一九九五年の阪神・淡路大震災で六甲道・八幡商店街沿い(神戸市灘区)の二階建て店舗付き住宅五軒が全壊した。 再建計画は等価交換方式で十二戸の共同住宅「スクウェア六甲」を建設する共同建て替え案に決定。住宅コンサルタント、キューブのコーディネイトでコーポラティブ方式も採用することになり、その結果、新マンションとして見事に復興を遂げた。同社の天宅毅社長に完成までを聞く。(全回の続き)

■第一にメンテ
―一般的にマンションが内包する課題などについてうかがいます
「これまでのマンションは老朽化すれば、『いずれ建て替えればよい』という事で、あまり長期的視点に立ってのメンテナンス性を重視してこなかった。現在はマンション建て替え円滑化法など関連法の整備・改正でマンション建て替えは以前に比べ行いやすくなったものの、住人の合意形成が前提となる事実には変りはない。社会的・経済的背景が個々に異なる住人が集まって建て替えを進める事業の困難さは、ディセット渦が森(シリーズ1、2参照)を通じて痛感していた」
「従来の市街地再開発事業などは狭小地を集約し共同化することで住環境の改善を果たすことが(事業目的として)考えられてきた。しかし、メンテナンス性も十分に確保されず建替えも困難であれば、こうして共同化された住宅も長期的には、区分所有という形に、さらに細分化した権利関係が絡み複雑で困難な状況が生み出されているだけに過ぎなくなる」
「この歴然とした事実が震災で明らかになった今、これから新しく作るマンションは、実現の可能性が不透明な建替えを前提とするのではなく、長期的なメンテナンス性に配慮したうえで、適切なメンテナンスさえ行えばできる限り長期耐用できるマンションづくりを行う必要があると思った。もちろん強い耐震性を備えるというのは大前提だ」

■内外を分離
―「スクウェア六甲」の事業計画は?
「まず、純ラーメン構造を採用、柱と梁だけで構造躯体を形成し、将来的に想定される専有部分のリフォームなどにも柔軟に対応出来るよう、できる限りスケルトン(躯体)とインフィル(内装)の分離を図った。さらに道路斜線など高さ制限が厳しい地域だったため、十分な階高が採れない条件だったが総十二戸を設定、事業性を高め、将来のメンテナンス性を確保する工夫を極力追求した。インフィルの設計もコーポラの手法に沿って住戸ごとに入居者と設計者が直接打ち合せを行い個別に進めた」
「ディセット渦が森の例では、総戸数が七十一戸で従前地権者も五十名にのぼったうえ、@再建事業という性格上出来る限り事業を迅速に進める必要があったこと、A事業協力者であるディベロッパーの事業リスクを少しでも低減する必要があったこと−から、個別に設計対応することができなかったが、それでも居住者グループとの話合いを通じてメニュープランを設定していく際に、希望の多様性を強く感じていた。そこで、スクウェア六甲では総十二戸と事業規模が小く、コーポラ方式で事業を進める事を踏まえ、個別の設計対応によって個々のニーズを具体化することにしてみた」
−具体的には?
「コーポラティブハウスとして(入居者の)一般募集を行う前に、従前地権者の意向を踏まえ、前提となるプランを設定、これを基に、全体計画を詳細に想定した。総事業費は約4億円。十二戸のうち地権者の希望で店舗一戸を配置した。専有面積は五十五uから九十uで販売価格は二千六百万円台−四千五百万円台。地権者の入居住居を事前に決めてから残りの住戸について一般募集に踏み切った。九七年の六月のことで、コーポラ参加者募集のチラシを折り込んだところ、約1週間で全入居者が確定した」
「周辺地域に最小限の告知を行っただけに過ぎないにもかかわらず、こうした短期間で募集できたということは、震災後の復興需要がまだ旺盛な時期だったとはいえ、従来型の分譲マンションの固定化したプランに消費者が満足できず、『自らの住まい方にあわせた住まい創りを実現したい』というニーズが潜在的にかなり高まっている現実を感じさせたし、実際、参加者へのヒアリングでもこうしたニーズに応えられるコーポラの可能性は非常に大きいと感じた」
−その後も計画はスムーズに運んだ。
「一般募集前に従前地権者とプロジェクトの全体フレームについて前提条件を詰めていたことから、一般参加者はその条件を知ったうえでそれに賛同できる人だけが参加することになり、その後もフレームを根本から影響するような意見対立も生まれることなく、想定していたスケジュールとコストで進める事ができた。結果的には九八年二月に着工にこぎ着け、翌年二月に竣工、入居を開始した。コーポラティブハウスは一般的に組合運営(参加者間の合意形成)が難しいとされるが、やり方次第でこうした問題は解消できると、この事業を通して実感した」
■従来型の限界
「一方で、デベロッパーが、分譲マンションを計画する際、どうしても(利益確定のため)事業リスク低減を前提にしたマーケティングに陥りがちで、結果として最大公約数的な商品企画とならざるを得ないし、そのことの限界は強く感じていた。つまりそうしたマーケティングの結果は『(公約数では計り切れない)失われた顧客』の情報を提供するだけにとどまる。これに対してコーポラティブは従来型のマーケティングでは捉え切れない潜在需要を探り起し、事業化するのに適していると感じた」
「この事業をきっかけにコーポラティブ事業に積極的に取組み、その可能性をさらに探っていこうと考えるようになった」
都市は甦る
コーポラティブ/その可能性・・・4

住宅流通新聞 2003/11/21


コーポラの活用A ”建て替えの前提はずす

プロジェクト2 「スクウェア六甲」