3.企業社会に過度に集中した雇用の分散化への貢献


■地域の雇用力回復の必要性

 高度経済成長期における我が国の雇用の責任は、圧倒的に大手企業に委ねられていた。少しでもよい大学に入ってよい企業に就職することを良しとする考え方は、地場産業経営者においても一般的だった。大手資本との負け越しにつぐ負け越しの歴史の中で地域の経営者は自信を喪失し、自らの事業の未来などこれっぽっちも信じることができなくなっていた。私が出席した地域商業活性のためのある会合の席上で一人の商店主がひたすら話す自慢話は、よい大学を出て有名企業に就職した息子のことだった。

 しかし、バブル経済崩壊後の不況が続く中、大手企業は一斉に雇用調整に入りだしている。社員の退職勧告と新卒者雇用の手控えである。日本中の労働人口が企業社会全体の雇用キャパシティを越えて企業に集中する、という構造にはそもそも無理があった。それにも関わらず、農林漁業、地域商業、地場製造業など、日本中の地域産業の子弟は企業を目指し、そして都会に集まっていった。現在、未曾有の就職氷河期のなかで政府は雇用の確保を大手企業の義務と位置づけてその履行を企業に要請し、新聞は雇用調整を大手企業のエゴとして書きたてている。しかし本当にそういうことだろうか。

 企業組織とは、所詮、事業収支の入りと出のバランスの中を漂う存立基盤のいたって不安定な存在にしか過ぎない。公的機関のように収益性とは無関係に恒久的に存続できる存立基盤を備えている組織体ではないのだ。どのような大手企業であろうと、入りを越えた出は当然のこととして企業を簡単に倒産に導くことになる。バブル期に膨らみきった贅肉を落とすために、企業はまだまだ今後も雇用調整を続けるだろう。

 失業や就職難などの雇用に関する問題の根源は大手企業の企業姿勢にあるのではない。それは、大手企業に日本中の雇用の義務を負わせた我が国の社会全体の責任である。いま必要なことは、雇用問題を大手企業の責任と攻めたてて起こるはずもない雇用回復を願うのではなく、本来、もう一方の雇用の担い手であったはずの地域の雇用力の回復を早期に図り、労働人口の適切な分散化を推進することである。さもなければ、マクロ経済社会の雇用キャパシティがますます縮小する中で、失業問題は今後も更に一層悪化の道を辿ることになる。

 しかし、現実には、地域産業を後にした子弟がリストラ後に帰り着く先は、今や地域には消滅してしまっている。地域産業の活性誘導によってマクロ経済と地域経済の適切な棲み分け状況を創出し、地域の雇用力の回復によって就職難民の回収を早期に図らなければならない。


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