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槌橋雅博
槌橋貴子
本事業の生みの親である「キューブ」代表の天宅毅氏は、私達にとっては、あちらこちらに働きかけつつも行き詰まり、諦めかけていた洋館の保存を、現実のプランとして具体化して頂いた方なので、少し大袈裟かもしれませんが「息絶えようとしていた異人館に突如舞い降りた救世主」のように思えてなりません。
この事業、数多くのトラブルに道を阻まれながらも、なんとか洋館を100年単位の長期的視野にたっての保存・修復と維持・管理を行うことが可能になりつつあります。しかしながら、現在も文化財に理解の無いディベロッパーとの攻防が激しく続いており、予断を許しません。
天宅氏は、「文化財を保存しつつ、同地で新規住戸を開発する」という、前例の無い画期的な土地開発プランを自ら考案された方で、私としては、洋館の命の恩人だと思って感謝しております。このプロジェクトは、日本の土地開発の歴史に一石を投じるものになるでしょうが、ディベロッパーの都合で天宅氏は設計から外れてしまったので、天宅氏が御自分の偉業に表立って足跡を残せなくなってしまった事は残念でなりません。
天宅氏は現在でも、私どもに専門家の見地からの様々なアドバイスを頂き、また、詐欺まがいのコンサルティング会社との交渉にも力を貸して下さっております。天宅氏がいらっしゃらなければ、とうの昔に洋館は解体され、産業廃棄物として処分されてしまっていたでしょう。本当に有難い事だと思っております。
このような非常に骨の折れる無私の活動を続けておられる方が、文化財の為に密かに戦っておられる事によって、消え去ってゆくはずの貴重な建物が残っていくのだな、と感慨を深めております。世の中には人知れず静かに「凄い人」がいらっしゃいます。まだまだ捨てたものではありません。
この「長田の洋館」は、阪神淡路大震災の被害も最低限にしか補修しておらず、判る人が見るのでなければ、一見廃墟のようなボロボロの汚い建物としか目に映らないかもしれません。しかし、一部崩れ落ちている建物であっても、それは大正時代の日本とヨーロッパの美を統合し洗練させて完成された、非常に優れた「芸術作品」なのです。
たかが、「一軒のぼろ家」ですが、建築や美に対して理解のある人間からすれば、これはまさしく「本物のアート」に他なりません。この大切な芸術作品を後の世代に伝えることは、アーティストとしての「使命」だと考えて、私達は保存活動に力を注いできております。
この洋館は、昨年、「国指定登録文化財」である「槌橋家住宅主屋」となりました。ご協力頂いた全ての方に感謝致したいと思います。有難うございました。
まだこの事業は途中までしか来ておらず、保存の形態がはっきりと確定しておりません。今後も洋館を最も良い形で残していけるよう最大限努力して行きたいと思います。
皆様には、いずれまた詳しくご報告する機会を持ちたいと考えております。
2003年4月26日