分譲マンションでは満足できない層が注目!
コーポラティブハウスをひと言でいうと、家を建てたいと希望する人々が集まり、建設組合を結成して、共同住宅を建てる方式のことだ。組合が事業主体となっ て地主から直接土地を購入しミーティングでのディスカッションを通して各自の要望をまとめて建物を設計。建設会社に工事を発注するという手順を踏むのが基 本だ。建物外観や共有部分に法的な規制はあるものの、各戸の間取りや内装は自由設計になるので、注文住宅に近い感覚で建てられるのが特徴となる。
コーポラティブハウスは、もともと欧米で生まれた方式で、「理想の住まいを自分たちの手で建てよう」という”コミュニティづくり”の発想が底辺に流れてい る。日本では1960〜1970年代にかけて誕生しはじめたというから、すでに30年ほどの歴史がある。しいかし、いまだに供給戸数は伸び悩んだままだ。 コープ住宅推進協議会の調査によると、1974年から1999年までの26年間で焼く6500戸、つまり年平均250戸だから、いかに少ないかがわかる。 ただ、1995年以降、毎年300戸以上のペースで供給され始めており、じわじわと増えてきているのは確かなのだ。
では、なぜここに来て再び注目を集めるようになったのだろう。ひとつは、コーポラティブハウスの持つメリットが、従来の規格化された分譲マンションに満足 できないユーザー層に大きくアピールしていることがある。コーポラティブハウスの持つ基本的なメリットとして、一般的には次の点があげられる。
1、住まいづくりの家庭を通して、安心できるコミュニティを築くことができる。
分譲マンションでは、実際に入居してみるまで、どんな人間が隣人となるかわからない。時には、10年以上住んでいても一度も顔を合わせたことがない、と いったことも起こる。しかし、コーポラティブハウスの場合は、組合結成後から建物完成まで、建物のプランづくり、入居後の規約づくり(たとえばペット可か 不可か)
など、住民が何度も顔を合わせる機会を持つ。当然、顔見知りにもなるから、自然と人間関係が築かれ、コミュニティが形成される。
「コーポラティブハウスを建てたいと希望される方の多くが『気軽にあいさつができる程度の人間関係があると、暮らしていても安心そうだ』という考えをお持 ちです」というのは、東京でコーポラティブハウスのコーディネート事業を手がける、株式会社都市デザインシステムズの広瀬郁さん。とくに、小さな子どもを もつ家庭で、そういった意向が強いという。
同様の事業を関西地区で展開している、株式会社キューブ代表取締役の天宅毅さんも次のように言う。
「顔見知りになって、挨拶くらいする状況になっていれば、それだけでものすごく安心感があります。私は、どんな人がいて、どういった家族構成かというのが分かる程度でいいと思います。その後、20年30年と住むうちに、人となりも分かってきますからね」
2、自分のライフスタイルや好みに合わせて、自由な設計ができる。
分譲マンションは、マンションデベロッパーのマーケティング活動の結果に基づいて、建物の間取りやプランが考えられる。その結果、だれもが納得するような 平均的なプランになりがちだった。プラン変更対応の物件もあるが、実質は用意されたものから選べるという程度で、自由設計とは言い難い。
コーポラティブハウスでは、基本的にインフィル(居住スペース)については自由だ。占有面積と標準仕様での価格は、あらかじめ提示される方式もあるが、水 廻りの位置、窓の大きさなど、入居者の予算と考え方に合わせて設計できる。まさに、注文住宅のマンション版と言える。
「阪神間で分譲マンションが売れ残り、余剰ストックが生まれているというのは、規格化された商品が供給過剰になっているのだと言えます。分譲マンション は、建築確認が降りてからでないと販売活動ができないという宅建業法上の制約があるため、”あてこみ”で商品を造らざるを得ません。ところが、価値観が多 様化したいま、ニーズを先に捉えるのは非常に難しくなってきていると思います。その点、コーポラティブハウスは入居者募集が先行するため、実際にある需要 に応じて計画を調整することあできます。」(天宅さん)
3、一般的な分譲マンションと比べてコストが安くなるか、同じコストでも満足度の高いものができる。
コーポラティブハウスは、事業参加者が直接土地を購入し、工事も直接発注することになる。そのため中間コストがかからず、広告費や販売経費も総コストから 省かれる。つまり、原価とまではいかないが、それに近い価格で住宅取得ができるのが、大きなメリットとなる。通常は1〜2割安くなると言われている。
「分譲マンションもコストを切りつめてきて、販売価格ではさほど変わらない例もありますが、コーポラティブハウスでは自分のこだわりたいところに、コストをかけていくため、同じコストだったとしても、納得の度合いは高くなります」(広瀬さん)
組合全体の事業費が何に使われているかが明確になるので、不透明感がなくなることを評価する人も多いという。また、多少割高でも、自分の思いどおりのプランが実現できることから満足度は高くなるようだ。
コーポラティブハウス建築の煩雑さを解消して人気に
こうしたコーポらティブハウスが本来持っているメリットが、「個性」や「自分らしさ」を強く意識しはじめた時代にマッチした側面は確かにある。しかし、そ れでは従来と何ら変わりはない。普及を後押しする要因があるはずだ。それが、前出び都市デザインシステムやキューブといったコーディネーター企業や団体の 登場と、新たなビジネスモデルの誕生だ。
コーポラティブハウは前述したように、入居者にはさまざまなメリットがある。しかし土地探しと購入、事業計画の立案、工事会社や設計士との交渉など、専門 知識がなければ対応できない問題も多い。また、プランニングや入居規則などに関して、参加者の総意を得るためのミーティングを繰り返すことになるが、意見 の対立によって合計形成ができず、事業そのものが空中分解してしまう例もあったという。
いままでは、建築家などがボランティア的にコーディネーターを買って出ていたケースが多かったが、手間がかかりすぎるため事業化には向かないと考えられて いた。そこに、いわば”簡易型コーポラティブハウス”とでもいうき手法を導入し、事業家したのが都市デザインシステムだ。
簡単に言えば、同社がコーディネーターとなり、事業の開始から竣工・引き渡しまでに発生する諸業務に関して組合員をフォローすることで、コーポラティブハ ウスのデメリット(課題)を解消するというもの。そのポイントを、事業の流れから見ていくと次のようになる。
1)土地はコーディネーター企業が用意する
基本的にはコーディネーター企業が土地を見つけ出し、土地所有者に売買交渉を行う。地域については、あらかじめ組織している会員の意向も尊重する。コーポラティブハウスは売買契約は建設組合と行うので、すぐに売却・入金とはならない。
その点を説明して土地を確保する。
2)事業プランを前もって用意する
土地を確保したら、スケルトン方式によって建築プランを立て、おおよその募集戸数と占有面積を決める。インフィルについては標準的な仕様を用意し、販売価格の目安も算出しておく。「標準仕様をたたき台にして、ご自分の希望に合わせて調整していただきます」(広瀬さん)
3)会員組織やインターネットなどで参加者を募集
会員向けに新規募集説明会開催の告知を行うとともに、自社ホームページや周辺地域へのチラシ配布によって、一般からの参加者も募集する。説明会では、事業計画の概要とともに、過去の実績などをもとにコーポラティブハウスの概要と特色を説明する。
4)担当コーディネーターによるコンサルティング
事業概要やコーポラティブハウスに対して理解・共感できた人には登録してもらい、個別に担当コーディネーターが資金相談など住宅取得に関するコンサルティングを行う。その後申し込みを受け、建設組合を結成。土地売買契約を行う。
「申し込み段階では大体倍率がつきますので、抽選を行って参加者を絞っています」(広瀬さん)というから、人気のほどがうかがえる。
なお、担当コーディネーターは、建物竣工まで一貫して参加者とかかわっていくことになる。こうした、ていねいな対応も人気の秘密かもしれない。
5)定期的なミーティングは10回程度に抑える
組合結成後は具体的なプランづくりに移る。担当設計士がつくので、参加者は自分の暮らしたいイメージを伝え約6ヵ月かけて決定する。この間、個別の打ち合 わせとは別に、約2ヵ月に1回のペースで10回程度のミーティング(組合総会)が開催され、共有部分に関する事項や入居後の運営方法について話し合いがさ れる。なお、この間に必要な事務的手続きや書類作成は、同社でフォローする。
「設計の発表会を行うなど、組合員同士のコミュニケーションの場が盛り上がるようなプログラムを用意しています。全体計画に影響する要望は、前もって担当 コーディネーターに挙げてもらい、アンケートなどによって意見を収集するといった手法をとっています。プロジェクトを円滑に進めていくのが、我々の仕事で もあります」(広瀬さん)
6)入居者の管理フォローまで対応
管理会社の選定も同社が見積もりを取ったうえで、信頼のおける業者を選別して組合に推薦している。「建設組合がそのまま管理組合に移行するため、建物を大切にしたいという意識も高く、会議への参加率も非常にいい」(広瀬さん)
7)資金面でのフォローなどにも対応
コーポラティブハウスの場合、土地代金の支払い、建築代金の支払いなど、節目節目に現金が必要となるため、参加者は通常の分譲マンションを購入する場合に 比べ、手元資金を多めに用意する必要がある。住宅金融公庫はコーポラティブハウス向けに「個人共同住宅融資制度」を設けているが、融資額が確定するまでに 支払いが発生する。そのため、同社では金融機関と交渉し「つなぎ融資」制度を用意しており、参加者の利便性を高めている。
なお、都市デザインシステムはこうしたコーディネート業務を行うことによって、総費用の6〜8%をコーディネートフィーとして受け取っている。約1年半にわたって細かく対応するので、それを高いと見るか安いとみるかは、意見の分かれるところかもしれない。
大規模住宅でもコーポラティブハウスは可能か!?
都市デザインシステムの方式が注目されている理由は、参加者の意見調整という最も難しいと思われていた部分を簡素化した点だろう。キューブの天宅さんは、意見対立が起こったときの調整の難しさを指摘する。
「完全に主観が対立している問題を、当事者間だけで調整するのは非常に難しいですね。結果として合理的に解決されるより、むしろ根気比べになる可能性が高 いからです。解決したかのように見えて、実は一方的に妥協している場合、さまざまな遺恨が残ることも考えられます。やはり、専門知識をもった客観的な第三 者としてコーディネーターが入り、当事者のさまざまな意向を踏まえて、皆が納得して妥協しあえる解決策を提案し、歩み寄ることのできる環境をつくることが 必要だと思います。もの言わぬ人の意見もしっかりくみ取って、声の大小にかかわらず、当事者の利益に繋がる提案は事業に反映させ、不利益に繋がる提案は十 分な意見交換を通じて当事者の理解を得て排除する。また、そのプロセスを公開することで、当事者間の認識を共通のものにまとめていく。そのような役割が コーディネーターの果たすべき役割だと思います。」
天宅さんは、いいコミュニティをつくるためには、コーディネーターがあらかじめ意見の分かれることが予想される問題を想定し、着地点に至るための枠組みをつくっておくことが大切だという。
「募集時点で、前提となる考え方を提示することが非常に重要だと思います。意見の分かれる問題を協議していくうえで、前提となる考え方が共通認識としてあ れば、意見調整をしていくうえでの原理原則になります。何の前提条件もなく、いきなり意見を直接ぶつけあえば、当事者は不必要な意見衝突に消耗しなければ なりません。我々の価値観は多様化しており、主観が対立する可能性のある要素は、前提条件なく合理的に解決を図ることは非常に困難だと思います。」
ここ数年、両社のようにコーポラティブハウスの建築をコーディネートする企業や設計事務所が増えつつある。一部のマンションデベロッパーがこの市場へ参入の動きを見せているが、その可能性は考えられるのだろうか。キューブの天宅さんは次のように見ている。
「デベロッパーは、まとまった規模の事業でないと割に合わないという供給者側の論理から、小規模用地における事業には消極的です。しかし、良好な住宅地に はデベロッパーが適正と考えるまとまった規模の土地はあまり多くありません。したがって過剰供給といわれている阪神間でも、ユーザーが本当に住みたいもの と、供給されるもののミスマッチが起こっていると考えられます。コーポラティブのシステムとは、必要な手間と利益のバランスがまったく異なります。デベ ロッパーが参入するためには、新たなシステムの構築が必要ではないかと思います」
需要が非常に多様化しているものに対しては、リスク分散型の事業でないと対応できないのではないかという天宅さん。コーポラティブハウスはまさにリスク分 散型なゆえに、今後の事業形態の一つになりうると言う。果たして、コーポラティブハウスの供給はどうなるのか。今後の動向が興味深い。