●元の玄関の上にオーリエルウィンドウが個性的

ボリビア領事館
出典:「異人館復興」神戸市教育委員会=編
住まいの図書館出版局 住まい学大系091
所在地/神戸市中央区北野町4丁目
主要用途/事務所及び住宅(修理時)
修復設計・監理/神戸市教育委員会文化財課
日本建築セミナー 神奈川グループ 南雲一郎・秋山悠・中藤 修
施工/(株)奥野工務店
面積/主屋面積 建築面積  93.97u
        延床面積 157.60u
構造・階数/木造二階建、寄棟、桟瓦葺。和小屋組。外壁モルタル塗。
地域/伝統的建造物保存地区
工程・調査設計期間/平成7年4月‐10月
施工/期間 平成7年11月‐8年6月(8ヶ月)
暖炉は木製のマントルピースに替えて

この建物は山本通りの北に東西に走る道路と、北にのびる細い道の交点の東に位置し、南面して建つ。創建は明治三〇年代といわれている。戦前にはパナマ領事館として利用され、終戦後にシリア系ユダヤ人の住居となり、昭和三二年に現在の所有者が取得。昭和四七年よりボリビア領事館として一部使用されている。昭和三二年当時は、主屋の東には木造二階建の付属屋があった。附属屋には、一階に台所、物置、二階にトイレ、バスルームなどがあり、主屋とは一階および二階の渡り廊下でつながれていた。主屋の出入りは西面の玄関から、また当時から北面の下屋は存在していたらしい。用途は現在とほぼ同じく、一階を事務所、二階を寝室にあてていた。暖炉はその当時から使用せずにガスによる暖房を用いる。

大きな改変は昭和三三年頃に、玄関をベランダ西面に移し、従来の玄関を金庫室に改造した。昭和三九年に附属屋を取り壊し、鉄骨造の建物を建てたことである。同じ頃、南面ベランダの木製建具をアルミサッシュに交換された。登記簿によると、昭和三九年に木造瓦葺二階建、延べ一〇坪ほどの附属屋の取壊しが確認できた。1階は北側にホール、階段付き廊下があり、南に2室続いている。西側は応接室、東側は旧食堂(現在は事務所と呼ばれている)があり、引き込み戸で連なっている。南側はベランダであったが、改造され、玄関として使われている。当初の玄関は、西面北端の金庫室にあたり、門は西側の道路に面していた。2階は中折れの階段を上がるとホールとなり、西側に1室、南側に2室の寝室が連なる。南西はベランダとなり、ガラス入り建具が入る。応接室、2階個室の西面にはベイウィンドウがつき、また元の玄関の上の個室の西面にはオーリエルウィンドウがつく。ベイウィンドウは神戸の異人館によく使われているが、オーリエルウィンドウは珍しく、この館のひとつでもある。

 大きな被害は、屋根に2基あった煙突が折れ、屋根瓦を壊し落下していた。東側の煙突の落下により東面の窓回り、外壁等が損壊していた。外壁面は一部剥脱、内部は壁、天井とも亀裂が多く剥脱も見うけられた。床には部分的に不陸が見うけられた。南面を除く側柱筋及び廊下と居室境にあった基礎は、煉瓦を積み上げその上に加工医師をまわして、土台を受けていた。ベランダ南側、北側とも中央部に独立基礎があり土台を受けている。西面、南面にも沈下が見うけられた。1階玄関ホール、応接室、事務室の軸組をジャッキアップし、不陸の調整を行った。土台および柱脚部に一部腐朽が見うけられた。1階床組は大引500mm内外に配し、直接、荒床杉板15mmを受け、この上に18mmのフローリングが貼られていた。応接室は、不陸調整のため荒床と仕上材との間に平使いの根太を用いていた。1階の玄関ホール、応接室、事務室、2階個室の床は解体撤去し、床組調整の上、合板厚さ12mmを下地張とした。2階床組では応接室、事務室の境に大梁がありこの中間に直交して小梁を渡し根太掛をしていた。小屋組は和小屋組屋根は土居葺に桟瓦であった。破損部周辺の瓦を取り除き、葺き土を新たに敷き直し、再利用可能な瓦及び補足瓦にて施工した。軸組断面寸法は隅柱は140〜150mm角、柱は20mm角前後、ベランダの柱3本は200〜210mm角と太いものを使っていた。内壁は貫を4段取り、貫の間に間渡し竹を3段に組み荒壁下地漆喰仕上げとし、応接室、事務室の境は木小舞下地で納められていた。外壁は平瓦下地にモルタル仕上げであった。玄関ホール、応接室、事務室、3室の個室の壁は解体撤去した。間柱は45mm角以上のものを、間隔455mm以下に新設、上下は土台、胴差しに固定。しかし納まり上、前記仕様が困難なときは、受材を設け、これに間柱を固定した。間柱の横に目地受けを配し構造用合板厚さ12mmを打ち付けた打ち付けたさらに小割材にて下地を組み、石膏ボード厚さ12mmを打ち付け打ち付け表面仕上げは玄関ホール、個室、応接室、事務室は、アクリルエマルジョンペイント塗装、また2階の3つの個室はビニールクロス貼りとした。応接室、事務室の天井は下地とも解体撤去した。仕上り面は既存天井に倣い下地を組み、石膏ボード厚さ9mmを打ち付け、パテ処理の上アクリルエマルジョンペイント塗装とした。まわり縁、繰形を既存に倣い木製で復元した。軒まわりは部分修理、煙突は所有者の要望により再建せず、2階ベランダ東端に便所を新設した。