定期借地権を設定する事例 注目集める "つくば方式"
日経マネー
「通常の分譲マンションより割安で、間取りの設計が自由にできました。将来の老朽化による資産価値の下落も、起こりにくいと聞いています。」"つくば方式"のマンション「塚口コーポレートハウス」(兵庫県塚口市)の一室を購入した塩谷和美さん(主婦、53)は満足そうだ。同マンションを手がけた「キューブ」(三宮市)の天宅毅社長は、「せっかく買っても30年後にボロボロという日本の従来のマンション事情が、この方式が広がれば変わっていくだろう」と見ている。
つくば方式は入居側(入居者の組合や住宅会社)が、地主と「建物譲渡特約付き定期借地権」を設定して契約するもので、そこに30年後に地主が建物を買い取る特約を付けておく。入居側が契約した土地にマンションを建て、最初の30年は、地主に対して借地権に基づく地代を払う。ただ、土地そのものを購入したわけではないので、マンション代は地代を入れても通常のものより何割か安くあがるケースが多い。
マンションはスケルトン・インフィル(SI)構造という、スケルトン(建物の構造・共有部分)とインフィル(内装部分)を分離する考え方で基礎的な構造部分はそのままに、インフィル部分だけならいつでも直せる作り方をしておくわけだ。
30年たったら、地主は建物を買い取るか、そのままもう30年間従来通りの経営をするかを選択できる。買い取った場合は、入居側に払う費用と、入居者が地主に支払う将来の家賃とを相殺することになる。入居側は持ち家から賃貸へと形式は変わるものの、契約により、残り30年は安心して非常に安い家賃で住み続けることができるのだ。
重要なのは、地代の買い取り価格を決めるための評価が、スケルトン部分に関して、「各入居者が決められた保守・修繕をどの程度やったか」で変わってくることだ。
手を抜けば30年たった時点での評価が低くなり、入居者は相殺されるはずの自分のその後の家賃に足りなくなる可能性がある。追加支払いが必要になるかもしれない。── 一定期間経過後に売却が決まっており、評価は個人ごとにされる。ということは、保守・修繕へのインセンティブが、ほかの仕組みに比べて大きいわけだ。
一方、インフィル部分は評価対象にしない決まりで、入居側が賃貸以降後も引き続き自由に変えられる。
前ページで試算してくれた紀平さんは「従来のマンションは、資産と呼ばれながら実は耐久消費財だった。つくば方式はそれを変えるかも」と指摘する。マンションが何十年かでぼろぼろになる理由は、スケルトン部分がきちんと保守・修繕される仕組みにないことと、インフィル部分の機能が陳腐化したり家族構成に合わなくなること。この問題をきちんと入居者に説明しようとするマンション業者は少ない。
もっともつくば方式は、仕組みの難しさから知名度がなかなか上がらず、実施例は全国でもまだ10棟前後。実際に体験したキューブ社長の天宅さんは「比較的安価に本当に永住できるマンションが、つくば方式ならできる可能性がある。地主側の節税効果も非常に大きいので、土地保有者はぜひ制度の詳細を調べてみたらどうか」と指摘している。