都市は甦る
コーポラティブ/その可能性・・・1
住宅流通新聞 2003/8/8

復興への軌跡@ 個別ヒヤリングが奏功

プロジェクト1 「ディセット渦が森」
震災で損傷を受けた団地の居住者が「建て替えか?補修か?」を議論したものの意見は二分。激しく対立し、まったく進展しないまま震災後一年を経過していたという。いわば、泥沼化して収拾がつかない状態で同社に相談が持ちかけられた。 神戸市東灘区の案件。


コーポラティブハウスとは、完成した住宅を購入する一般の分譲マンションと違い、住宅の取得を考えている人々が共同で土地を取得し、自らの要望を各自、設計に取り入れ、工事発注を行い住宅を取得する手法。言い換えれば"住み手による住み手のための集合住宅。
阪神・淡路大震災後の一九九六年、神戸市中央区に誕生したキューブ。震災により倒壊・半壊した住宅の再建に直接関わることで諸問題の本質を見極め、ここで蓄積されたノウハウを具体的な事業として展開する手法の一つとしてコーポラティブハウスに積極的に取り組み、数多くの実績をあげている。同社社長、天宅毅氏にその事例を聞く。

■ 建て替えか否か

―最初に取り組んだことは?
「まず依頼を受けたのが震災で半壊したマンションの再建に向けたコンサルティング。再建の方法として、建て替えと補修の間で住民の意見が二分化し、完全に対立して、収拾がつかない状態で相談を持ちかけられた」 「そこで、状況を正確に把握するために、最初に全居住者(五十世帯)の個別ヒアリングを行った。一件数時間ずつ行い、居住者全員の言い分を整理して分析した。建て替え派と補修派の双方から話を聞いた結果、建て替え派は全員自分の意志で『建て替えすることが将来的に最もよい選択』と考えていた」 「一方、補修派は、@既存のローンと新たに発生するローン債務への不安 A当初予定していた人生設計を建て替えによって犠牲にできない Bスクラップ・アンド・ビルドによる再築で資産価値を高めるという考え方は環境保護の観点から見てもおかしい C病人を抱えているので建て替え中の仮住まいで万一何かあると・・・などの考えを主張した」
■ 相互の情報開示
―その結果どうしましたか?
「名前は明記せず、居住者の意見全部を整理して公表した。双方の考え方を公開することで建て替え派と補修派、それぞれの思っていることをお互いに理解してもらうことが目的。ヒアリングと平行して構造調査を行い、その報告も同時に行った」 
―それからどう進めましたか?
「以上の情報開示を行った時点で皆の意志を確認するため、方針決議を行った。その結果、建て替え方針が可決され、建て替え決議に向けて進めていくことになった」
―その後、建て替え決議をとる。
「方針決議後、具体的な事業内容を確定するため事業コンペを実施。参加したのが五グループ。当方にて客観的に比較検討できるよう、提案内容を整理したうえで再建組合がデベロッパーを一社選定した」 「選定されたグループ代表のG社は本業は管理会社だが当時、倒壊したマンションを建て替えた実績があった。今後、建て替えや補修などの需要が増えると推測し、震災を機にいろいろなケースに対応できるノウハウを蓄積するために今回のコンペに他社より積極的になっていたのも選定された要因の一つだ」
―決議前に何か居住者に提案しましたか?
「基本計画を居住者と作成した。週二、三回理事会を開催。賛成派、反対派に関係なく全員参加で急ピッチに作成した。反対派に対しては結果はどうあれ、反対の立場をとった人にも、建て替えが決議された場合にはどのようにしたいか、自分の希望を主張する権利がある」
■ 晴れて全員合意
「この権利を正当に主張するためにも理事会に参加することを勧めた。このようにそれぞれの意見を尊重し、その意見ができる限り公平な形でお互い知り得る環境を徹底することで、公正な条件の下で決議がなされるのであれば、その議決案を尊重する決意を全員から得ることができた」 「完全に決裂状態にあった住人が、こうしたプロセスを経て、ようやく歩み寄ることのできる環境が整ったといえる。その後、建て替え決議では、五十件中、建て替え賛成が四十二人、反対が八人だったが、八人の反対者も早期に賛成し、全員合意に至った。晴れて、正式に建て替えが決定した」