建築知識 2000年8月号
FOCUS OF TOPICS
スケルトン定借の関西第1号が竣工
設計、施工会社選定はコンペで
自由設計と定期借地権を組み合わせた「スケルトン定借(つくば方式)マンション」の関西第1号となる「塚口コーポラティブハウス」が6月、兵庫県尼崎市に竣工。見学会と公開セミナーでは、ディベロッパーや設計事務所関係者など約260人が詰めかけ、関心の高さを示した。今後、新しいシステムとして普及していくためには、どんな事業・設計計画を立て、地主と入居者に何をアピールしていけばよいのだろうか。
「塚口コーポラティブハウス」は、神戸と大阪の間、阪急塚口駅徒歩4分という利便性のよい土地に建つ。敷地面積約650u。地主の増田裕弘氏が、'98年3月に住宅金融公庫大阪支店の主宰で開かれた土地活用シンポジウムに参加。土地活用の方法として、スケルトン定借の面白さを知り、マンション建設を決めた。
建物の規模はRC造6階建て延べ1370uで、1階には242uの整形外科医院、2階から6階のマンション部分に11戸が入居。住宅は専有面積69・5〜99・9u
、取得価格は2608万〜3897万円(地代戸当たり月約2万円)。
事業化への流れは図2の通りである。8月には全体設計・収益計画を選ぶ公開コンペが実施された。1階に整形外科医院を設け、2階以上をマンションとする条件で、キューブ、ヘキサ+アタカ工業+金山工務店JV、佐藤工業の3グループが参加。この結果、ほかの2社がゼネコンとのジョイントだったのに対して、単独で参加したキューブ(神戸市中央区、天宅毅代表
取締役)が当選した。 |
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提案力が重要
天宅毅氏(35歳)は、企画のアピールポイントを次のように語る。
「単純にスケルトン定借の既存フレームを踏襲するだけでない、新しい事業計画の提案行ったことが評価された」
天宅氏は阪神・淡路大震災後にキューブを設立、被災地の集合住宅の再建に携わってきた。区分所有者の合意形成を前提とした区分所有権の問題や困難さ、矛盾に数多く直面してきたという。この限界を切り開く手だてとして、スケルトン定借に着目、研究してきた。今回は、会計事務所と不動産鑑定士とのチームを組んで、等価交換による定期借地権設定プランを提案した。
またキューブは、施工会社の選定に、前例のない方法を採用。コストの上限を提示し、建物の耐久性や将来的な設備の更新性についての技術提案を競わせるコンペを実施した。最終的に入居予定者らによる投票で、不動建設に決まった。
天宅氏はコンペ実施の意義について、「メンテナンスの知識は施工会社に蓄積されている。これを出してもらうためのコンペ。不動建設が出してきたスペックをもとに、耐震設計には定評のある馬瀬構造設計事務所(大阪中央区)と協議し、構造計画を考えた。コンペを繰り返すことによって、それぞれの専門家のノウハウが生かされている」と語る。
耐震性向上対策と設備更新
次に躯体の特徴をみてみよう。100年以上の耐久性をもたせるため、耐用年数区分T級の基準を満たし、設計用地震力を1割増しとした。また、阪神・淡路大震災でみられた繰返し過大地震入力に対し、塑性ヒンジ域のコンクリートを保護し、十分な変形能力(靭性)を得られるように、以下の配筋方法を用いた。
- 柱フープについては、各階とも柱頭1D、柱脚1Dの範囲内にコンファインド拘束筋を入れる
- パネルゾーンはフープとしてD16
@100とし、圧接閉鎖型筋を使用
コンファインド拘束筋とは、「@50前後で配置された格子状のフープで、繰り返し強制変形を受けたとき、このフープで囲まれた内側のコンクリートが、外へはみ出さないように拘束保護するためのもの」(馬瀬構造設計事務所・小島達男専務取締役)であり、全国的にも採用例の少ない工法である。
また、躯体保護のため、屋根だけでなく上層階の外壁仕上げにも、断熱性能の高いアルミパネル(2重防水システムのパネル屋根)を使用、躯体外部で防水および断熱を行うようにした。
一方、将来の設備配管の老朽化については、取替えの容易性と、すでに一般に評価の確立した技術的合理性を両立する方法として、横引き排水管を極力短くし、あえて専用部分内に共用竪排水管を設置。また、居住したままの更新を図るため予備スペースも確保した。
今後、市場は評価するのか
11戸の入居者は20〜70代と幅広い。建設組合の理事長を務め、2階に入居する泥川晃三氏(70歳・税理士)は、スケルトン定借を理想のかたちだと認める1人だ。
「震災前は、西宮の築16年の分譲マンションに住んでいたが、震災で半壊。修繕、あるいは建て替えたとしても、今後20〜30年で直面する老朽化の問題、大規模修繕の合意形成に煩わされたくなかった」
また3階に入居する高見到氏(40歳・会社員)は、「もともと、区分所有や、マンションを財産だと考えることに抵抗が合った。今回の事業に参加した一番の魅力は、自由に設計できる点。それに分譲の4割安という価格にも魅かれた」という。18畳のオーディオルームやベッドルームに大満足な様子。
コーポラティブと聞いただけで、度重なる組合集会の多さを想像し、後ろ向きになってしまう人も多い。天宅氏は「赤の他人が集まって議論をしても遺恨を残すだけ。事前に個々の意見を公平に吸い上げることがコーディネーターの役目」と考え、組合集会は6回しか実施していない。
関西におけるスケルトン定借は、尼崎の第1号に次ぎ、第2号となる「芦屋プロジェクト」(阪急電鉄・三井建設JV)が、来春の完成を目指して進められている。またキューブでも、長田区で計画中である。
今後、スケルトン定借を利用した新しい事業が動き出すのか―全体の事業コーディネイトにも、独特のプランを創出できるかにかかっている。 |
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