都市は甦る
コーポラティブ/その可能性・・・2
住宅流通新聞 2003/8/29
復興への軌跡A 意見集約へ”座標軸”付与
プロジェクト1 「ディセット渦が森」
震災で損傷を受けた団地の居住者が「建て替えか?補修か?」を議論したものの意見は二分。激しく対立し、まったく進展しないまま震災後一年を経過していたという。いわば、泥沼化して収拾がつかない状態で同社に相談が持ちかけられた。 神戸市東灘区の案件。
−建替え決議後の動きは?
「従前マンションの解体が始まり、並行して間取りなどの設計を進めた。ただし、一軒一軒個別に対応するのではなく、事前にアンケートにより要望を聞き取り、まず希望に合わせた基本プランを作成した。そして、各プラン毎に居住者のグループを作り、グループ毎に基本プランに対する意見や希望を話し合った。
■希望に多様化
この話合いを踏まえて再度プランを作成し、改めて話合うという事を何度か繰り返した。最終的には個別の希望を踏まえたメニュープランをいくつか設定する事で、入居者が個々に希望する間取りに近いものを選択する事が出来るようにした。
−粘り強いプランづくりですね。
このプロセスの中で、希望の多様性を実感したが、再建事業という性格上、出来る限り事業を迅速に進める必要があったため、すべての希望に対して対応できる事業フレームを構築する事はできなかった。居住者にも、その状況は十分理解して頂くことができ、皆に納得していただいた上で基本プランとメニュープランを設定する事ができた。
■妥協点への模索
「こうした形であれ、最小限の多様性を確保する設定が可能となった背景には、事業協力者であるディベロッパーの理解と協力があった。
−従前居住者の動向は?
「当初は多少のわだかまりがあったものの、建替え決議後は決議時点での賛否にかかわらず、居住者全員から事業推進に向けて全面的な協力を得る事ができた。利害が完全に対立し、議論の余地が全くなかった以前の状況から一変した。この状況に到るプロセスは大きな意味と可能性を示唆している。
「直接的に利害が対立している状況では、当事者間のみで状況を打開しようとしても距離感を客観的に捉える事が出来ない為、妥協すると一方的に自らが損をしている感覚となる。また、実態以上に相手方が自分勝手で独善的である印象を持つこととなる。これはお互いに感じている事であるが、頭で理解して整理しようとしても、気持ちまでコントロールする事は困難である。このような環境下で、当事者同士が直接話し合って相互に納得できる妥協点を見出す事は非常に難しい。
「コンサルタントという客観的な第3者が関る事で、この関係に一つの座標軸を与える事ができる。最初に行った全居住者の個別ヒアリングと整理及び分析が、その座標軸を与える作業であったといえる。座標軸を得る事ではじめて距離感を客観的に捉える事ができる。これが納得できる妥協点に合意形成を図っていく上の必要条件であると思う。
−アンケートも奏効した。
「そうだ。途中からアンケートを多用した事も円滑な事業進捗(しんちょく)に有効に働いた。討議を行うと、どうしても発言数の多い一部の偏(かたよ)った人の意見が中心になってしまう。アンケートを取ると異なる意見の人もおり、場合によってはそちらの方が多数派の意見である場合や、正当性の高いものである場合も少なくない。
■経験を蓄積
特に我国では一般の方はほとんどディベートの訓練をしていないため、討議を行うと、すぐに感情的になったり、自分の意見が通るまで絶対他人の意見を受け入れようとしなかったり、逆にそのような場ではほとんど発言しない方等も多く、直接的な討議を通して参加者全員を公正平等に最大の利益を得るような結論に導く事はほとんど不可能だ。
−第1号事業で大きな経験をされた。
「しかし、アンケートを利用して、全員の意見を収集し、この内容を整理、分析して全員に報告する事をくり返すと、冷静な環境で各々がじっくり考える事ができ、声の大小や議論テクニックの有無に振りまわされず、正当性の高い結論に誘導される。
「これらの要因が本事業の成功に大きな役割を果たした。他にもこの事業を通じて本当に様々な経験をし、経験した事全てが、強く記憶に刻み込まれた。(事例1・おわり)
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