これまでにない注目のすまい・まちづくり
著名な建築家が¨競演¨
夙川「グローカルヴィレッジ」始動
話題の すまい・まちづくり公開ミーティング 10月2日開催
夙川の人気レストランで一般の参加募る
 「これから始まるまったく新しいすまい・まちづくりに向けて公開ミーティングを開催します」「著名建築家が、この街の魅力をさらに引き出すようなすまい・まちづくりのあり方について語り合います」――1920年当時、もっとも先進的だったライフスタイル「阪神間モダニズム」が花開いたエリアの一画、西宮・夙川地区。ここを舞台に学識者や建築家、事業者の産学と市民が協働する、これまでにない形での建売分譲住宅地開発プロジェクトがスタートする。署名な建築家四氏が地域の持つ魅力を踏まえ、「街の大切な資産として受け継がれる住宅地」のあり方を提唱する。これに先立って開かれる公開ミーティングが話題を呼びそうだ。
「夙川」の街さらに魅力的に
プロジェクトは、「夙川グローカルヴィレッジ(仮称)」。関西電力の所有地を対象に四区画の建売分譲住宅地として開発する。事業主体は、関電(土地売主)*注1とノバック(建物売主)で、郊外住宅研究家の角野幸博 武庫川女子大教授*注2が事業全体をコーディネートし、木村博昭、小山隆治、竹原義二、竹山聖の国内外で活躍する建築家四氏が各区画ごとに住宅を設計する。企画・事務局はコーポラティブ住宅などで実績のある都市コーディネーター、キューブ(神戸市、天宅毅社長)。
 通常の建売住宅の開発手法と最も異なる点は・地域が持つ魅力をすまい・まちづくりに反映させる点だ。計画段階からここに住みたいと考える方や地域住民の意見も取り入れ、事業者側の考えも踏まえながら専門家が調整したうえで、複数の建築が協調しあいながら個性を競い合い、すまい・まち並みを創造していく。
 社会的な要請である環境共生を実現し、性能的にもデザイン的にも幾世紀にわたって受け継がれる「持続可能」なすまいづくりと、地域に溶け込み、地域全体のまちづくりを建売事業でも先導できるような開発とすることで、これからの新しい住宅供給の方向性を提示するのが狙いだ。
10月2日には「夙川すまい・まちづくりミーティング」が開かれる。場所は計画予定地近くで、地域のイメージを象徴するような贅沢な空間を持つ人気スポット、西宮市久出ヶ谷町のアンティパストレストラン「Tapas(タパス)」。午後三時半から始まる。
参加者はコーディネーターの角野教授、建築家四氏のほか事業関係者らで、プロジェクトに関心がある方々の一般参加を広く受け付ける。企業体が主体となって行うすまい・まちづくりへの参加の機会はめったにないだけに、新しい発見がそこにはある。
街づくり〜これからの視点 実践・産学と市民の協働
夙川グローカルカレッジの試み
住宅供給の新モデル 建売方式の限界打破
夙川という独自のステータスを備えたエリアを舞台に、持続可能な住環境の創造と地域への貢献を建売住宅の範疇の中で達成しようと始まったすまい・まちづくりプロジェクト「夙川グローカルヴィレッジ構想」。産学が連携し、さらに地域住民が参加してつくるユニークなプロジェクトだ。事業をコーディネートする角野幸博武庫川女子大学教授に意義を聞いた。
地球的で地域的
――まず、事業の方向性をうかがいます。
「夙川地区が持つ魅力やステータスあるいはブランド性に融和し、それらをさらに引き出していけるような街づくり、そして環境に配慮し、幾世代にもわたって快適に使える持続可能な住まいづくりも行い、住宅供給の新しい形として、これからのモデルになり得る事業として取り組みます」
「プロジェクト名の『グローカル』が事業コンセプトを表現しています。グローバルとローカルの合成語で、地球的・世界的であると同時に地域的でもあるという意味。まず環境・経済・資源などのグローバルな視野からアプローチし、そして地域との共生を目指す」
――地球環境にも配慮した街づくりを行い、同時に夙川という地域に溶け込み地域全体の新しいイメージづくりを先導する。
「そうです。そのために@供給側A需要者側B地域―の3つの視点から事業の意義を探っていくことが必要になります。まず供給側。事業用地を所有する関西電力が事業主体として参加しますが、エネルギー企業が消費者と電力以外の部分でどう関わり、どう地域に貢献できるか。対象地は小規模な土地ですが、使い方次第でその地域にとってプラスになる。その答えの一つが街づくりへの参画です」
――そうした、いわば遊休地的な同社の用地はここ以外にもたくさんある。
「それだけに今回のプロジェクトが大きな意義を持ってくるわけです。小規模な土地でも、地域に溶け込み、地域に歓迎されるような、『質の高い街づくり』という形で地域に十分貢献できるとなれば、そうした遊休地活用の方策の一つとして成立する」
「何よりもこれまでの川上産業としてのイメージから、地域に密着した企業体としての認識を生みだし、『グローカル企業』としてイメージの一層の向上と転換も期待できる。そして、関電自体の活動の幅も広がります」
――需要者側にとってはいかがですか。
「ここが大きなポイントです。このプロジェクトは基本的には建売方式の分譲地開発になるわけですが、計画の段階から周辺地域の住民、そして将来この団地に居住しようとされる方々の意見や考えを取り入れていく。4名の建築家が一区画ずつ住宅を設計する。これが通常の建売とは最も異なる点だといえます」
「地域住民の声を取り入れることで、街として地域に溶け込み、これからの地域の街づくりのあり方を提示できる開発計画を実現する一方、居住したいと考える方々の声を参考にすることで、よりニーズにあった住宅供給を具体化させる」
「さらに、単独の建築家が計画全体を仕切るのではなく、複数の建築家が協調しあいながら個性を競い合うことで、結果的に街としての深みが生まれ、街並みにも持続性が生まれる。建売方式の限界を打破しようというわけです」

従来にない空間
――建築家が設計した家というコンセプトの建売供給は一般によく行われていますが。
「計画段階から将来の住居者や周辺住民の意見をもらったうえで、供給側の考えも反映させながら、建築家がその設計能力やデザインセンスを注入するという例はあまりない。従来のいわゆる紋切り型の建売住宅とは違うデザイン・空間の家が出来上がっていくことになるでしょう。とはいっても事業のカテゴリーはあくまでも建売方式。価格面でも供給側の販売に対するイニシアティブが働くから、この地域で土地から入手して注文住宅で建てるよりも当然割安になるでしょう」
――環境共生に向け『サスティナビリティー(持続可能性)』の考え方も導入する。
社会要請に合致
「建物そのものをスチールハウスで建て、オール電化やエコキュート導入など、現段階の最も新しい環境共生技術・住宅設備機器を提供する予定です。まずスチールハウス。2×4住宅の部材を鉄鋼に置き換えた住宅で、北米で普及しており日本でも高炉大手製を軸に年間2千棟供給されているそうです」
「木造2×4と同様、面体構造なので耐震・耐風性が非常に高く丈夫で長持ちする。構造躯体に木材資源をほとんど使わないし、建物の取り壊しスパンが長くなり廃棄物発生も抑制できるうえ、鉄はリサイクルが容易です。環境共生・持続可能な住まいづくりという社会要請にも十分合致する」
――スチールハウスは高炉大手の神戸製鋼所が供給する。
「スチールハウスでは欧米で一般的な外断熱も行われている。建物全体を断熱材ですっぽり覆うための空調もコストも圧縮できるしオール電化や排熱利用のエコキュートの組み合わせなどで、電力消費も抑えられ結果的にCO2(二酸化炭素)排出削減につながり、住みながらにして環境貢献ができる。こうした部分も居住しようと考えられる方々の評価対象になるでしょう」
――『地域』からのアプローチは?
「普遍的なニーズもさることながら、『この街に住みたい』『夙川のこの界隈に住みたい』という方々が満足できる計画を目指します。そうした方々が実際に居住することでその地域が住宅地として、街として新しい魅力を備える可能性があるからです」
「もともとこの界隈はリゾート地として開発された場所で1920年代の『阪神間モダニズム』の実践が行われていた地域の一つでした。しかし、いろいろな住宅がばらばらに建っていくことで街が本来備えていた魅力が喪失しかねない」
「そうではなく、夙川という独自のアイデンティティを受け継ぎながら、それを外部に発信させていく。その手本になるようなプロジェクトにしたい。だからこそ、この地に住んでいる人、住みたい人にプロジェクトに参加していただきたい」


「完成楽しみ」に

――10月2日にプロジェクトの予定地近くのレストランで開く『夙川グローカルヴィレッジすまい・まちづくり公開ミーティング』はそのためですね。
「そうです。わずか4区画ですが、れっきとした街づくりです。それに住民そして居住者がどうかかわるのか。プロジェクトに参加する4名の建築家と参加企業を交えてミーティングしていきます。街づくりに参加した方々も完成が楽しみになるはずです」

角野 幸博(かどの・ゆきひろ)さん
1978年(昭和53年)京大工学部卒、80年京大大学院修士課程修了、84年阪大博士後期課程修了。武庫川女子大生活環境学部教授、同生活美学研究所教授。都市計画、住環境計画が専門。「郊外と20世紀」(学芸出版社)など著書多数。工学博士、一級建築士。55年京都生まれ。
大手企業軒並み協力
街づくりの手本に
 【(仮称)「夙川グローカルヴィレッジ」構想】
グローバルとローカルの造語「グローカル」は、地球的規模の視野を持ち、地域の固有性を十分に反映するという意味。同プロジェクトではこれを実践するため、まず環境共生・ユニバーサルデザイン・省エネルギー・長寿命といった視点から、将来における社会的生活基盤になるような住まいづくり(=グローバルなアプローチ)を行う。
同時に夙川という地域性に配慮、地域独自の町並みに融和しながら、地域が持つ独自のステータス性や環境形成をリードし醸成できるようなまちづくり(=ローカルなアプローチ)に取り組む。全体として「夙川という独自のアイデンティティを受け継ぎながらそれを外部に発信していく」(角野教授)。その手本となるようなモデルを指し示すのが狙いだ。
住宅づくりに関しては、丈夫で長持ちし部材も再利用が容易な住宅工法のの一つのスチールハウス工法を採用。長期耐用による省資源化と、社会インフラとなり得る住宅づくりの推進という社会要請に対応する。さらに、エネルギー効率のよいエコキュートをはじめとするオール電化システム、最新の住宅設備機器などを導入、家庭レベルで地球温暖化防止への炭酸ガス排出量削減にも役立てる。
プロジェクトには、スチールハウスの神戸製鉄所や松下電器産業、三洋電機、クリナップなどの大手メーカーのほか、関西電力グループからはケイ・オプティコム、関電SOS、関西住宅品質保証が協力し、これらの技術を提供する。
一方で、すまい・まちづくりを先導するというコンセプトを決定づけるため、市民の声も反映。専門家のコーディネートのもと建築家4名が参加、協調しながらそれぞれが個性を出し合うことで、画一的に陥りやすいた建売分譲の事業スタイルに一石を投じる。
8月17日には関係者が集まり、地球的規模のしやを確認し、事業の方向性を協議する。「グローバルアプローチ検討会議」を開催。10月2日には地域の固有性を確認し、事業の方向性をさらに協議する「夙川すまい・まちづくりミーティング(ローカルアプローチ検討会議)」を公開開催する予定で、産学・市民による前例のないすまい・まちづくり事業が佳境に入る。
住まいづり考
スチールハウス
鉄鋼版の2×4
 スチールハウスは亜鉛メッキの鋼板の形鋼を使用した非溶接接合の建築工法で「鉄骨2×4」とも呼ばれる枠組み壁工法。2×4工法では木材で枠をつくり、合板などの面材を釘打ちして壁や床を構成、箱型に組み立てるが、この木材枠組みを厚さ1o程度の亜鉛メッキ鋼板を冷間形成した軽量形鋼(薄板軽量形鋼)に置き換えるのがスチールハウスの工法だ。
施工は基本的に木造2×4と同じプラネットフォーム工法で、耐震性が高く耐久性にも富む丈夫で長持ちする住宅だ。構造も外断熱工法を採用、エネルギー効率も高いうえ、鉄はリサイクルしやすいなど、まさに持続可能な環境共生の実現を可能にする工法といえる。
約30年前に北米で始まり、米国では年間10万戸超の着工がある。日本では阪神大震災の復興用仮設住宅にスチールハウスが約3千戸輸入されたことから建設がスタート、神戸製鋼所をはじめ高炉会も95年から開発、すでに全国ベースで累計6500棟以上が建設されており、今年度は同約2000棟になる見込みだ。
夙川グローカルヴィレッジ構想
例のない住宅づくりへ建築家4氏腕競う
 「夙川グローカルヴィレッジ」プロジェクトでは、国内外で活躍する著名な建築家が夙川という地域性を踏まえ協調しあいながら個性を競い合う。ケイズアーキテクツの木村博昭、小山隆治建築研究所の小山隆治、無有建築工房の竹原義二、設計組織在アルモフの竹山聖の4氏だ。10月2日、レストラン「タパス」で開かれる「夙川すまい・まちづくりミーティング」でこの街に住みたいという市民の声も取り入れて作品=住宅に取り組み、これからの住まいを提唱する。4氏が事業に寄せる考えを語った。
建築家  木村 博昭氏
居住者の夢具現
住宅の敷地、クライアント(居住者)の暮らし方も様々である。
住宅の設計とは、空間の構成、予算、構造や素材の選択といった現実的な¨格闘¨を通してクライアントの夢を具現すること。
そして暮らしの可能性が膨らみ、感性に響く空間提供ができれば成功だと考えている。

<代表作>
【3in1House】小規模集合住宅、3世帯の戸建て住宅が、それぞれに別の外部空間を持つ1軒に集合した住宅。
【Glider House】傾斜地の景観を最大限利用し、浮遊感のある住宅。

<プロフィール>
木村 博昭(きむら・ひろあき)さん グラスゴー大学スカラhシップ博士課程、C・Rマッキントッシュ研究所で博士号取得。1983年にKs Architectsを大阪で共同開設、86年に現在の木村博昭ケイズアーキテクツに。2000年から神戸芸術工科大環境デザイン学部教授。92年にSDレビュー入選、92、97、00年に大阪建築コンクール地事賞、98年建築士会連合会奨励賞など受賞多数。大阪府生まれ。
*注2
建築家 小山 隆治氏
新たな生活感を
建築が姿を見せ作り手を離れて『物』となったとき、姿、空間をあらわに実在させてしまうことを意識する。デザインされた最終形に作り手の個性をも含んだ確信のある答えを『物』にまで昇華させることが大事だと考える。建築が体感されることで、生活に新たな価値・豊かさを与えることを目指している。実質的な空間の質に対し果敢に挑戦し、新たな生活感の提案をしたい。

<代表作>
【関目の家】3世帯共同生活体のための住宅。「居場所とその主体」をテーマに、キッチンを一ヶ所に集め1フロアーに3家族のためのダイニングテーブルを配置、個人間での間の取り方が自由に図れる住宅。
【プラグハウス】団地開発された山の突端の敷地。この敷地の場所性や住宅の固有性は吹き上げられる南東風にあると確信、RCの耐力壁による木造大屋根の混構造住宅とした。

<プロフィール>
小山隆治(こやま・りゅうじ)さん 1985年から欧州建築遊学。92年に小山隆治建築研究所設立。立命館大、関西大などで講師。主な作品に「よろい格子の家」(00年)、「黒壁の家」(05年)など。兵庫県生まれ。
建築家 竹原義二氏
内と外の呼応を
建築家 竹山 聖氏
無為の豊かさへ
身体・精神の快楽のバランスのとれた住まいがよい住まいだと思う。日々発見があり、新たな喜びと生きる力の湧き出すような、光の動きや雲の流れをぼんやりと眺めて無為の時間の豊かさを感じられるような、そんな住まいでありたい。

<代表作>
【REFRACTION HOUSE/安城のスタジオ】アート好きなレストランのオーナー。いっそのことアトリエに住んでしまおう。光と風の注ぐ真っ白な空間に。 
【大覚寺の家】30代独身女性の住まい。カラダを洗うお風呂とココロを洗うお風呂を分けてしまおう。カラダのお風呂はガラス張りのボディシャワー、ココロのお風呂は真っ赤に紅葉する庭を望む広場の真ん中に。

<プロフィール>
竹山 聖(たけやま・せい)さん 京大工学部建築学科卒、東大大学院に。1979年に設計組織アルモフ創設、82年に博士課程を修了し92年から京大助教授。 94年アーキテクチュア・オブ・ザ・イヤーなど多数受賞。大阪生まれ。

その場所の特性を生かした住まいづくりは街並みの形成に繋がっていく。良質な住まいとは、風が通り抜け光が室内に降り注ぐ、内と外が呼応するよう生活の知恵が織り込まれたものだと考えている。住まいを取り巻く状況は現在、大きく変わりつつある。時間の流れの中で見落としがちな大切なことを見つめながらもう1度住まいの在り方を見直してみたい。

<代表作>
【101番の家】内と外が呼応する住まいの在り方を、工法・プランニングなどさまざまな試みを実践した住まい。

<プロフィール>
竹原 義二(たけはら・よしじ)さん 1975年美建・設計事務所に。78年に無有建築工房設立。2000年に大阪市立大学大学院生活科学研究科教授に。84年渡辺節賞、97年関西建築家大賞。92、01、02年に建築士会連合会優秀賞、99年―02年に3度日本建築学会作品選奨、99、00、03年にはグッドデザイン賞など受賞も多数。「石壁の家」(91年)、「海椿葉山」(99年)など。
住宅流通新聞2005年9月30日
*注1:本事業用地は関電からノバックに売却され、ノバックによる分譲事業として販売を開始しております。
*注2:本記事中記載の肩書き等は記事当時のものです