関西発オンリーワンを目指して 〜 土地開発ビジネスの展開
神戸北野町コーポラ事業 ”塩漬け地”を再生
長引く不況を背景にした企業部門からの土地の放出などで新規マンションの大量供給が続いているが、高さ規制や変形地形など様々な制約から、潜在需要があり優れた立地条件にも関わらず利用の糸口が見えない「塩漬け」の土地も増加している。これをいかに蘇らせるか。都市コーディネーターのキューブ(神戸市、天宅毅社長)はコーポラティブの手法を軸に、きめ細かな企画と多彩な手法の融合で消費者と土地所有者双方のニーズを満たしながら、「生きた土地」に転換するビジネスモデルを構築、都市再生を実践する。
採算面で開発会社敬遠も潜在需要
4階建て総9戸のマンションにキューブがコーポラで
160坪・13m高さ制限・8m接道・・・
キューブが手がけた中規模・変形敷地の再生事業のうち最新の事例が神戸市・北野町のコーポラティブハウス事業。
異人館が点在する観光地・北野通りから一歩入った住宅地内で旧サッスーン邸向かいの土地が計画地だ。
エキゾチックな雰囲気に包まれながらも観光通りから少しそれており、「鳥の声ぐらいしか聞こえない」(天宅毅キューブ社長)閑静な立地であるうえ、都心・三宮駅から徒歩十三分。南面向きひな壇で市街と港が一望できる「住宅地としては日本中探してもないような立地」(同)条件だ。にも関わらず、土地の活用の「道が閉ざされていた」(同)。
事業地はもともと神戸の洋菓子会社の所有で、明治期築の古い洋館と社員寮・菓子工場が併設されていたが、阪神大震災後に洋館を移築・保存。寮・工場も閉鎖し所有者は処分する考えだったが、「条件的に使い方が非常に難しい土地」で具体的な事業プランがなかなかまとまらなかった。
面積は五百二十六・八九u(約百六十坪)あるが、前面道路に八mしか接道していない東西に長い変形敷地で、北野町山本通都市景観形成地域に位置し、十三mの高さ規制などがある。これらの規制によって地域の良好な住環境が担保されているものの、高度利用を図るマンション事業を計画することが不可能なうえ、観光通りから少しそれていることで観光客相手の商業用利用もしにくい。デベロッパーにとっては規模的にも採算面から手を出しにくい土地で、供給者側の理論に立つと利用価値を見出しにくい土地だった。
キューブはこれを生きた土地に再生する。同社はまず、対象地区の市場性を勘案。最も北野らしさが感じられる北野町一、二丁目界隈での供給は三十年間ほとんど出ておらず、この地区特有のステータスに対する潜在需要は満たされていないと予測できた。そのうえで、あらかじめ参加者(=居住者)を募り、参加者が事業主体となる組合をつくって事業化するコーポラティブの手法をはめ込む。 ここに居住したいという需要者側の論理で事業化しようというわけだ。
具体的にはベースになる建物の仕様などマスタープランを策定、それに基づいてゼネコンから見積りをとり、事業計画をまとめた。この計画に基づき、土地の売買条件について土地所有者の合意を募る一方、参加者の募集に取り組んだ。マスタープランによると建物は地上四階建てで、建築面積は建ぺい率をフルに活用した三百十五u、延べ床面積九百三十五u。事務所床一戸を含む総九戸、駐車場率100%のマンションで、専有面積は約六十二―約百十六u、2LDK−4LDKの参考プランを提示するがインフィ ル部分は基本的に自由設計で参加者のニーズを十分反映できるようにしている。
参加者の募集は昨年十一月にスタート、今年二月には事業主体となる建設組合設立に漕ぎ着けている。コーポラティブには、参加者が集まってから実際に事業化するまで合意形成が進まず時間がかかるという欠点があるといわれているが、キューブはベースとなるマスタープランを固めたうえで、募集時点でコーポラティブハウス事業そのものと北野町計画を解説、十分な理解を得ることでこの欠点の解消を図っている。
記憶の継承テーマに 洋館の古材も活用
北野町コーポラティブハウスの特徴の一つとして、コストプランニングがあげられる。
土地代金や既設建物解体費、工事費、設計・コーディネート料などすべてを合算した総事業費は消費税込みで三億六千五百万円。九戸の専有面積合計で除した 三、三u当たり平均取得単価を約百五十万円に収めている。
不動産経済研究所が毎月調べている分譲マンションの三、三u平均単価は、近畿圏で二月が約百三 十四万円。北野の立地特性を考えれば割安感のある設定だといえ、天宅社長によると、仮に同じ条件で分譲マンションを建設・販売すれば同百八十万円以上になるとしている。
キューブがコーディネートというフィービジネスに徹しているうえ、分譲会社の販売リスクに対する利益確保を考えなくてもよいコーポラティ ブのメリットがコストプランニング面でも発揮されているわけだ。 一方、同社は事業を進めるうえでの資金調達に、住宅金融公庫のまちづくり融資メニューで ある都市居住再生融資を活用した。二以上の敷地を共同化する同融資の「共同建替事業融資」の枠組みで、融資対象として受理されれば、参加者の収入にかかわ らず住戸取得費用の八割まで融資が受けられる。
参加者は数回に分けて出資金という形で建設組合に自己資金を拠出し、これを軸に組合が事業主体として用地 の取得や建設事業に取り組み、最終的に融資が実行されればそれを充当する。同社はさらに、公庫融資が実行されるまでの間につなぎ融資を受けることもできる よう金融機関と調整を図るなど、事業環境を整えているほか、組合は事前に想定された詳細な資金計画に従い収支の透明性を確保しながら決済行為を行う。
建設組合はあくまで任意組合なので責任の所在は参加者個人個人が負うことになる。このため組合は事業推進主体としての側面よりもむしろ、参加者相互の合意形 成を図る場としての側面が事業の中で生きてくることになる。 事業は今年八月に着工し来年六月に竣工する予定だが、竣工後に建設組合の出納行為がすべて終 了した時点で精算し解散することになる。当初計画では精算時点で残余金が残るよう計画されており、これは精算時に参加者個人に返金する。竣工後も長期修繕 を視野に入れた良好な管理による優良ストック形成を図るため、参加者は引き渡し時に一戸当たり四十万円程度の「修繕維持積立基金」と、月額一万三千円程度 の「修繕維持積立金」を支払う予定だ。 一方、施設計画では「記憶の継承」(天宅社長)をテーマに据えた。北野町全体として「北野の記憶を引きつぐ運動」 が展開されており、伝建地区の周辺環境を配慮。周辺の落ち着いた景観とサッスーン邸を「借景」に使いながら建物全体が周囲に溶け込むような外観にする。そのために洋館が以前移築された際に発生した廃材を最大限に活用。暖炉のレンガを敷石に用いたり洋館のバルコニー材をオブジェに使用するなど、「この建 物が存在する限り明治時代に建てられた洋館の息吹が残る」ことを目指している。
全体計画も細部にわたってまで参加者に提案し理解を得ながら決定するうえ、インフィルを自由につくれるようにすることで納得できるものを提供する。
北野町に居住したいという需要を掘り起こし、コーポラティブの最大の持ち味 である顧客満足度をできるだけ高めることを目指した事業で、東京在住者からも参加希望があった事実がこの事業に対するニーズの大きさを物語る。従来の事業 手法では利用価値を見出しにくかった土地が、見事に再生した事例といえよう。
参加者に自己責任 十分な情報開示必要
天宅毅キューブ社長の話
コーポラティブの主役は参加者であり当社はコーディネーターとして事業を円滑に進めるための協力者。コーポラティブ住宅は通常の分譲住宅のように与えられ る性格のものではなく、参加者が自ら獲得するものであり事業者としての自己責任も求められる。それだけに協力者は事業に関して事前に十分な情報開示を行う ことが必要だと考える。そこにコーディネーターとしての役割の本質がある。
増加予測されるコーポラ 公的融資メニューで支援 住宅公庫
コーポラティブ事業を展開させる際、重要になる資金計画について住宅金融公庫は、「コーポラティブハウス融資」や「都市居住再生融資」などの融資メニューを整備、公的金融の立場から支援する枠組みを整えている。政策課題である優良な住宅ストック形成とまちづくり誘導の観点から資金面で支援するのが目的だ。 コーポラティブハウス融資は、@面積が四百u以上の敷地で延べ面積一千u以上のマンション(共同住宅)A敷地1千u以上で共有敷地が一割以上確保できる敷地で十戸以上のテラスハウスを耐火・準耐火で建築する場合が対象。一戸当たりの専有面積は五十五―二百八十uが条件で土地取得資金への融資もあるほか、敷地が定期借地権でも@権利金方式で所有者の同額(ただし賃借権の場合は六割)A保証金方式で同四割―の融資が受けられる。ともにコーポラティブ参加者個人への融資だが、コーディネーターについて、宅地建物取引業法上の免許の保有を条件にしたうえで「入居予定者に不測の損害を生じさせないよう配慮」「良好な環境・コミュニティー形成のための共同建設計画を提示」することを求めているなど、コーディネーターの資質に関する条項を盛り込んでいる点が大きな特徴で、このことからもコーディネーターの役割がいかに重要視されているかがうかがえる。一方、都市居住再生融資は、@敷地を共同化して建て替えを行う共同 建替事業A一定の空地を確保して建設する有効空地確保事業Bマンションの更新を促すマンション建替事業C複数の建築物を一体性に配慮した設計によって住宅などを建て替える総合的設計協調建替事業D地区計画で建て替えを行う地区計画等適合協調建替事業―の五種類がある。住宅取得費用だけでなく建設費用や初期の調査費・設計費など初動資金にも融資するのが特徴で、まちづくりを融資面から誘導、防災性が高く快適な都市づくりを促し、都市再生を図るのが目的で、 コーポラティブにも十分活用できる。住宅公庫大阪支店によると、二〇〇一年度のコーポラティブ融資実績(受理戸数)は全国で二十六件三百六十六戸で、うち近畿圏(支店管内)では九件百二十四戸にとどまっているが、都市内でスケルトン・インフィル活用型コーポラ向けの空地が増えていることから、こうした融資メニューを活用しての事業例が増えると予測、公的融資として支援していく考えだ。
行き場のない需要を満足 土地は蘇る 「コーポラティブ その可能性」
居住者が事業主体となり自ら住宅を設計・居住するコーポラティブがなぜ、土地を再生させる切り口になるのか。コーポラティブの可能性と本質についてキューブの天宅毅社長に聞いた。
究極の消費者主体 −コーポラティブの特徴からうかがいます。
「最大の特徴は、従来は受け身でしかなかった住宅取得が、コーポラティブでは顧客自身がほしい場所でほしい物件を獲得できる点にあります。従来の画一的で最大公約数的な商品を大量生産するやり方に比べて、顧客のニーズに応じた納得できる住まいづくりが行える。住宅取得に対して能動的になれるわけです」 「これまでの『完成したものを売る』という住宅供給の仕組みは、供給者側の論理が主体だが、コーポラティブは消費者主体を実現できる。ただ、事業を進める方法論としては、まだまだ不完全なものがあり、参加者(入居者)がリスクを十分に認識し、それをさらに低減できる事業方法がもっと開拓される必要がある。 逆にいえば新しい住宅供給像としてそれだけ可能性を秘めているわけで、そうした点が整備されれば市場は今後ますます拡大が期待されます」
―現状は?
「数年前まで住宅に詳しい方が参加者の中心にいて進められる事業がほとんどでしたが最近メディアの影響で一般的に住まいに対する意識が高まり、コーポラティブでも一般の参加者が増え事業としての可能性が拡大している。それだけにもっと参加しやすい枠組みが必要になってきている」 「ただ、自ら土地を購入し設計と工事を発注する事業ですから当然、事業主としての自己責任が発生する。そこでコーディネーターである我々がリスクの情報開示を積極的に行い、リスク回避の手段を提案しているわけです」
問われる機能 −事業を始める前の段階で、参加者に理解を求める役割がある。
「大量供給で住宅需要は枯渇しているようにみえるが、実はまだまだ供給不足であり需要と供給のミスマッチが起こっているというのが持論です。例えば昔からの良好な邸宅街ではマンション事業に適したまとまりのある土地が少ない。お屋敷の跡地は規模が大きくてもせいぜい百―二百坪(三百三十 − 六百六十u) 程度で、その位いの規模の土地は意外と利用が難しくそのまま放置されているケースが少なくない。道路付けのいい土地なら建売業者がミニ開発をする場合が多いようですが、結果としてその地域のもつイメージが徐々に損なわれてしまう」 「しかし、『そこに住みたい』という確かなニーズがある。そこでコーポラティブが力を発揮するわけです。しかも我々は事業の協力者としてコーディネートに対する対価をいただくフィービジネスに徹していますから、通常分譲のように販売リスクに見合う利益を考える必要がないので事業化コストも圧縮できる」 「ミニ開発でも道路を通すだけで土地が少なくなってしまうような小規模敷地は土地利用の出口がない。阪神間では特に山と海がせまっているため東西に長くてひな壇状の土地が多く、道路付けにも恵まれず日影規制などから開発業者も手出ししにくい良好な住宅地が多くあります。個人居宅向けとしては規模が大きく資金的に手を出しにくい。そうした土地は従来の事業方法では利用価値を見出しにくく、結局そのまま放置されていることも少なくないようです。しかしコーポラティブ方式で事業化すれば、もともとある良好な環境をそのまま活用しながら、居住者の理想を追求した住宅供給が可能となるのです」