上の自慢話もよく耳にする。しかし、組織というものの実体は本当はそのようのものではない。我が国の企業組織においては、特定の個人があるポストにいなければ企業活動が円滑に推移しないことの方が異常なことであり、何ら個人に頼らずとも円滑に推移する組織こそが完成度の高い組織体だった。

 さらに言えば、このような特定の個人の資質に頼らないシステムの存在を背景として、年功序列制度は存在することができた。個人の資質はさほど問題とされず、概ね入社年次のバランスによって昇進が決まっていく。本来なら、このように不思議なことはない。部課長になるべき年次になったからそのポストに付くということは、とりもなおさず、社員の配置を適材適所という考え方で判断していないということになる。したがって、そのような昇進システムによってマネージャーになる人間に、本質的なマネジメント能力が期待されているわけではないのも当然であろう。 

 このように、個人の資質を問わないシステムで運営されるマネジメントの規範は、全て経験則に基づくものであり、会社という常識の呪縛が無言のコンセンサスだった。いたって漠とした会社という抽象の御輿を皆で担いでいたのである。「社の意向を確認します」「会社がウンと言うかどうか」社の意向とは具体的に誰の意向なのか。社長なのか、部長なのか。会社はウンとかスンとか言うものなのか。全ての意思決定の責任を抽象の世界に追いやり、経験則だけを頼りに暗黙の安全保障機構を作り上げ、その枠内で企業社会のマネジメント・システムは推移してきた。


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