住宅流通新聞 特集・まちづくりの今後を考える〜新春特別座談会
2005.1.1 土曜日 住宅流通新聞
日本を代表し世界に誇る町・京都。千二百年余りの歴史・文化の蓄積と独自の町並みが織りなす「京都ブランド」が人々を魅了する。その重要な構成要素である「町家」を中心にした景観が、マンションなど高層建築によって急速に喪失しようとしている。地域経済との折り合いを付けながらそれをいかに保全するべきか。町家をはじめ住宅研究に造詣の深い京都大学名誉教授の巽和夫氏と、京都らしい住宅供給を続ける一方、町家再生にも取り組むデベロッパー、ゼロ・コーポレーション社長の金城一守氏、関西でのコーポラティブハウス第一人者である都市コーディネーター、キューブ社長の天宅毅氏の三氏が、京都町家保全のあり方を通してこれからの都市に何が求められるのか話し合った
2005年新春 特別座談会
出席者
・ 巽 和夫氏(京都大学名誉教授)
・ 金城 一守氏(ゼロ・コーポレーション社長)
・ 天宅 毅氏(キューブ社長)
景観破壊に危機感(巽) 持続性あるマンションを(天宅)
――最近メディアでは京都特集を組む番組や雑誌が増加し、一種の『京都ブーム』再来の様相を呈しています。その背景には京都の風情、あるいは『京都らしさ』を再評価する動きがあるようですが、この『らしさ』をいかに保全していくべきでしょうか。
(巽) 「おっしゃる通り、確かに『京都らしさ』を評価する動きは強まってきているようです。経済は安定成長路線に大きく転換し、その中で歴史・文化に裏打ちされた京都の価値を見つめ直すという気運が盛り上がってきたことがその要因かもしれません。実際、そうした気運を受けて町家や町並み保全の動きが強まっているのも事実。古い町家を再生・利用したり建物を『町家風』にしたりする例が増えています」「しかし一方ではマンションがずいぶん建ち、このままでは『京都(の町並み)が壊れていく』との危機感も高まった。適法建築でも建ってしまえば景観は明らかに壊れる。そして町並みに愛着を持つ住民との間で紛争も絶えない。日本建築学会もこの現状を憂い、特別委員会を設置、対処に向けた方策(京都の都市景観の再生に関する提言=座談会・気になる言葉@参照)を取りまとめ、市長にも提言しています」
―市側も景観保全に向けた条例やルール化による規制(京都都心部の新建築ルール、昨年四月施行=座談会・気になる言葉A参照)に踏み切った。
(巽) 「東西が河原町通りから堀川通、南北が主に五条通から御池通に囲まれた中心市街地に限っての適応で、その区域が饅頭の中身(餡)に例えられて『餡子の規制』と呼ばれている。本来は市街地全域を対象とすべきですが、京都らしさを急速に保全するため(経済面で開発されやすい)中心市街地を対象にした」「市にはジレンマがあるわけです。経済の活性化を図るには建築活動をある程度自由にして投資を呼び込んだ方がいいという考え方が根強い一方で、『京都らしさ』が残っているからこそ価値があるという考え方がある。まさに両極です。この狭間の中で身動きが取れず、その間にマンションが林立するようになった。今回のルール化で市は、やっとこうした流れから転換する姿勢を打ち出した」
(天宅) 「阪神大震災で倒壊したマンションの再建に携わったが、その際、マンションが内包している『あやふやさ』を痛感した。多くの壊れたマンションの再建が困難をきたしたようにマンションは日本の社会システムや居住環境にまだ十分なじんでいないということです」「西洋のように、ほとんど地震がないところでは、建築物は半永久的に存続する。その前提の中でマンションという居住形態が確立され、何の問題もなく住み続けてこれた。しかし、地震国・日本では同様の前提は確立し得ないし、歴史的にも居住用の高層建築は造られてこなかった。にもかかわらずマンションはわりと簡単に受け入れられてきた。しかし、地震で壊れたらお手上げ状態。未だマンションは日本の風土に合った持続性を獲得するに至っていないと思います」
――京都ではマンションは向かない。
(天宅) 「一概にはそうとも言い切れません。ただマンションを巡る紛争が多い理由は京都の歴史の集積に求められるのではないでしょうか。都市として千二百年以上も持続的に活性する町というのは、それを可能にする仕組みが明らかに完成している」「町家はそれぞれが時代に非常に柔軟に対応しながら一つひとつ更新を繰り返し全体として京都の町並みが形成されてきた。持続的に変化する仕組みが内蔵されているわけです。これに対して区分所有マンションの歴史は四十年そこそこ。ハードで柔軟性にかける、すなわち持続性という観点からすると完成度の低い異物(=マンション)が突然現れるのだから、住民の抵抗感や危機感は当然高いでしょう」「しかし持続性を持った計画、長期的に循環できる仕組みを持ったマンションであれば受け入れられるのではないか。そう考えて以前、御所西のマンション事業コンペで『スケルトン定借』方式(座談会・気になる言葉B参照)によるマンション計画を提案したことがあります。尼崎・塚口で関西第一号案件(二〇〇〇年竣工)を手掛けた経験から、この手法には持続性具体化への考えが凝縮されていると実感したからです」
(金城) 「二階建ての町家に住み景観に慣れ親しんできた住民におって、いきなり十階建ての大きな壁(マンション)が出現すれば『これはなんやねん』となるのは当然です(笑)。逆に業者にとっては低層地域に適法にランドマークを建てられるわけですから、事業循環がすこぶるいい。」「独のケルン大聖堂は六百年かけて建築し続け、市のランドマークとして景観に溶け込んでいる。しかし川向こうは都市計画上、高度利用が許されており超高層ビルの建築ラッシュ。これで激しい景観論争が起こっているそうです。海外でもそうですし、(景観保全への)規制も日本よりずっと厳しい。日本ももう少し行政が関与してもいいと思います」
(天宅) 「その意味では私権制限を伴う新建築ルールの施行は画期的な試みだと評価できます」
(金城) 「京都は何と言ってもやはり町家でしょう。僕自身もいい町家には魅入れられる。住宅団地開発を手掛けているが、付近にいい町家があればそれを景観形成に活用したり、思い切って所有し再生したりしてきました。町家の風情をつぶすのは忍びない」「十年ほど前に当時の助役の北里敏明さんが行政として町家の再生に取り組まれた。その際、市民団体などと町家を研究するワーキンググループ『北里会』を立ち上げ、僕もそのメンバーに招かれたのですが、市民団体や建築士会などとともに市の予算で町家の実態調査をしました。それまで町家の保存は僕を含め細々と続けられてきたが、やはり行政が動くと大きい。それをきっかけに町家の人気が高まり、一気に保全の気運が高まったのですから」
(巽) 「金城さんがおっしゃる通り、町家は京都を代表する建築物であり、かつ風景でもあります。その意味でも、行政が積極的に調査に乗り出したのは画期的だった。これで町家を見つめ直す気運が高まり、住宅行政のあり方を含め都市づくりのあり方を(行政が)再考するきっかけにもなったし、古いものを再生し、活用するという動きは京都だけでなく、あちこちでも広がるようになりましたから」
――ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)は明治の日本の各都市を見て、それぞれの都市の表情がすべて違い、しかも美しいことに感嘆したそうです。江戸期の諸藩が半ば独立しており、各地域の実情ごとに行政や都市計画を行ったためで、同様に地域の独自性の発揮は現在の都市づくりを進めるうえでも改めて考える必要があるのではないでしょうか。
(金城) 「その通りで、やはり地域がもう少し独自の政策を打ち出すべきでしょう。戸建開発の最前線にいる者の感覚として、今はどの業者が建てても似たような住宅ばかりになり、これが増えていくと町や都市が持つ独自の『らしさ』はいずれ喪失するのではと感じています」「当社では、@耐震性が高いA維持管理がきちんとできる仕組みの投入B丈夫で長持ちする耐久性の高い住宅C高齢化対応―といった(主に住宅性能表示制度=座談会・気になる言葉C参照=に対応した)いくつかの項目を満たす住宅づくりを限られたコストの範囲内で行っている。程度の差こそあれ他社でも同様でしょう。例えば外壁を通気層のある二重構造にする際、壁材は窒素系のものが良いということになり、結局どの業者も採用する。似たような住宅になるわけです。」「しかし京都独自のアイデンティティを主張するのであれば、こうした技術上の流れにも『待った』を掛けないと。業者は常に競争しているのだから、住宅建築にも行政がなんらかの指針を示さなければ、業者は動くわけありません」
――そうなれば全国一律の建築基準法のあり方も考えなければなりません。
(巽) 「地域の実情にあった建築を誘導できる内容を盛り込むことも一つの方策かも知れません。日本の住宅はかつて、今日のように材料が豊富ではなかったから、木と紙と瓦で造られていた。しかしそれでも地域性は色濃く出たわけです」「それぞれの地域に産する材料を使って、それぞれの土地の条件にあった構造物とすることで、自ずと住宅と町のスタイルができあがる。その意味で、京都の『こだわり住宅』を一斉に造るといったコンセンサスが形成されれば、いずれ京都らしさが面として表出される住宅づくりができるのではと楽観しています」
(金城) 「いっそのこと、京都全体を美観地区に指定したらどうか。例えば、屋根は瓦葺に統一しなければならないとか、庇を一定以上張り出させる、あるいは窓でも外から見えるところにはアルミではなく木を使えとかです。保全を真剣に考えるのであれば、こうした指導や規制は今後現実になるのではないかと思っています」
(巽) 「瓦一つとってもその種類・形態は土地土地によってまさに千差万別。今は違うがかつての家づくりには『頭(こうべ)八貫』という考えがあった。台風被害を防ぐため屋根を重くする。高地では安芸瓦を使うが、重いかわりに一枚一枚が小さい。屋根葺き作業を効率化するためと、仮に風で飛ばされても小さい方が葺き替えやすいし、風の吹く方向がだいたい決まっているから、風の流れやすい向きに葺く」「産地ごとの土で焼き、産地ごとの葺き方もあり、自ずと地域の表情、風合いが出るわけです。京都全体を美観地区に指定するのは僕も賛成だが、そこには京都の歴史や伝統・文化が自然とにじみ出てくるような配慮、そしてそれによって全体の美観が形成されるという考え方も盛り込まなければならないでしょう」
――町家の保全や再生を考えるうえで、経済性との折り合いをどうつけるか。
(天宅) 「京都は長い歴史の中でたびたび震災や大火にもあっている。しかしその都度、町として再生している事実に着目すれば、やはり『循環型』のまちづくりの仕組みができていたといえるでしょう。これを繰り返して一千年超も都会であり続けた。町家のように一つひとつ独立して完結しているものであれば例え倒壊してもすぐに修復できる。しかしマンションはそうはいかない」「かつて日本の都市が一つひとつ魅力を持ちえたのは、『そこで取れる土が安いからそこの瓦を使う』といった土地ごとの経済原理が働き、都市それぞれの独自性を醸成することにつながったと考えられるのではないでしょうか。しかし今は流通経路が格段に広がり、建材も高品質で安価なものが供給され、どこでも同じものが手に入り、結局同じ住宅ができあがる。全国一律なんです」「しかしそれが逆に『京都らしさ』が再評価される要因になっているのではないか。京都しかないものに商品価値が見だされ始めている。高度経済成長の過程では新しく生み出されるものに価値が見出されたが、成熟経済の下では、歴史性や物語性が経済価値を生み出す。京都が発信する商品やモノは、『京都ブランド』が強いものほど価値が高まるのではないでしょうか。すると、さらに『らしさ』を求める動きが広まり、それが自ずと『京都づくり』につながる。好循環が現出されるわけです。今はその過渡期では」
――住宅産業・住宅市場に携わるプレイヤーはこれをどう捉えるべきか。
(金城) 「住宅市場で『京都らしさ』を残し新たに創るには、やはり行政の関与が必要でしょう。例えそれが業界にとって"不条理"な規制であってもです」
(天宅) 「おっしゃる通り"不条理さ"を強制できるのは公(行政)しかない。新建築ルールはまさに"不条理"そのもので、そこに土地を持っている人にとっては、仮に高層建築を建てれば高く売れたかもしれないのに、規制を受けることで土地の評価が実際にも下がっている。明らかに私権の制限です。しかし、そこに踏み込んだことは評価に値する。それによって新しい価値=『歴史性が生み出す経済価値』が発露すると思っているからです」「開発者側にとって"不条理さ"は、実はあまり大きな意味を持たない。プレイヤーにとって重要なことは『同じ土俵』(同一の競争条件)に上がるという点にあります。同じ条件が規制によって整えられるのであれば、対等に勝負ができ不利にはならない」「逆にプレイヤーが最も嫌がるのは『抜け駆け』です。これまで違法建築が絶えなかったのは、その方が質は悪いが安くて広い商品が供給できたからです。だから抜け駆けする業者が多かった。競走上、同一条件ではなかったのです」
(金城) 「京都では今、違法建築は皆無です。行政が抜け駆けをさせない規制、つまり中間検査を徹底させたためです。検査を通らないと融資が付かない。現状では開発条件のいい土地の仕入れ価格は一種のバブル状態だが、中間検査をきちんとやれば、たとえ地価が上がっても(最終価格を抑えるための手抜きなど)違法建築はでてこない。これは非常にいいことです」
(天宅) 抜け駆け業者にとっては、文字通り"不条理"だったのでは(笑い)しかし、それで経済効果が落ちたのか。むしろ上がったのではないでしょうか。規制によって合法な建築物で勝負できる環境、つまり『同じ土俵』ができたに過ぎないからです」
――消費者からすればそれは至極当たり前。
(天宅) 「そうです。現在生きるものにとって、歴史はまさに"不条理"なものです。皆が共有できる価値観に基づいた"不条理"があっても構わないわけで、その代わり抜け駆けを防止する強制力がきちんと働くようにする。そのうえで金城さんがおっしゃったように、建物の意匠面にも条件を付けるような規制を行う。そこまで踏み込めば効果はテキ面に出てくる。そうなれば、先程過渡期であると申し上げた『京都らしさが価値を高める好循環』につながることでしょう」
――町並み保全などを進めるうえで、行政の関わり方を改めて考える必要があるといえそうです。
(天宅) 「日本では私権の制限は、なにか聖域に踏み込むような雰囲気がある。日本の行政の一種の特徴ですね。景観形成一つとっても西欧では行政が非常に大きな強権を発動しています。例えば伊では窓枠を替えるだけでも審議会を通さなければならないし、私権が尊重される仏でも町並み維持への公権力が強い。社会主義国よりも社会主義国らしいといわれる日本では私権は野放図。ここに日本の町並みが雑多になる原因があるのではないでしょうか」「近代以前の日本は、本当に美しかったのではないかと思います。清潔感も高く、統一感もあり、意匠的にも完成度が高い。文明開化前の京都は、感動するほど美しかったんでは(笑い)」
(金城) 「行政や首長自体が、まちづくりに対する認識が不足しているように思うし、私権についても何か勘違いしているのではないかと思います」
(巽) 「先述しましたが、まちづくりは強制だけではなく、材料も技量もそこにあるものを使って行われてきた。だからこそ自然に調和が生まれる。そして同じことを繰り返すことで洗練もされてくる。それが近代化以降、鉄やガラスやコンクリートなど新しい材料が一気に広まり、建築家もまた新しい試みに取り組もうとする。古いものを顧みなかった。これが混乱のもとです」「現実には今後も材料は豊富になるし、工法も次々に新しいものが生まれる。この流れは止められないし、それが現実である以上、それを許容しながらも、『この町をこうしていくんだ』という確固たるポリシーをもってまちづくりにあたるべき。それがなかった。ない以上混乱するのは当たり前でしょう」「その意味で行政の怠慢は確かにあったと思う。京都市のような自治体では市長、助役のトップ三人のうち、少なくても一人はまちづくりの専門家であるべき。空間を計画しデザインしコントロールする担当のトップがいるべきなのです。僕の後輩が新潟市長を三期努めたが、その彼があるシンポジウムでしみじみ話していました。『建築や都市計画を専攻した市長がでてくれば(日本の)都市はもっと良くなる』と」
(天宅) 「日本はもともと美意識の高い国だったんですが…」
(金城) 「戦後の混乱から高度成長の中で、どうもそれを忘れ去った(笑い)」
(巽) 「それは『ミクロの美意識』だったんじゃないか。材料や工法に制約がある中で、それを精一杯使い『ミクロ』を積み重ねて美しいものを創ってきた。ところが現代では(材料や工法が多様化しすぎて)ミクロを積み重ねても、雑多になるだけ(笑い)。ポリシーが欠如しているためです。マクロの視点でそのポリシーを構築しなければならないが、しかしそこが弱い。(建築関連や都市計画上の私権制限の考え方などを包括する)法制度面でもそうです。」
――住宅の気密化を推し進めるあまり強制換気を建築基準法で義務付ける。まさに本末転倒。ポリシーのない法制度の典型です。
(巽) 「そうです。これでは換気機器メーカーだけが儲かる。いよいよ雑多になるわけです(笑い)」
――一方では、新しいミクロを積み重ねる試みも出てきました。
(金城) 「エネルギーの自給もそうでしょう。二月に地球温暖化防止の京都議定書が発行される予定ですが、住宅の環境性能の向上も考えていく必要がますます高まってくる。その中で今最も有力だと考えているのが燃料電池(FuelCell=FC。燃料電池は座談会・気になる言葉D参照)。二酸化炭素(CO2)をまったく排出せず、出るのは水だけ。エネルギー自給は電力市場の行方を考えると不可欠なものになると踏んでいる。価格もあと三、四年経てば一基五十万程度のものが出るそうです。」「京セラが、発電効率四二、三%のもの燃料電池を開発しているらしく、その話を聞いたときは思わず『ウソやろ』と驚いた(笑い)が、それだけ進んできたということです」「当社では今『まちなか未来住宅』造っている。次世代のシステムをどんどん取り入れた実験住宅で、京都のまちなかでどんな住宅ができるのかを考えるためのいわば先行投資です。そこに燃料電池も試そうと。京セラの話はその研究の過程で聞いたものです。とにかくおもしろい時代が来そうです。こうした点も踏まえながら京都のまちづくりを考えていくべきではないでしょうか」
(巽) 「住み手(のニーズ)も多様化し、町家に住みたいという人も増えてきている。しかし、冬は冷えるし、町家が必ずしも住みやすいというわけではない。でもニーズが増えているということは、性能が高く快適で便利であればいいという住宅に対する一方向だけの価値観には満足できない人が増えている証明でしょう。多少住みにくくても、京都の中でそして町家に住みたい。少々の不便も楽しむ。そうしたニーズが確かに広がっている。」「最高の性能確保を目指して住宅づくりを行う。しかし、どこも同じものができる。これは一種のグローバリズムであると言えようが、それに反するように古いものに価値を見いだす、京都の価値を再評価する流れも確実に生み出されてきています」「従って、京都のまちづくりを語るときには、性能や、利便性だけを積み重ねるのではなく、そこに育まれた歴史・文化の集積を考えなければならない。そのうえで、まちづくりの方向性やポリシーを構築し、その実現に必要だと思われるコントロールも併せて行い、実践していく。行政も遠慮せず、本当のまちづくりのあり方を考えて、それを貫く姿勢が必要でしょう」
――長時間にわたり、ありがとうございました。
@「京都の都市景観の再生に関する提言」
A京都市都市部の新建築ルール
Bスケルトン定借
C住宅性能表示
D燃料電池
▽ 京都の都市景観の再生に関する提言
歴史都市・京都の景観は近代建造物の出現で破壊されつつある。京都の歴史的景観の美を後世に向けて継承していくために、九八年、日本建築学会が中心となって「都市景観特別研究委員会」を設置、四年間の調査研究をもとに報告書を提出した。その成果を踏まえて国をはじめ各方面に、@ナショナルプロジェクトとしての京都の都市景観の創造的再生A京都らしい都市景観のデザイン原理の解明B都市景観を育む生活・文化の継承と教育C都市景観を支える技術の継承と開発D市民のイニシアティブを生かした都市景観デザインの推進E京都景観研究センターの設置F急速に進む景観・環境破壊―の提言を行い、その上で具体策を打ち出した。
▽ 京都市都市部の新建築ルール
京都市では近年、共同住宅の建設による日照やプライバシー阻害などの居住環境問題やまちなみ景観の喪失など大きな問題が発生している。
これらの問題に対応するため京都市では学識経験者からなる「京都市都市部のまちなみ保全・再生に係る審議会」を発足、同審議会の提言をもとに具体化した同市独自の新建築ルール案を作成、平成十五年四月一日から施行した。同ルール案の適応区域は京都市内の都市再生の先導地区である職住共存地区(四条通・烏丸通・河原町通など東西三本、南北三本の幹線道路沿い街区)。主な内容は@特別用途地区の指定A美観地区の指定B新しい高度地区の指定―など三つの新ルールにより規制強化することでマンション建設を抑制し、京都の伝統的な町並みを保全するのが狙いだ。中でも、職住共存地区を新たに美観第四種地区に指定し、高さが十二mを超える建物(新築・模様替えなど)には承認が必要としたほか、新しい高度地区の適応で隣地の通風や採光条件を改善するため隣地斜線制限を採用。通りの景観を整えるため建物の高さの最高限度について、道路に面する高さとセットバックした絶対高さを段階的にさだめる項目を盛り込んでいる。これによってマンションを建設しても採算が取れないなど、結果的にマンション建設が排除されている。
▽ スケルトン定借
定期借地権の一種である建物譲渡特約付き借地権を活用、集合住宅の一戸分を百年間の長期耐用が可能な基本構造のまま供給し、間取り・内装・設備など住戸内部(インフィル)を入居者自身が自由設計できるスケルトン(骨組み)方式と定借メリットを活用。さらに全入居者が集まってから事業化するコーポラティブ方式も融合させ地主の経営リスクも回避する。この三手法の組み合わせで住宅を低価格で供給する一方、良質なストック形成を促進する手法として開発された。九六年に茨城県つくば市で第一号が完成したことから「つくば方式」と呼ばれる。最大の特徴は、全期間を六十年としたうえで、建物譲渡特約に基づいて借地期間を三十年とし、借地期間終了時に地主が建物を買い取り残り期間を借地経営するか、そのまま借地として経営するか選択できるようにした点が挙げられる。さらに、従来の一般定借と違って借地期間満了時の土地返還に伴う建物取り壊しを前提としないので、保証金が不要。三十年以降、地主の建物買取価格と入居者家賃を毎月相殺する契約を締結するため、借家に移行しても月々の賃料は通常の賃貸マンショより割安になるメリットがある。建物修繕や維持管理コストの地主・入居者間での負担ルールの設定や入居者による自主的な維持管理の仕組みも内包、長期にわたって建物の資産性を保ち、マンションで問題化しやすいスラム化も防ぐことができる。つまり、持続性のあるマンションづくりが可能になる。関西では二〇〇〇年に都市コーディネーター、キューブが尼崎市で初めて事業化した。
▽ 住宅性能表示
二〇〇〇年四月に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」の三本柱の一つ。住宅性能表示制度は国指定の評価機関により、住宅性能評価書の交付申請によって行われる。(交付は設計と設計段階の二種類)。幾世代にもわたって快適に利用できる住宅づくり、時代の要請である良質ストック形成の促進が狙いで、法全体で欠陥住宅の防止やアフターサービスの充実、消費者保護を制度化した。国の定めた性能表示項目は@構造の安全A火災時の安全B劣化の軽減C維持管理への配慮D温熱環境E空気環境F光・視環境G音環境H高齢者等の配慮―の九項目。これらが等級数値別に評価される。
▽ 燃料電池
従来の石油依存の経済から脱却するため、わが国でも広い分野で新エネルギー開発の取り組みが本格化している。中でも水素をエネルギーとする燃料電池の発電システムの研究開発が進み、一部では燃料電池自動車や家庭用の小型燃料電池として実用化されている。燃料電池は「水の電気分解」と逆の原理で水素と酸素を化学反応させて、電気エネルギーを作り出す仕組み。その特徴は@化学反応によって電気エネルギーを作り出し直接変換できるため、燃料の熱エネルギーを利用する火力発電と比較しても発電効率が高いA廃熱利用が可能B水素と酸素が反応して発電した結果、水素と二酸化炭素を放出するが、従来の電気・熱を利用した場合の発熱量と比較しても少なく、環境汚染が心配ないC水と水素を供給し続ければ発電機として利用―などあげられる。燃料電池は新エネルギーとして経済産業省が中心となってその開発・実用化のために計画を立てて、各研究機関を支援している。
京都ブーム
まちづくり座談会・気になる言葉
制限の是非
地域が独自政策を(金城) 実情に根ざす建築誘導も(巽)
経済との整合
全国同一ゆえに再評価(天宅) 保全・創造へ"不条理"さも(金城)
総括
大局的な"ポリシー"を(巽) 新しい"ミクロ"も必要(金城) "京都づくり"好循環へ(天宅)
「出席者プロフィール」
巽 和夫(たつみ・かずお)さん
1962年(昭和37年)京都大学大学院工学研究科博士課程を修了、68年に京大工学部教授。93年(平成5年)同名誉教授。旧建設省住宅宅地審議会委員、(社)都市住宅学会会長などを歴任し、現兵庫県住宅審議会、京都市建築審査会会長。住宅・まちづくり研究の第一人者で、「町家型集合住宅」(学芸出版社)など著書も多数。日本建築学会賞、建設大臣表彰など。29年、京都府生まれ。
金城 一守(かねしろ・かずもり)さん
1981年(昭和56年)京都市北区にゼロ・コーポレーションの前身、京都住宅販売を創設、96年(平成8年)現社名に。大手住宅メーカーなどが踏み入ることのできなかった京都・まちなかでの新築住宅事業に着手する一方、都市型住宅やまちづくりの研究開発にも取り組む。99年狭小敷地を対象にした新建築工法「ゼロ工法」で大臣認可を取得。2004年に意欲作「北大路まちなか住宅コラボレーション」でグッドデザイン賞を受賞。
神戸市生まれ、56歳
天宅 毅(あまやけ・たけし)さん
89-96年(平元―8年)にリクルートコスモスで企画・設計監理などに従事。90-91年に竹中工務店への出向を経て96年、キューブを設立。神戸大学工学部建築学科卒、神戸大学大学院工学研究科建築学科修了。日本建築家協会会員、スケルトン定借普及センター委員。
京都市生まれ、40歳。
ゼロ・コーポレーション
1981年(昭和56年)設立。本社は京都市北区紫野上野町。資本金は8,000万円で、社長は金城一守氏。前期(2004年3月期)連結決算で売上高128億円、経常利益9億円。今期(05年3月期)は売上高130億円、経常利益9億円を見込む。主な事業は、まちづくり・市街地の再生・高品質住宅の供給など。
従来の建売住宅とは違う感性で地域とのかかわりを重視した街並みデザインを建売住宅に取り入れ、市街地再生や新しいまちづくりを次々に提案。同社が手掛けた代表的な案件「北大路まちなか住宅コラボレーション」は8人の建築家が手を組み、京風町家をイメージした団地に仕上がった。
キューブ
1996年6月設立。本社は神戸市中央区北野町。社長は天宅毅氏。阪神・淡路大震災で被災した当事者(天宅氏)として携わった被災マンションの建て替え・再建事業をきっかけに、自らコーディネーターとしてコーポラティブ方式を軸とするコンサルティングおよび事業計画、設計監理をおこなう。代表作「塚口コーポラティブハウス」事業では関西で初めて「スケルトン定借」(つくば方式)の手法を導入したことでも知られる。
神戸市長田東地区復興まちづくり型分譲住宅設計コンペで最優秀賞を受賞。京都市のゼロ・コーポレーションの「北大路まちなか住宅コラボレーション」プロジェクトにも参加。