「旧槌橋家住宅主屋」は、大正十二年に建てられた木造二階建て。大正から昭和初期の洋風建築を現代に伝える貴重な建造物として、今年十月に国の文化審議会で登録有形文化財となることが決まった。
ただ、建物が古いうえ、平成七年の阪神大震災で被災。登録決定前、保存を続けるには大幅な修復工事が必要とされて困った所有者夫婦が、建物を取り壊して敷地を売却し、分譲マンションを建てようと考えていた。
それに対し、文化財としてのこすように説得したのは、所有者の息子で映画監督の槌橋雅博さん(三九)。両親と話し合って、洋館を保存したままでマンションを建ててくれるデベロッパーを探し、建設を依頼した。
計画では、マンション建設後、洋館は共用部分として残し、パーティーを開ける集会所や住民の交流スペースなどに活用する予定だという。
文化財保護法によると、登録有形文化財は近代を中心にした身近な文化財建造物。所有者変更などの際に文化庁長官に届け出を義務付けるなど保護に努めることがうたわれているが、重要文化財や国宝とは違い、取り壊しを禁止する規定はない。文科省によると、保存費用に困って取り壊される例も多いという。
このため今回の活用方法については、北野地区の異人館街をはじめ、古い西洋建築が数多く残されている地元・神戸の関係者からも注目を浴びている。
三浦明定・北野異人館協会長は「建物は使いながら保存するのが一番で、今回のケースが神戸らしい活用法として定着すれば」。文科省も「外観を変更しなければ、保存しながら活用することに問題はない。画期的といえる」としている。
槌橋さんは「洋館は大正時代の貴重な芸術作品。アーティストとして芸術作品を後の世に残すのが私のつとめと考えました」と話している。
(写真)…大正末期の建設当時の旧槌橋家住宅主屋(上)とマンション共用部分として残されることが決まった現在の様子(下)=神戸市長田区池田寺町
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