■中小製造業の新しい存立意義

 地域の製造業は地域社会の何らかの必然的な要請に基づいて存在していた。そして、その生産・供給活動は、同じく地域に必然性を持つ他業界との産業コミュニティによって域内で完結していた。しかし、地場製造業は、技術開発、商品開発のための消費者情報入手、量産体制、流通販路など、多くの面で自社内での自己完結力は低く、高度経済成長期以降の地域産業ネットワーク消滅の時代においては、我が道を行く地域完結型の経営方針が通用する環境は何処にもなくなっていった。

 技術力を持った地場製造業は、下請けでも大企業化でもない、突出した技術力を背景にオンリーワン企業を目指せとよく言われる。それはそれで確かに一つの答えであろうが、全国には三十万社という数の中小の製造業が存在しており、それだけの数の企業の未来に対する答えがその一言で済まされるはずがない。地域の必然に基づいて多くの中小製造業が地域単位に存在したのであるから、引続き多くの製造業が地域に存続するためには存続のための新たな必然性が構築されなければならない。その一つが地域を単位とする生活産業への転身にある。

 成熟社会の入り口にさしかかりながら、豊かさを実感するにはいまだに遠い所にある地域生活の実態。その問題に自らの製造技術をもってどのように応えていくか。地域生活に望まれる商品をどのように開発していくか。地域の中小製造業に望まれる存続の新たな必然性はこのような方向の中で開発されていかなければならない。そして、中小製造業の生活支援型商品製造業への業態変革をセルモーター役とすることによって、地域を巡る財と情報とサービスの循環の新たな地域産業ネットワーク構想は、初めて現実味を帯びることができるようになる。



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