2.具体的マネジメントの考え方


■一律ではない組織の誘導手法

 人間の集まりである集団の構成員を優劣という属性で分類すれば、どんな集団も必ず二:六:二という構成に分かれるという。優秀な二割と平均的な六割、そして落ちこぼれの二割である。効率化を図るために最後の二割を切り捨てても、残った八割からまた新たな二:六:二が生まれる。

 企業では入社試験という基礎能力の判定制度によって新入社員の採用が決定されるために、入社段階では全員の基本的資質のレベルは企業が求める一定の枠内にある。しかし、その能力レベルはものの半年と経たない内に二:六:二という構成比に分化を始める。もし、二:六:二が人間の集団の必然ならば、マネジメントにもそれに対応した展開が求められなければならない。

 一般的に、トップに位置する二割のグループは成績も優秀で、積極性にも溢れ、組織において最も期待されるグループと捉えられている。しかし、社会人として真に有能かどうかは、ストックしている技術や知識の量ではなく、自らの知識や技術の専門性を具体的な業務領域に転換する普遍化能力による。高い知識力や専門性を備えていても、それが却って世の中を素直に理解することを妨げることもある。

社会というものの実態は何か。学校では習わない、地域における生活の営みとは何か。そういったことと自らの高い専門特化能力とを具体的にどのように関連づけて業務化できるか。知識の専門性が高ければ高いほど、それを具体的な場に活かすためには高い普遍化能力が必要になる。最初の二割のグループに求められるべき資質とは、この非常に乖離幅の大きい、外に拡がる専門特化エネルギーと内に深まる規範の精神をつなぐ、精神的なフットワーク力なのである。

中間の六割の、日本のサラリーマンの最大多数を占めるグループのマネジメントについては、業務における社会性の意味と意義の啓発が重要なテーマになる。組織のマネジメン・トレベルはこのグループを対象として設定されているため、命令された仕事をこなすことは当然問題なくできる。しかし、社会と会社と個人の因果関係が自分の中で実感として理解できていなければ、業務に積極性は生まれてこない。そして、業務に対する積極性が生まれなければ仕事に知恵を働かすための環境が整わず、仕事の中に面白さややりがいといったものを顕在化させることもできない。

 自分が携わる仕事の中に創造性を発揮できる余地があり、業務が持つ社会性を感じ取ることさえできれば、人間は誰に管理されずとも積極的に業務に携わるようになる。つまり"やりがい"はその仕事が持つ「創造性」と「社会性」によって導きだされるのである。したがって、組織の最大ボリュームを占めるこの層に対しては、社会と会社と個人の因果関係を実感として理解させることによって業務の社会性を認識させ、一方で業務の中で創造性を発揮できる枠を与えることが必要なのである。
 
そして、たびたび仕事で失敗を起こすのが最後の二割のグループである。しかし、それは純粋にケアレスミスによって発生するというよりも、業務の意味と意義が正しく理解されていないことによって必然的に生じるケースの方が多い。

 このグループに属する人間は、社会、特にビジネス社会の理解が人間としての成長の過程で途中で止まっているケースが多い。営業は人をだます行為だとか、弱者の保護が企業活動に優先されるべきだといった、一面的な理解のレベルで社会の認識が止まったまま社会人になっている人間はさほど珍しくない。そのせいで業務の正しい意味が納得できない。むしろ、企業活動そのものに反社会性を感じて懐疑的であったりする。したがって企業の社会的必然性や業務の意義を正しく認識できず、ミスはその必然の結果として何度でも起きる。

 更に言えば、この属性の人間は表面的にはおとなしいが、実際は頑固なタイプが多い。頑固に自分の稚拙な意見に固守しているが、そのことはめったに他人に口外しない。だから仕事に適性はあまりないが、おとなしく素直な善人と他人からは思われやすい。しかし、実は決して曲げない稚拙な哲学を深く心に抱いている。

したがって、このグループには企業が第一義に掲げる収益活動の社会的な意味や正当性を正しく認識させ、そのうえで業務に取り組む心構えを辛抱強く教えなければならない。

 いずれにしても、マーケットも成熟社会の中で多様化、細分化が一層進行しており、今やマーケティング的に見て最大公約数に実像のない時代になっている。内に外に、全体を群で見るのではなく、個別に見ながらそれぞれに対応を図り、その中から新たな組み合わせ手法を編み出していくクリエイティビティや、精神的なフットワークの良さが企業マネージャーに求められるようになっている。


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