■望まれる地域再生のコーディネーターの役割 

 他者からの情報操作を受けない限り、人間には新たな生活欲求(ニーズ)が次々と自然発生的に生まれることはない。ニーズというものは、すべからく外部からの企てによって芽生える。その様な需給関係の中で、生活中心の地域構造に近代化の論理によって機能の棲み分けをもたらしたのは大きくは国の政策であり、近視眼的には経済偏重社会の戦略だった。

 それでは今後望まれる地域構造に地域を誘導することが出来るのは誰か。地域におけるコミュニティはいまだに希薄な状態にあり、過疎なコミュニティチャネルしか存在しない現状の中で、そこに地域の実態を求めていくのは難しい。生活者が自発的に地域の総意を取りまとめ、自らの力で結束力を強めるという行動を取るための内的環境は未だ整っていない。その様な状況の中で、個人の権利の侵害につながる何らかのまちづくり活動を住民合意に基づいて推進しようとする行為は、既存の稚拙な地域コミュニティを瞬間的に崩壊させることにしかならない。

 一方、企業社会は人間に奉仕するという本来のスタンスに立ち返ることがなかなか出来ず、組織存続のための企業活動という自己目的化した世界に埋没していきやすい体質がある。又、企業社会にとって地域は意味不明の存在であって、地域と地域産業、地方自治体、及び企業の四者の中で最も遠い位置関係にあるのがこの企業社会と地域の関係であろう。企業社会が地域というものも視野に入れながらパブリックサービスという本来の企業目的に立ち戻るためには、それこそ革命的な努力が必要であろう。

 そして地域産業はといえば、企業の本質は企てを業とするところにあるが、中小の地域産業には社会に対して企てをはかるだけの力量がない。それどころか、地域で職住一体構造にある地域産業の盛衰は地域生活環境の有り様に大きな影響を与えることになるが、その責任を果たす前にまず自らの存続を如何に図るかが先決問題になっている。

 生活上位の望ましい地域づくりに向けて結実してゆきにくいこのような社会状況の中で、地域のあるべき姿に向けて各構成員を誘導する義務と可能性を備えているのが地方自治体である。地方自治体こそが地域の今後の望ましい方向性に各構成員の意見の統合を図り、その方向に向けて地域生活の実態化、地域産業の育成、そして企業社会との連携を推進していくことが出来る組織体なのである。

 しかし、地方の時代の到来が各界で望まれるようになっているにも関わらず、その主たる牽引役を地方自治体に求めようという動きはあまり顕在化してこない。黒子的な感のある組織ではあるが、地方の時代の到来の予感の中で、全国三千三百の地方自治体にこそ地域の経営者として各主体のエネルギーを地域に結実させるコーディネータ−の役割が求められなければならない。


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