特別企画 04.新春「座談会」
住宅流通新聞 2004.1.02

現時点で最も起こりうる可能性が高い地震は東海・東南海・南海地震と言われている。住宅の供給者側と需要者側にとって地震に対する防災対策は本当に万全だろうか。六千人余りの死者を出した阪神大震災から九年が経つがその教訓は生かされているのだろうか。地震に強い建造物とは、そして災害に強い都市づくりとは。耐震をテーマに住宅流通新聞社主催で「地震列島日本耐震座談会」を開催した。「地震」を共通のキーワードに住宅に携わる第一線で活躍する各界・企業の代表に、耐震建築・防災都市づくりのあり方や課題について議論してもらった。

●「座談会出席者」
・ 内田昌克氏(アークリエイト代表取締役)(高知大学教授)
・ 齋藤隆裕氏(みなとホームプロテクト最高経営責任者)
・ 小森正夫氏(ミラクルスリーコーポレーション常務設計部長兼知財室長)
・ 瀧川昇三氏(ミラクルスリーコーポレーション常務広報部長)
・ 藤田忠夫氏(住宅金融公庫大阪支店副支店長)
●「コーディネーター」
・ 天宅 毅氏(キューブ代表取締役)
● 主催 住宅流通新聞

『迫り来る巨大地震に備えて建築物の耐震性向上急務』
「阪神大震災 都市の矛盾露呈」(天宅さん)
「従来の"常識"通用せず」(内田さん)


《問題提起》
(天宅)
東海・東南海・南海地震がここ十数年に確実に発生すると予測されている中、それに備えるためにも、そして阪神・淡路大震災を身をもって体験し、その復興に携わった者としても、この地震で経験したことを生かしていく責任が私たちにはあると思います。
日本は温帯から寒冷地までのびる多様な気候風土を持つ島国で、地震や台風、火山など世界でも有数の自然災害の多い国土を持っていますが、人々は数千年前からその環境、風土に見合ったまちづくりを行い、江戸や京都など世界的にみても高度に密集した大都市を建築し居住してきました。その中で、日本独自のまちづくりノウハウが構築されてきました。
日本では自然と対峙せず、自然と向き合う中から、循環型のまちづくりシステムが築き上げられた。これに対して欧米は自然と徹底的に対峙する姿勢、言い換えれば人間の営みと自然とが対立する形で都市が形成されてきた。
明治以降急速に近代化に踏み出していくのに伴って西欧文明が流入し、都市は鉄筋コンクリート造など、それまでにない堅牢な建築物に置き換えられた。数千年かけて築き挙げられた街に対して、わずか百年余りにそれが起こったわけです。その方向は不可逆的であり今後も続くでしょうが、しかし日本人はこれらの建築物との付き合い方をまだ見つけ切れていないのではないでしょうか。その矛盾が噴出したのが、阪神大震災だったと思います。 現代に生きる私たちは、これからの街のあり様をみつけ、それを実現していかなければならない時点にいると思います。そうした意味で、地震や災害に強い建築物、まちづくりを具体的にどう実践していくべきか、それが私たちに与えられた課題だと思います。
(内田)
都市づくりを考えるうえでまず取り組まなければならないのは、都市を構成する単位の一つである個々の建築物を考察する、それも構造上の観点からこれらを検証することが重要になると思います。一九九四年には米国西海岸でノースレッジ地震が起こり、九五年に阪神・淡路大震災が発生しましたが、そこで明るみに出たのは、それまで『大丈夫』とされた建築物や構造物に大きな被害が出たということです。
神戸市役所の中層階部分がなくなったり、阪神高速道路の橋脚が折れ曲がったりしたことがその典型でしょう。個々の建築物でも、十分耐震力があるとされた鉄骨造では、予想しなかった部位が破壊され、そのまま建築全体が損傷したり倒壊することになった。
その予想しなかった部位が鉄骨の柱と梁をつなぎ止める接合部です。一般的な従来の施工法では、鉄骨の柱(角形鋼管)と梁(H型鋼梁)を接合するには裏当て金やエンドタブと呼ばれる部材を使用し、片側溶接でつなぎ止めますが、構造物として応力の集中が避けられないし、欠陥もできやすく、地震などの外圧に弱くなります。
さらに、裏当て金を使用するためH型鋼梁に『スカラップ』という空間を使用しなければならず、これによっても耐力が減少し、結果的に地震力が加わったときに破壊される。
現在の仕事に就くまでほぼ三十年間、化学プラントなどの仕事に携わってきたが、プラントなど圧力供給に必要な構造物ではこうした接合の仕方は(圧力に耐えられないという点で)考えられないものです。つまり、建築の世界では常識だったものも、他の世界では常識ではないわけです。
従来型の柱・梁の接合では荷重に弱いうえ、裏当て金やエンドタブといった部材のための材料費や、その加工の手間もかかりコストアップの要因にもなっている。(高知)大学に入ってきてからこうした点に気づき、そして阪神大震災をみて何とかしなければと思い、新しい構法を開発したわけです。実験でも耐震強度は従来比二・五倍を発揮していますし、鉄骨造という個々の建築物を変えていくという点で、非常に役立てると考えています。
(齋藤)
私自身も神戸市長田区で被災し多くのことを体験しましたが、そこで得たのは、初動体制のあり方が重要だということです。被害が発生してからそれをいかに最小限に食い止めるかという初動体制ももちろん大切だが、それ以前に、地震などの災害にあっても倒壊しない住宅づくり、損傷しても軽微にすむ建築物づくり、つまり地震に強い住宅づくりを行う必要があると痛感したわけです。
当時、私自身が大工をしていたこともあって、震災後ボランティアとして多くの住宅の補修に携わりましたが、その際わかったのが被害のでたほとんどの住宅では床下の備えが疎かだったことです。建築を地盤としっかりと固定させる土台や束柱が、地震の下から突き上げる揺れにまったく耐え切れず、被害を大きくしてしまった。既存の住宅も含めて床下、そして構造部を強くしたいと開発したのが、構造部補強システム建材シリーズです。
ただ、問題は耐震補強の必要性をいかにわかっていただき、それをいかに普及させていくかです。
(天宅)
実状と一般的な認識とのズレは、常に大きな課題になる。
(齋藤)
耐震補強の必要性については、市民の関心も震災後高くなりましたが、やはり日が経つにつれて薄れてきます。しかも耐震リフォームを名乗っての強引でときには悪徳な商法も多く、市民に「耐震補強」への警戒心を持たせる結果にさえなっている。
それを変えるにはまず、(耐震補強の)商品力と性能そのものを高めること、そして、耐震補強=訪問販売という業界イメージを払拭(ふっしょく)することが重要だと考えています。当社では補強システムの実験を重ね、従来型の補強支柱金具の四倍まで強度アップに成功していますし、地盤自体に狂いが生じてもわずかな浮き沈みを感知するセンサーを補強システム部材に設置、センサーをオンラインで結ぶことで居住者に早い段階で危険を察知してもらえる初動体制システムも構築・提案します。
その運営について、大手セキュリティーのセコムと連携、同社のオンラインネットワークと結びつけて、総合セキュリティーサービスとして提供する計画です。そうすることによって単なる耐震補強だけのイメージを変えていく。
(小森)
木造住宅は日本の気候風土にあった建築物で強度も五十年、百年経っても変わらない。耐久性もメンテナンス次第では、法隆寺のように千年でももつ。
しかし、特に戦後の住宅は様々な意味で一考する必要があるのは確かです。
設計の仕事に携わっていますが、阪神・淡路大震災の際、被災地で倒壊した建物を見たとき、『もう一本筋交いが入っていたら潰れなかったかも』『外壁表面がモルタル仕様だったら火災による二次災害ももう少し防げたかも』と、立場上、非常に残念に思いました。筋交いでも一本あるかないかは大きな違いになって表面化する。その家に住んでいた人がどこまで耐震性について知っているか、その知識が正しく、そしてその通りの設計・施工が行われているかという点も重要で、みなさんがおっしゃられた通り、人々の意識の向上も必要でしょう。それ以前に建築の設計というのは、人の命を預かる仕事だということを震災で痛感しました。
現在の日本、特に都市部で技術的に問題なのは、昭和五十六年以前の(建築基準法改正前の)旧耐震基準で建てられた建築物をどう取り扱っていくかという点です。
設計コンペ(公開競技)や再開発などそのときどきで、すばらしい設計の建築物や開発が行われていますが、それらはほんの点にしか過ぎず、都市全体を面で捉えた場合、旧耐震の建築物を含めてすでにこれだけ多くの建築物が建ちつくしている。
それだけに、既存の住宅や建築物を今ある技術で、何とか強くできないか、そうした考え方も重要になるかと思います。
(瀧川)
そうした観点から開発したのが、当社の『ミラクルスリー構法』です。既存住宅の周りに鉄骨の柱を建て、住人が居住しながら耐震性の高い住宅に増改築する。現在の技術で十分可能です。ベースは二階建てを三階建てに更新する構法で、住宅の周囲に鉄骨造三階建てをつくり、三階部分に居住空間を移して、一、二階を改装。既存住宅の外壁を残すので、新築部分の外壁とで外断熱もでき性能自体もアップする。二階建てだけでなく、平屋から中高層まであらゆる建築に応用がききます。
(天宅)
災害に強い街づくりを行うには技術だけでなく、それを資金面から支えることも重要です。
(藤田)
阪神・淡路大震災で全半壊した二十四万棟のうち、災害復興融資を利用して再建された方は約九万戸で、三分の一強の自立支援に役立っていますが、それ以上に建物の質を融資面から支えることに、公的住宅金融の役割があると思います。
大震災の際、被害のなかったあるいは軽微だった住宅は、被災地に建つ全戸数の六六%で、残りの三四%、ほぼ三戸に一戸は全半壊しました。ところが公的融資で建てられた住宅はその半分以下で、全体の六分の一しか倒れていない。これは金利の優遇を中心にした公庫の政策誘導機能が功を奏した結果だと思います。
最近では、登記費用などの諸経費を含めた一一〇%ローンなどのローン商品も開発され、民間金融機関が取り扱っていますが、質を高めるという、こうした誘導機能が発揮されているかというと疑問が多い。
耐震性を含め住宅の質を向上させていくという住宅金融公庫の持つ役割は、やはり災害に強い街づくりという観点からも、もう一度見つめ直すべきでしょう。

地震列島ニッポン 耐震・防災都市づくりは…。
「補強施工性がカギ」(齋藤)
「当初から壊れない建物を」(天宅)


《具体的提案》
(天宅)
まちづくりを考える際ハードも重要だが、住民合意への配慮やコンサルティングなどソフトも重要だということを実際の復興事業の中で実感しました。最初に手がけた被災マンションの再建プロジェクトでは住民同士の意見が対立しその集約に苦労しました。個人個人へのヒヤリングなどを通して、第三者として座標軸を示し、結果的に全員合意で建て替えを決議しましたが、その際感じたのがマンション建て替えは非常に困難だということです。
マンション建て替え円滑化法などの施行で法整備は進んだが実際には大きな困難が伴うでしょう。ではどうすればいいか。建て替えずにすむ建物、つまり耐震・耐久性に富み長期耐用のきく建物を建築することがまずハード面で大切です。そしてソフトとして、建築の長期耐用性を生かすようなメンテナンスができるよう、住民の合意形成が得られるシステムが必要になる。
これまでのマンションは、住民への維持管理の当事者意識が薄く、それが建物の短命化を招くのではないかと感じています。特にこれから、築四十年以上の公団や民間の集合住宅が都市にあふれ出るのは確実で、建て替えができずそのままスラム化する可能性もある。
これに対して、一つの方法論としてコーポラティブ方式による集合住宅づくりを提案しています。入居者が自ら取得・建設し、愛着がもてる仕組みによって維持管理への当事者意識を持ってもらう。それを半ば強制的に働かせる手法として旧建設省が考案した「つくば方式」(定期借地権活用型スケルトン・インフィル=SI=住宅供給手法)を尼崎・塚口の物件で採用しました。
譲渡特約付き定期借地権を活用、維持管理の状態によって家賃にペナルティを持ち込むことで維持管理へのインセンティブを与えようという仕組みで、関西初の事業でした。こうしたハード・ソフト連動した事業手法も震災では明らかになった課題解決の一つの切り口になるのではないかと思います。
(齋藤)
おっしゃる通りだと思います。もちろんハード面として長期耐用のきく住宅づくりを進めることは重要です。日本の住宅寿命が短い原因としては、これまでスクラップ・アンド・ビルド(S&B)以外にも、密閉型の住宅が主流になったことがあげられるのではないでしょうか。日本は高温多湿で、住宅には自ずと換気が重要になります。
かつては人が簡単にもぐれる床下がどの住宅にもありましたが、今は密閉され自然な風の通り道が閉ざされ、挙げ句には肝心の土台が腐蝕したりしたりシロアリが発生したりする。震災で倒壊した住宅も換気が疎かだった例が数多い。
長期耐用住宅づくりのためには風土にあった効率換気は第一の前提です。そのうえで耐震補強を考えるべきで、その際大切になるのが地震力を正確に理解することです。
いろいろな文献などでは家屋が地震で倒壊するのは水平力を失うからだと決まって解説されている。しかし阪神大震災で強かったのは縦揺れでした。なぜ倒壊したのか。部材の接合不全にあり、そこにテコの力が働いて倒壊に至ったわけです。接合部の金物にテコの力が作用し、一点が支点、もう一点が作用点として働き接合部が破壊される。その結果、突き上げる揺れによって床下では土台が束からはずれ、戻ってくるときに破壊され倒壊する。この事実を踏まえて開発したのが耐震補強部材の「リビルトシリーズ」で、地震力を吸収・分散させるためバネ応力を利用した「パワーシリンダー」を束柱として代替させます。土台がはずれて戻ってくるとき、へたをすれば束柱が土台をへし折る凶器にもなるが、バネの力で伸縮することでそれを回避できるし、力をうまく分散できる。
施工性も重要。誰がやっても簡単に短い時間で施工できなければ意味がない。特に床下など窮屈な場所ではなおさらです。パワーシリンダーと連動させて使う「テックガード」と木材を接合させるためのラグスクリューも、誰が施工しても100%垂直に打ち込めるような仕組みに当初から加工しています。やはり耐震補強の普及には、短時間で確実に同じ効果が出る商品を提供し、その性能をアピールすることが重要です。
(内田)
キーワードは"シンプル"だと思います。鉄骨造の接合部をみて様々な問題が見つかったが、そこから導き出されたのが、「複雑にしてはいけない」ということでした。それによって強度アップだけではなく、コストダウンも具体化できると開発してきました。それが、「WAWO工法」と「一体化工法」です。
WAWO工法は、梁フランジなどの溶接予定部の裏面・側面にあらかじめ肉盛溶接を行い、この部分を含めて開先を加工、鋼板母材の板厚・板幅よりも大きな溶接のど厚が得られます。何よりも肉盛溶接が裏当て金やエンドタブの代用になるし、スカラップも省略できます。 一体化工法は、極厚板などでサイコロを一体化し、柱の溶接部を一体化することで、従来二枚必要だったダイヤフラムを半減し、サイコロ自体の溶接箇所を減らし、強度も増加させる工法で、ともに施工性もアップできるし、実績では、従来なら四千m必要だった溶接線も二千mにでき、大きなコストダウン効果が得られました。
これは業界の体質にも問題があるのではないかと思いますが、プラントなどでは、最も力がかかるところにもっとも強度の強い施工や技術を用いるのが常識だが、建築ではどうもそうではない。設計段階でも条件に合わせるあまり、無駄な構造になってしまっているのではないでしょうか。
例えば、現場で余計な加工や溶接をしてみたり、開けなくてもいい穴を開けたりしている。鉄骨の接合部でもダイヤフラムが二枚あって角型板が入っているが溶接箇所が増え、施工の欠陥や強度の低下、コスト増の原因になっている。施工という観点からこうした点が改善されてこなかったことが問題で、構造をシンプルにし施工を改善すれば、こうした問題が解消するわけです。

「融資が動機づけに」(藤田)
「様々な技術との連携重要」(小森)

(天宅)
ストック過剰の時代といわれています、既存ストックの利用のあり方については。
(藤田)
ストックの活用を考えた場合、金融論だけではどうしても限界がある。住宅レベルを一定水準に引き上げるという観点からはやはり政策金融は重要だと思いますし、巨大地震の発生が予想される中、既存住宅をいかに丈夫にしていくか、それを資金面でどう支えるかという議論は十分になされるべきです。
その一つに「高齢者向け返済特例制度」を用意しています。六十歳以上の高齢者がバリアフリーリフォームを行う際に住宅・土地を担保に最大五百万円まで融資を行い、返済は月々の利息だけ。元金は死亡時に相続人が一括返済するか、担保不動産を処分して一括返済するという、リバースモーゲージ的制度です。
耐震補強が最も必要な旧耐震基準以前の住宅はストックの七割にのぼりますが特徴は高齢居住者が多いという点です。しかも介護保険で在宅介護が今後さらに増えるので高齢者用設備の設置がぜひ必要になる。しかし民間融資は利用しにくい。それをカバーしようというもので、年金生活でも利息分の返済なら十分ですし、結果的に優良ストックとして残すこともできる。
耐震補強だけでは高齢者が改修工事に踏み切る動機としては、どうしても弱いものですが、こうしたバリアフリー化の一環としてw工事をしてもらい、「地震が来ても安心」というインセンティブを付与できればストックの耐震アップも進むのではと考えています。
マンション建て替えでもそうです。公庫では高齢者のマンション住み替えを支援する高齢者向け返済特例も用意しています。返済は月々利息分だけと内容はほぼ同じで、最大一千万円まで融資します。
千里・泉北ニュータウンなどでは、建て替え時期に達している集合住宅が数多く、百戸規模のマンションで高齢者が七五%という例もある。建て替え計画が進んでいたが資金が一千万円ほどかかるということで何人かが難色を示していたという具体的なケースでは、この商品の利用を考えることで話が進展、建て替えが決定されました。
結果的にはそのような方も自己資金で費用を調達されたのですが、建て替えの十分な動機づけにはなったわけです。住宅金融の形としてそうしたストック充実への触媒としての役割もあっていいと考えています。
(小森)
潰して建てるS&Bの時代は確かに終わり、ストックを生かす時代になっています。そう言われて久しいが、それを実際にどう具体化していくか。それを可能にし実践できるのが当社のミラクルスリー構法だと考えています。
二階建てを三階建てにする場合、二階建ての基礎だと上に乗せることは出来ないので、一般的には建物をいったん取り壊し建て替える手法がとられます。
これに対してミラクルスリー構法では、増築する建物部分の基礎を既存住宅の周囲に新たにつくり、その上に鉄骨を組み増築していく。同時に既存部分をリニューアルして、それまで以上に使いやすくすることでストックを生かしながら新しい空間(三階部分)も創出、機能性も一層高い建物をつくり出します。しかも取り壊して建て替えるよりコストも大きくダウンできる。当社の(粉川憲史)社長が考案し特許を取得、事業化しました。
共同住宅にも応用できますし、ほかの用途の建築物にも適応できる。例えば工場では、建屋を更新する際、生産設備の移転などでラインを一時ストップしなければなりませんが、この構法だと生産設備を動かしながら建て替えられる。入院患者のいる病院でも医療機能を果たしながら上に増築できるし、さらに応用すると、廃校を介護施設や商業施設に転用、再生させることも可能です。
技術的な部分も含めて建築物単体の更新から、街区を一体化させてのまちづくりまで視野に入る構法で、そうしたことを具体化していくためにも、色々な企業や分野と連携して、それぞれの技術を持ち合い、つなぎ合わせることも今後重要になるでしょう。
(内田)
まさしくその通りです。様々な技術を単にそれぞれ使うのではなく、それらが連携したときにいろいろな機能が発揮される。既存の技術・ストックを生かして新しいものができあがると、また新しいアイディアを組み合わせていけばいい。それらが組み合わさって新しい都市づくりにつながると思います。

阪神・淡路大震災の被害
『主な被害状況』
・死者  : 6430名
・全壊家屋:104900棟
被害総額
約9兆9268億円
『死因等』(神戸市内)
・ 圧死、窒息死等 :84%
(建物の倒壊、家具の転倒などによる)
・ 15分以内の死亡:92%
《震災による死者を減らす最善策は、住宅の倒壊・家具の転倒による圧死を防ぐこと》

『東海・東南海・南海地震は…。』
全壊96万棟、死者3万人、被害総額は約81兆円に


現在最も起こりうる可能性の高い地震の一つに東海地震が上げられる。さらに東海地震と南海地震の二地震が同時に発生する可能性が懸念されている。万一、東海・東南海・南海地震の三地震が同時に発生した場合の被害想定を中央防災会議の専門調査会が公表した。
発生時刻などで被害状況は変わるものの、最悪の場合、死者は二万八千人、震度七の激しい揺れや十メートルを超える津波で約九十六万棟の住宅などが全壊、経済被害は約八十一兆円に達すると想定されている。
地震に対する予知情報に基づいて首相が警戒宣言を発令する大規模地震対策特別措置法は、現在の観測技術で予知が可能ではないかと作られた法案だが、歴代の南海地震と東南海地震は関連性が高く、同時もしくは二年以内に発生している過去の現状から予知情報だけでなく、地震に対する日ごろの備えがより重要となる。
昭和の南海地震は東南海地震の二年後、安政では三十二時間後、宝永と慶長では同時発生している。短期間に二つもしくは三つの領域が動くことは、被害の広域化や災害救助体制の分散化、弱体化をもたらすし、被害は拡大する。

《東南海・南海地震が同時に発生した場合の被害想定》(2003年4月17日公表)
(想定地震 M8.6 最大震度6強以上)

人的被害(死者数)(注1)
・建物倒壊       6500人
・津波         3300〜11700人
・がけ崩れ       1900人
・火災         100〜400人
合計          20500人

建物被害(注2)
・揺れによる倒壊    166500棟
・液状化での損壊 68300棟
・津波での流出損壊    38800棟
・がけ崩れでの損壊    20600棟
・火災による焼失    301800棟
合計          615900棟

経済的被害
・直接  約30兆〜42兆円
・間接  約10兆〜14兆円
  計  約40兆〜56兆円
(注1) 在宅率の高い冬の午前5時に発生。
(注2) 夕食準備中の午後6時発生。風速15m
※ 上記のほか、ライフライン被害として@断水で発生直後で約1400万人、1週間後690 
万人が影響A停電で発生直後約380万人、1ヶ月後約110万人に影響。


●座談会出席企業プロフィール(50音順)
《アークリエイト》 新耐震鉄骨接合技術を開発
日本初の国公立大学発ベンチャー企業として2003年1月設立。本店は高知県。主な事業は建築鉄骨等について、特許工法による@建築鉄骨製作のマネイジング(エンジニアリング・製作・品質管理・技術指導等)A特許(出願中含む)工法の認定・更新業務B建築構造物関係の問題処理―を行うほか、@建築・土木工事の積算・製作A建築・土木資材の製造や販売B建築・土木の機械装置の設計・製作・販売―も事業化。中でも同社が開発した新耐震建築鉄骨製作工法「WAWO工法」「一体化工法」はそれぞれを組み合わせることで耐震強度を向上させ、建築鉄骨以外の構造物にも応用できる。同工法は国内外で特許を取得、それを軸に全国へのFC展開を目指す。

《キューブ》 コーポラ軸に都市コーディネート
1996年6月設立。本社は神戸市中央区。阪神・淡路大震災で被災した当事者(天宅社長)として被災マンションの建て替え事業をきっかけに自らコーディネーターとしてコーポラティブ方式を軸にコンサルティング及び事業計画、設計監理を行う「塚口コーポラティブハウス」の企画・コーディネート・設計監理事業では、関西で初めて「スケルトン定借(つくば方式)」の手法を導入したことでも知られる。行政コンサルティングのほか、「ディセット渦が森」など被災マンションの再建や共同建て替え住宅のコンサルティング・設計監理を手がける。神戸・長田東地区復興まちづくり型分譲住宅設計コンペで最優秀賞を受賞。

《みなとホームプロテクト》 耐震補強から総合セキュリティー
2002年10月設立。本社は神戸市中央区。主な事業は住宅総合管理メンテナンス。軸組や小屋組など家屋構造部の補強矯正による住宅そのものの耐震強度引き上げ事業のほか、一般住宅用防犯機器の取り扱いや住宅の構造部の異常や外部からの侵入異常などをオンラインによってメンテナンス管理するセキュリティーシステムも事業化。とりわけ同社が独自開発した床下の軸組(構造部)補強システム「REBULT SERIES(リビルト・シリーズ)」は巨大地震にも有効な高耐震家屋補強支柱として特許出願しており同社主力商品として販売展開している。その一環として昨年和歌山支店を開設し、2月には高知支店も開設準備中だ。

《ミラクルスリーコーポレーション》 居住しながら既存住宅再生
2000年2月設立。本店は大和郡山市小泉町。主な事業は住宅の増築の特許工法を軸とした建設業コンサルタント。中でも既存住宅を残したまま鉄骨三階建て住宅にリフォームする「ミラクルスリー」構法を独自で開発。耐震性に優れ、建築費用も軽減でき集合住宅や病院、工場への応用も可能。すでに同構法は特許取得済みで、テレビやマスコミにも紹介されているほか、各種コンペにも積極出展。住宅関連をはじめとする産業賞の受賞など多数。同社事業は自社では施工せず特許使用料や建設工事費の一部を徴収する方法で全国にライセンス提携ネットワーク展開している。その一環として昨年東京支店を開設、本格的に関東への進出を目指す