■地域でのフレキシブルな雇用体制の創出

 高度経済成長の時代は経済効率を求めての都市化の時代でもあった。企業は事業の効率性を追求して都市に集中し、そして人々は職を求めて地方から企業が集積する都市に集まって郊外住宅地に居を構えた。長い人生を企業に依存しきることになるこのような就業動態は、企業による完全雇用、終身雇用を前提として成立している。したがって、このような就業動態の下では、企業社会が認める条件や能力に部分的にせよ欠ける人間には就職の受け入れ先は何処にも無い。

 一方、地域を単位とする地域産業の雇用はこれとは異なる形態をとることができる。地域に昔から張り付いている地場産業の大半は、所謂ローテク型で非近代的な業態が多い。しかし、ローテクゆえにあらゆる工程で人手を必要とする。企業効率が悪いということは労働需要があるということで、その人材の調達方法も、地域を共有する職場と住居の距離の近さから、一日のうちのある時間だけの就業という形態を可能にする。このような雇用環境を持つ地域産業は大手企業の完全雇用システムとは異なり、リスクの少ない効率的な雇用体制を組み立てることが出来る。

また、八時間勤務の完全雇用体制ではなく、数時間刻みで交代できるこのような生活とのリバーシブルな勤務体制は主婦のパート需要の拡大や、高齢化時代を迎えるにあたって今後問題となる高齢者の雇用問題にも対応できる能力を持っている。地域には優秀な技術を持つ定年退職者や、OL時代にキャリアを積んでいる子育て期を済ませた高学歴の主婦など、多彩な人材が幾らでも眠っている。彼らに新しい雇用の道を開くことは、地域生活者の生きがいや副収入の道を提供することになるとともに、地域産業側にとっても、中小企業ゆえに正式雇用では獲得することができなかった優秀な人材を非常に安いコストで得ることを可能にする。

地域産業の再生による地域の雇用力の回復は、従来の都市型企業社会の雇用パターンでは受け入れることが不可能に近かった生活中心型の主婦や、高齢者、更には障害者などを雇用する道さえも開くものである。


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