■新たな後継者の育成

 無限のマーケットの可能性が信じられていた頃の企業はまさに輝いていた。企業人としてもやりがいにあふれていたことだろう。しかし、高度経済成長の限界到達とともにマーケットが有限であることが露呈してしまった現在、企業は所詮不安定な存在でしかないことが明らかになり、往時の輝きを失なっていった。いまこそ地域は企業社会に独占された人材を取り戻し、自らの再生を強力に推し進めるべき時期を迎えている。

 本来、仕事のやりがいは、自らの創造力を発揮するための自由裁量が許される一定の幅と、社会に確かに貢献出来ているという自覚が仕事内容に対して持てたときに猛然と噴出する。「創造力発揮の余地」と「社会貢献の確信」さえあれば人は放っておいても仕事に専心するということである。

 それでは現在の企業社会にこの二つのキーワードは存在しているだろうか。戦後の荒廃した社会の再建という課題を背負った企業社会の草創期においては、これらのキーワードは企業社会に確かに存在していたと考えられる。しかし、企業社会も成熟期に入るにつれて業務は形骸化し、処理のスピードと失敗の少なさだけが重視されるようになっていった。また、その活動は多分に自己目的化してゆき、ノルマに追い立てられて働くサラリーマンからは社会への貢献という精神は忘れ去られていった。後期資本主義社会への移行とともに企業社会は完全に往時の輝きを失ってしまい、創造性と社会貢献の自覚を無くした企業社会での労働は今や社員に何の社会的意義もやりがいも与えてはくれなくなってしまっている。

地方の時代到来の予感の中で、仕事のやりがいは既に企業社会から地域にスライドしつつある。地域社会の創造に貢献するための地域産業の意味と意義の再構築。新しい域内産業間のコミュニティチャネルを開発することによる積極的な地域再生支援。生活仕様の多様化の支援。それらの一連の取り組みは多分に創造力を必要とするものであり、かつ充分に社会正義に富む。地方の時代の基幹産業たる地域産業への労働力回帰の促進は時代の正義であるということができる。

何が働き甲斐か。自分という人間に最も合致した職種は何か。就職を控えた学生も、未曾有の就職氷河期にもかかわらず、相変わらず華やかそうに見える大手企業を何も考えずに目指すのではなく、卒業後長く続く社会生活の身の置き場を自らの見識で世の中を眺める中で決めていかなければならない。多軸化する時代の主要なベクトルの一つは、間違いなく"地域"にシフトしている。


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