都市は甦る コーポラティブその可能性 <特別編>
住宅流通新聞:2004.2.13

特集 「次代の土地利用と住宅供給を探る」

SI方式型マンション 「参加者 自ら設計」

帝塚山中1丁目で提案 ニーズ実現へ"コーポラ"
キューブ 関電産業 事業安定性とCS追求

都市コーディネーターのキューブ(神戸市、天宅毅社長)と、関西電力100%子会社のデベロッパー、関電産業(本社・大阪市、資本金・八億一千万円、畠中俊尚社長)は大阪市・帝塚山の高級住宅街で、コーポラティブ手法を活用したスケルトン・インフィル(SI)型マンション計画の事業化に乗り出した。関電産業が土地を先行取得、土地所有者として事業参加することで、コーポラティブ事業の難点とされる事業用地の確保と初動期資金の負担問題が解消され、事業の安定性が従来型のコーポラティブに比べ飛躍的に向上。同時に、コーポラティブに資金力のある企業が計画当初から参加できる道を開いたことが最大の特徴で、コーポラティブの新しい事業モデルとして注目される。

「メリット生かし"割安感"も」
事業対象地は大阪市住吉区帝塚山中の約六百十二uの中規模宅地。ここに専有面積八十七uと同百十七uの3LDK基本プラン総十戸のSI型マンションを計画、入居者となる事業参加者(住宅購入者)を一般から募集し、事業主体となる組合を設立。建設する。総事業費は約五億五千万円。 事業名称は「帝塚山中一丁目プロジェクト」で、団地名は「(仮称)帝塚山コーポラティブハウス」。キューブが計画を立案、関電産業は参加者募集の前に土地を先行取得したうえで事業に参加する。 コーポラティブは参加者がそれぞれのニーズにあった思い思いの住戸プランニングができる点などにメリットがあるが、意見集約などに時間がかかり、当初想定していた土地の確保が地主の都合によって流れてしまうなどのリスクもある。 今回のケースでは地主の土地処理要望に対応、関電産業が先行取得することで用地確保のリスクを解消。同時に初動期に必要な土地取得費の負担問題を解消したうえ、参加者が募集枠に達しなかった場合についても、関電産業が空き住戸を取得、通常分譲マンションとして販売する予定で、期間全般にわたって事業の安定性を大きく高めた。 住戸計画は、居住ニーズの実現というコーポラティブの特性を十分に発揮させるため全戸SI型住宅とし、参加者がスムーズに間取り配置など考えられるよう一床二戸のたたき台となる基本プランを提案。それを基に自由にプランニングする。住戸の接続や分割による規模の選択も可能で、上下階二戸を取得すればメゾネットタイプも可能だ。 価格は基本プラン八十七u台で四千四百万円台、百十七u台で五千九百万円台からで、最上階で七千三百万円強。通常分譲マンションのようにデベロッパーによる建物建設投資回収と利益確保のための再販をしないですむコーポラティブの利点を生かし、周辺相場に比較しても割安な設定となっている。 融資も、住宅金融公庫の都市居住再生融資が利用できる予定で、取得費の最大八十%までを基準金利(公庫の最優遇貸出金利)で借り入れられることもできる。 二月七日から参加者募集をしており、今後三月をメドに事業組合を設立、住戸計画など細部を詰めた後、八―九月に着工、来年五―六月ごろの竣工を目指す。

中規模土地利用に活路
(解説)

コーポラティブは、一定の土地を対象に入居者が事前に集まり、それぞれの意見や考えを融合させながらまちづくりを進める手法。参加者が事業組合を設立、組合が主体となって土地買収など用地確保や建物建設などを実施、事業化する。 通常の分譲事業のように開発業者が介在しないのでデベロッパー利益を考えずにすむことから、@通常開発では活用の道が限られている中規模な土地でも十分に事業化できるA事業コストそのものも抑制できるーなどのうえ、居住者それぞれのニーズにあった住宅を取得しやすく、良好なコミュニティー形成が期待できるなど利点が多い。 ただ、参加者の意識調整に手間取ったり、参加者募集が不調に終わる可能性もあり、スケジュールが立てにくいなど事業そのものが不安定なのが難点。事業用地として想定していた土地の確保自体が計画の遅れから流れることもある。 スキームづくりなどの面で優れたコーディネーターが少ないのも課題で、こうした点が居住者メリットが多いにもかかわらずコーポラティブがそれほど普及していない要因だとされており、キューブの天宅社長もこれらの点に「コーポラティブの限界」があると指摘している。 一方で、今回のプロジェクトの対象地は、帝塚山で最もブランド力のある地区内の立地。富裕層を中心に潜在的な居住ニーズが高いとされているが、地価の相場がもともと高いうえ、面積規模的にもマンションや戸建てなど通常の分譲開発では採算ベースに乗りにくく商品化が困難なため、優良な立地であるにもかかわらず、具体的な利用の方向がなかなか見出されずにいた。 これに対してキューブはコーポラティブの手法を用いることで潜在需要の掘り起こしを図りながら、対象土地を十分活用できると判断、計画を提案する。 焦点となったのが土地の確保。地主側の都合から早期に売却処分しなければならないこともあり、余計に「コーポラの限界」が壁になりつつあったが、以前からコーポラティブの活用のあり方について協議していた関電産業の信用力を背景に、同社が参加者募集の前に先行取得することで、この壁を打開する道筋をつけた。 関電産業も、自由設計をコンセプトにデベロッパーとしての差別化を図る戦略を打ち出しており、「コーポラ+SI型住宅」によるマンション供給モデルをつくり出すことで、今後のデベロップメント展開に広がりを持たせることが期待できることもあり、事業化に向けて両者の考えが一致した。 さらに募集割れによるいわば売れ残りの住戸が発生した場合も、その分を関電産業が通常の所有権マンションとして販売する計画にまで内容を昇華。募集割れによる計画の中断といった不足の事態が回避されるなど事業の安定性が一層担保されるので、参加者は安心して事業に参加できるようになっており、結果的にコーポラティブの新しい事業モデルが構築されることになった。 価格も先行取得した土地費回収コストが上乗せされるものの、建物建設費は組合が負担するため、デベロッパー利益を乗せる通常分譲よりは割安で、参加者にとっての価格メリットも確保している。 実際の土地の決済は一月末で、その後二週間で実質的な販売広告となる参加者募集告知を行った。コーポラティブ方式で参加者を集める告知行為は、建築確認申請前でも認められていることから、半年ほどかかる通常分譲の広告開始時期に比べ驚異的に早い段階で告知ができ、時間の経過によって生じる「事業企画と市場ニーズとのズレ」(天宅社長)を最小限に食い止められるうえ、関電産業にとっても「投資資本回収を早められる」利点がある。 仮に募集割れとなり関電産業が通常販売に踏み切った場合でも、天宅社長によると、「その時点が通常の分譲マンション計画の販売時期に当たる。ただしスタート時点は同じでもそれ以前にコーポラで入居者が七―八割決まっていれば、条件は全く異なり、在庫リスクは大きく軽減される」という。

ことばの解説 ポイント用語
▽ コーポラティブハウス
協同組合方式で建てる集合住宅。知り合い同士が集まって土地を探す方法と、事業企画者となる専門家が土地を準備し参加者を募る方法がある。土地取得から建物共用部分の計画・施工など入居希望者がつくる建設組合が行う点に特徴があり、参加者それぞれの要望に合った設計が行える利点がある。 具体的にはコーディネーターや設計者らの支援を受けながら、組合を設立、土地を購入し発注して実現する。専有部分を「自分だけの住戸」にできるほか、完成までに何度か開かれる組合の打合わせを通じて入居者間のコミュニティ意識を共有できるなどの利点もある。
▽ SI住宅
百年以上の耐久性の建物骨格(スケルトン、躯体部分)と、老朽化などで更新する必要がある内装や間取り(インフィル)の可動部分と分離した住宅。躯体そのものの長寿命化で時代の要請である長期耐用を維持する一方、ライフスタイルに合わなくなった間取りや老朽設備などを容易に変更できるメリットがある。 スケルトン部分に関して従来は不動産登記法上の「居宅」として登記できなかったが、国土交通省が二〇〇二年に登記上の取り扱いを「居宅(未内装)」と表示することで登記できるよう明確化したことで、抵当権の設定や建物担保融資が可能になり、普及拡大が期待されている。

キューブ・関電産業の横顔
「キューブ」

1996年6月20日設立。本社は神戸市中央区。資本金は一千万円。阪神・淡路大震災で被災した当事者(天宅社長)として被災マンションの建て替え事業を経験、これをきっかけにコーディネーターとしてコーポラティブ方式を軸にコンサルティング及び事業計画、設計監理を行う。「塚口コーポラティブハウス」の企画・コーディネート・設計監理事業では、関西発の「スケルトン定借(つくば方式)」手法を導入したことで知られる。 「ディセット渦が森」などをはじめ被災マンションの再建、共同建て替え住宅のコンサルティング・設計監理を手がける。神戸・長田東地区復興まちづくり型分譲住宅設計コンペで最優秀賞を受賞。
「関電産業」
1957年5月設立。本社は大阪市北区中ノ島。資本金は八億一千万円(授権資本二十億円)で関西電力が全額出資。テナントビル事業、宅地・マンション分譲事業を中心に、駐車場や商業賃貸施設、保険業、販売代理業、飲食業など幅広く事業を展開。従業員数は六百八十四人(03年3月31日現在)。「human-amenity」をテーマに、人が心から満足できる快適な社会の実現を目指し、様々なニーズに応える事業展開を図る。資産価値と利用価値を満たす「安心」「信頼」の不動産を提供、景観・環境への配慮や顧客との長い付き合いを大切にし、独自な発想とほかにない行動力で快適な暮らしをより大きく広げ顧客満足を目指す。

次代の住まいを見つめて コーポラティブ住宅
模索から実践へ

「帝塚山コーポラティブハウス」に、なぜ同手法を導入する必要があるのか。計画をプロデュースするキューブの天宅毅社長と、事業参加者として参画する関電産業の堀俊明住宅開発部チーフマネジャーに聞いた。
「帝塚山コーポラティブハウス」―その具体化へ
対談

天宅毅さん(都市コーディネート・キューブ社長)
堀俊明さん(関電産業住宅事業部・住宅開発部チーフマネジャー)

■ 課題解決
―事業用地についてまずうかがいます。
(天宅)
面積が二百坪(約六百六十u)足らずの中規模な売り土地でした。分譲マンション用地として開発するには小さく、仮に事業化しても販売単価を相当引き上げなければ採算がとれないなどのため、(帝塚山という)非常に優れた立地であるにもかかわらず買手がなかなか付かなかったという事情がありました。 戸建て用地として開発する場合でも、帝塚山の地価を考慮すれば、分譲価格は高額にならざるを得ず販売リスクが高くなるし、価格を抑制するため土地を細分化すれば(邸宅街としてのステータスが確立されている)周辺環境になじまず商品性がなくなるうえ、(景観破壊として)地元の反発も招きかねない。つまり、規模的に一般的な開発事業が成り立ちにくい土地だったわけです。
―そこでコーポラティブが生きてくる
(天宅)
そうです。住宅購入者が事業参加者として組合を設立し、その組合が主体として事業化するコーポラティブ手法を用いればこうした課題は解消します。 第一に参加者(=購入者)を事前に募るので在庫リスクを軽減できるし、参加者による組合施行のためデベロッパー利益を考える必要がないので、@中規模土地でも十分事業化できるA結果として事業費(=購入価格)も抑制できるなどがその理由です。コーポラティブを使うことで、こうした中規模土地も十分活用でき甦る。
―ただコーポラは実際の土地手当てまで時間がかかるという難点がある。
(天宅)
土地を取得または借地する主体は、あくまで参加者でつくる組合です。事業に適した土地がまず存在し、それから参加者を募り組合を設立するが、地主さんにはその間待ってもらわなければならず、特に売り土地の場合は地主さんは早く処分したいだけに組合設立まで待てない例が多い。コーポラティブの限界がここにあるわけです。今回のケース(帝塚山コーポラティブハウス)でもそうでした。街のステータスを十分に生かしたコーポラティブによる事業化計画を立案、地主さんに土地買い付けを申し入れたところ、この土地と地域に深い愛着を持たれていたこともあって、喜んで計画を受け入れてくれたのですが、時間的な余裕がなく流れかけた。
―計画を気に入られたのに?
(天宅)
土地の譲渡代金を金融機関からの借り入れの返済に充てる予定だったというのがその背景にあります。しかし、抵当権を設定していた金融機関が(時間のかかる)コーポラ事業による返済計画を承認せず、先行決済しないと事業化できない状況に陥ったわけです。 このとき関電産業さんの参加の話が出る。当社では以前から『コーポラの限界』を取り除くため資金力のあるところと新しい事業化モデルを構築できないかと考えており、関電産業さんでは良好な環境に立地する中規模宅地の開発のあり方を模索、コーポラを通じて何ができるか話し合ってきたという経緯があり、そこから今回の事業化モデルが出てくるわけです。
■ 自由設計を
(堀)
弊社はもともと関電向けの不動産のリース事業を軸に展開してきましたがここ数年は、マンション宅地開発といった通常のデベロップメント事業や関電保有土地の有効活用なども行っています。そうした展開の中で、今回のケースのように大規模開発に向かない中規模宅地にどう向き合っていくか、その一環としてコーポラティブ手法を活用しようと、そのコーディネーターを探していた。そこでキューブさんと巡り合い、慎重に事業化を模索してきました。
―不動産事業の本格展開を行ううえでの一つの選択肢としてコーポラティブに着目された。
(堀)
住宅・不動産会社としてはやはり後発組なので何か特徴を打ち出す必要がある。そのため、『自由設計』を取り入れたい。コーポラティブはその具体化の有効手段の一つだと捉えています。 コーポラではないのですが、一昨年夏に夕陽丘で販売したマンションでも自由設計を具体化するため、完全SI手法を導入、『お客様と一緒にすまいづくりを行いたい』という考えを打ち出しました。それにコーポラはまさしく合致する。その意味でも今回の帝塚山は当社にとってモデル事業となるでしょう。
―事業スキームは?
(天宅)
最大の特徴は、関電産業さんが土地を先行取得し、土地所有者として事業に参加する点です。大きな流れは通常のコーポラティブと大差はないが、通常は参加者の募集状況によって当初予定していたスケジュールなどが大きく変わる可能性があるし、当初計画がまったく白紙にさえなる場合もある。これがコーポラのもう一つの課題です。 地主さんの土地売却希望に応えるのはもちろん、こうした課題の解消を図る点に狙いがある。今回のケースでは、デベロッパーである関電産業さんが土地所有者として事業に参加したうえでスケジュール優先で事業化することにしている。 仮に参加者が予定通り集まらなかったとしても不足分を関電産業さんが通常のSI型マンションとして販売するので、竣工まで当初スケジュールの範囲内で進められる。(土地取得の)決済はすでに完了しました。
―土地所有者としての参加とは、組合員になるということですか。
(堀)
そうです。もちろん募集人員に対して全員集まれば、当社としては土地を売却しその時点で事業が完了する。立地環境も十分なので、当社もいっしょに組合に参加し、ともに良好な住まいづくりに取り組む一方、参加者の決まらなかった住戸は取得し販売する。
(天宅)
初動期コスト(参加者募集広告費)は参加者への土地転売費(参加者にとっての住戸購入費に含まれる)で回収する仕組みだが、これも事業の円滑化に大きい。初動期費用は通常コーディネーターが立て替える場合が多いが、十分な告知を行うためには資金力がある程度必要になる。この初動期資金を関電産業さんに協力していただくことで、参加者も安定して参画できる環境づくりが可能になる。コーディネーターとしてこうした点も改善したいと思っていました。
―コーポラティブのデメリットが改善され、メリットがさらに強調される。
■ 参画の道
(天宅)
この土地は二百坪足らずですが、一軒の敷地としては非常に広い。しかしデベロッパーにとっては十軒建つか建たないかの規模。切り売りすれば街並みが崩れるし、マンションとして事業化しても、モデルルーム開設などの費用に見合った採算はとれない。竣工売りをしようにも、一年半先の市場で評価されるのかも怪しくなる。 富裕層が評価する立地でありながら、通常のマーケティングでは事業化できにくいわけです。それがコーポラを使うことで可能になる。今回のケースではこうした土地を生かせたうえにデベロッパー参画の道も切り開くことができたと思います。
(堀)
帝塚山という立地で(専有面積)七、八十uという一般的なマンションを供給しても、はたして顧客がそのレベルで満足するかという問題もある。今回では九十u弱と百二十u弱のプランをベースとして提案していますが、顧客の希望に応じて(ベースプランを接合することで)広げることができます。SI型による間取り設計の自由度と合わせて、市場ニーズに即応できる事業モデルだといえ、その点も参加デベロッパーとしてのリスクヘッジにつながります。 ただ、売れればよいという販売スタイルではなく、顧客満足を追求する。それが自由設計であり、コーポラティブはそれを具体化する有力手法。当社の独自性を確立するためにも、コーポラティブは有効で、今後こうした『ニッチ』の土地で事業展開も積極化していきたいと考えています