1節.地域の自己完結力の回復に向けて


1.地域の経営という考え方について


■地域の主体性の回復に向けて

 住んで働いて憩う。人間の様々な営為が繰り広げられるこうした当たり前の景色を地域が無くして既に久しい。都市の論理とは経済効率の論理であり、経済効率を上位概念として地域毎に最も適切な機能だけを特化させて都市化は進められてきた。従って、市域や県域を全体的に俯瞰すれば生活を支えるほとんどの機能は充足しているが、地域を単位として見ればそこには生活の特定の領域を支える機能しか存在していない。そして、機能特化したそれぞれの地域を生活者が目的に合わせて移動するようになっている。機能の効率論から組み立てられた、生活の解体を促すこのような地域政策に地域の主体性を望むことは出来ない。効率的な都市政策という名のもとに地域生活の全方位性は完全に解体されてしまっている。

 又、地方には景気の変動に関わらず支出しなければならない経費は多いが、税収は企業からの法人事業税が中心で、景気が良ければ企業からの税収が伸びて財政は好転するが、悪ければ身動きが取れなくなってしまう。そして、不況による収入の減少によって個人の市町村民税も落ち込むことになり、財政は更に逼迫することになってしまう。

地域が主体性を発揮する術が無いこの様な現状の中で、どのような自立性を地域に期待することが出来るのか。地域が活き活きとした本来の姿に戻るためには、生活本来の多様性への対応力を地域が取り戻さなければならない。そしてそのためには、生活の全方位性に対応できるさまざまな機能が地域に敷設されていなければならない。それによって地域の内圧は高まりを持つことが出来るようになる。

地方自治体の中期ビジョンなどを見てみると、どの計画書にもいまだに人口増加が主要な目標として掲げられている。そして、その定住人口の増加目標に合わせて住宅政策なども掲げられている。しかし、高齢化社会を迎えようとしている我が国の現状の中で、活力ある世代を中心に、人口、世帯数が今後増加傾向に転じることはない。あらゆる分野に渡って量の論理が通用しなくなってしまった現在、地方自治体の政策ビジョンも質の時代に対応したものに変わっていかなければならない。

今後、地域に対して与えられる住みよさの指標は生活の域内完結力の高さに因るようになる。そして、域内完結力が高い豊かな地域を目指すためには、単純に定住人口を奪い合うような拡大の時代の常識だった量の論理に基づく政策ではなく、多様な生活の実態化を支援できる、生活人口や就業人口にも視点を据えた、質の論理に基づく域内完結性強化を目指した地域整備計画が推進されるようにならなければならない。

縮小化に向かうパイを奪い合うために激化する都市間競争、地域間競争に勝ち抜くための新たな地域戦略の基本は、従来からの拡大の論理の延長線上にではなく、生活本来の多様性を地域で受け止めることができる全方位的な対応力の強化というところにある。


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