ハウジングトリビューン

ハウジングトリビューン(創樹社)

2000年 10-26  vol.187

 

 

ビジネスになるかコーポラティブハウス

コープ住宅の増加は既存商品へのアンチテーゼか

コーポラティブハウスを供給する企業や設計事務所が目に付くようになってきた。その殆どは従来のコミュニティ形成を第一の目的にしたものではなく、「安く自由設計のマンションを提供する」ための手段として、つまりCSを追求した結果、コーポラティブ方式を選択した企業である。コープ住宅の増加は、市場全体からみれば僅かではあるが、その増加は供給戸数以上にユーザーの意識変化を表しており、徹底して無駄を省きユーザーの立場に立つ企業姿勢は、住宅業界で生き残る上での重要な要素になってくるだろう。

コーポラティブハウス(コープ住宅)とは、一般の分譲マンションのように、出来上がっている住宅を購入するのではなく、施主が共同で土地を購入し、自らが工事を発注し住宅を取得するという住民主体の集合住宅のことを指す。
コープ住宅の期限は古く、「ヨーロッパなどでは、二百年も前から行なわれていた」(中林由行・コープ住宅推進協議会幹事長)そうだが、日本で見られるようになったのは1960〜70年代頃とのこと。
77年には、住宅金融公庫の優遇措置により年間約800戸というピークを迎えるが、優遇措置が廃止されてからは、公的な(公団、公社、自治体含む)コープ住宅とあわせても供給戸数は少ないままであった。
また、日本のコープ住宅は、住宅主体の自由設計という特性からトラブルが絶えず、組合立ち上げから竣工までに時間がかかるため、陣頭指揮をとる建築家などにとっては、「”面白いが、疲れるし、採算が取れない”との認識が一般的であった」(中林氏)という。
しかし、ここにきて金融公庫のコープ住宅向け融資である個人共同住宅融資制度の利用戸数は、首都圏だけで81戸(平成10年)から124戸(平成11年)と確実に増えている。
また、阪神大震災の復興事業にコープ方式が使われるなどコープ住宅は再び注目されつつあり、インターネット上でコーポラティブハウスを検索すると236件 にもヒットする。竣工までには数年を要するため、竣工戸数は取り分け目立ってはいないが、「今年度の増加は確実」(中林氏)と見られている。

 

コープ住宅の取り組みには厳しい認識が不可欠

92年に設立した都市デザインシステム(東京都渋谷区・梶原文生代表取締役)のようなコープ住宅のコーディネーター業務を行う会社は数年前にはまったく見 られなかったが、最近で定期借地権を利用し、コープ住宅を供給しているキューブ(兵庫県神戸市・天宅毅代表取締役)など何社かあり、いずれもマンション ディベロッパーからの転身者が興している。
関西方面のコープ住宅供給の筆頭で(実績数19棟250戸)、94年に活動を停止していた都住創(中筋修・ヘキサ競争主宰者)も昨年復活。今年三月には復活復活第一号となる「都住創大手前」では建設会社と組み大規模なコープ住宅を提供している。
加えて、阪急電鉄も三井建設と共同で兵庫県芦屋市に来年の竣工を目指し、コープ住宅を建設中である。
多摩ニュータウンで活動するNPON法人FUSION長池(東京都八王子市・富永一夫理事長)では、都市基盤整備公団からグループ分譲の調査を依頼され、 来年四月の着工に向けワークショップを重ねている。この他、施工事例はないがコープ住宅建設を計画している設計事務緒や団体は、かなりの数に上ると見られる。
これらの新しい団体や企業に対し、梶原氏は「コープ住宅が難しいのは今も昔も変わっていない。ちょっとした口約束で工期が遅れたり、組合員がもめたりと コープ住宅は裁判になる危険性を多いに持ちあわせている。そのことを常に意識して取り組んで欲しい。安易な気持ちでは絶対に成功しない。」と注意を促す。
同社では、契約時の規約を細かく設けることで問題がおきないようにしている。実績を重ねるごとに項目は増え、現在では当初の数倍もの規約があるという。

 

安くよい家を供給するためにコープ方式を使う企業が出現

このようにコープ住宅を手掛ける企業や団体は増えており、それに比例してコープ住宅の供給戸数も伸びている。その要因として、中林氏は「バブルが弾け土地が購入しやすくなったことや、ユーザーが家に対して箱としての機能だけでなく個性を求め出したこと、永住目的でマンションを購入するようになったことなど様々な理由がある」としながらも、「安く、自由設計のマンションを提供する手段としてコープ方式を利用し、成功した都市デザインシステムのようなコーディ ネーター会社の出現が、企業や団体などに与えた影響は大きい」という。
採算が合わないとされてきたコープ住宅は自主管理が基本であるが、同社の場合、入居者にディンクスや単身者が多いことから、組合に起きた問題解決にも手を貸している。
コープ住宅が安い理由について、梶原氏は、「分譲マンションにかかる、要らないと思われる経費を省いた結果」だと話す。分譲マンションの場合、売主の利益が物件価格の10〜20%、広告宣伝費(モデルルーム費など)が6〜10%、販売委託に4〜6%かかるといわれている。同社では、コーディネート料として総事業費の6%かかるが、それらを省くことで、建設費が通常より少し高くなっても約15〜20%安く、原価に近い価格で自由設計のマンションを提供でき る。
このように、「安く、自由設計のマンションを提供するため」にコーポラティブ方式を選択した同社であるが竣工までにはある程度のコミュニティは形成される という。そこがミソで、「安さや自由設計を求めて参加した施主も入居してからは、コミュニティが形成されたことを前者と同等もしくはそれ以上に評価する」 (梶原氏)という。

 

戸建にも進出、コープ方式が資産価値を高める

最近のコープ方式の新しい動きとして、共同住宅のみならず、戸建への採用が出てきていることが挙げられる。
関西方面で活躍するキューブは、今年七月に行われたコープ住宅推進協議会関西支部事務局が開催した「復興まちづくり型分譲住宅」の設計コンペにおいて、路地や小広場を取り入れたコープ方式の戸建分譲住宅を提案、最優秀賞に選ばれた。「年内には参加者を募集する予定」(コープ協関西支部事務局・岩壷氏)だと いう。
都市デザインシステムでは、「自分の土地・街に愛着を持ってもらうために、コーポラティブ方式はゆうこうである」と考え、千葉県に富里コーポラティブヴィレッジ(仮称)と題したプロジェクトを三千坪三十世帯で進めている。
この取り組みについて梶原氏は、「例えば、自分たちで公園の内容を決めれば、見慣れた公園と同じになったとしても、皆で決めた木を媒体として話しも弾み、コミュニケーションが図られる」とコープ方式の土地開発の利点を話す。
また、「今後は住環境がその住宅の資産にも大きく影響してくる。自分達で作った街という意識があれば、美しく保とうという気持ちにもなり、管理状態は自然と良くなるだろう。そうすれば、資産価値は自然と高まる。その実態を見て他の土地開発業者が真似をすれば、その街ひいては日本全体の街のデザインを買えて いくことも不可能ではない」と、コープ住宅がもたらすコミュニティ意識が資産に反映することにも触れ、今後も意欲的に戸建に取り組んでいく方針だ。

 

土地取得の問題の解決が普及への鍵となる

このようにコープ住宅を扱う企業や団体が増え、戸建へのコープ方式の採用という新しい道が開けているとはいえ、未だ希少価値の域を脱しているとはいえな い。海外に目を向ければ、ドイツでは全住宅の約10%、スウェデンでは約20%、ニューヨークでも約20%がコープ住宅だと言われている。ドイツでは借家 だったり、アメリカでは非営利組織が中心であったりと、区にごとに特徴は違うが、各国とも普及には、政府の支援や助成が大きく影響している。
「日本でも海外同様、制度が確立し、支援策が打ち出されれば、10%程度には普及する」(中林氏)と見られているが、逆を返せば、支援策が無ければ一般的にはなりえないということになる。
コープ住宅を作る上で一番のネックになっているのは、土地購入のための資金操りである。住宅金融公庫では、コープ住宅向けに個人共同住宅融資制度を設けているが、その融資までにはつなぎが必要となる。
都市デザインシステムも、設立当初の物件では、実績がないことと、コープ住宅が一般的でないことなどから、融資してくれる銀行が見つからず、「百店舗以上回った」(梶原氏)という。
実績を積むにつれ、貸し渋る銀行は減ったというが、「参加者にとっても資本力があったほうが安心できるだろう」(梶原氏)という理由から、来年には株式を店頭公開する予定だ。
コープ住宅をビジネスにするには、今のところ、同社のように実績を積み、信頼と威筋力を積んで融資を引き出すか、キューブのように定期借地権を利用する。 もしくは建設会社に一度土地を買い上げてもらうしか方法はなく、この土地購入問題が解消できなければ、コープ住宅が一般的になることは難しいのかもしれない。
しかし、この希少さが幸いしていることもある。「中古の物件となると、新築以上に画一的なものが多いため、デザイン制に優れているコープ住宅の中古住宅は、その希少性から元値より高く取り引きされている」(梶原氏)という。

 

コープ住宅の増加は、多様化するユーザーの表れか

コープ住宅を扱うには豊富な知識や経験が必要でありビジネスとして成り立たせるためには、まだまだ問題も多い。しかし、この十年で、コープ住宅を専門に供給する企業も出現、コミュニティの大切さが叫ばれるようにもなった。
ユーザー向けの住宅雑誌やインテリア雑誌は書店に処狭しと並び、ユーザーの住まいに対するこだわりは年々多様化、既存のマンションや住宅では満足できなくなっている。
そんなユーザーに対応してか、分譲マンションにおいてもフリープランと呼ばれる自由設計を取り入れた物件が各社から販売されており、例えば東急不動産「フ リースケッチプラン」、野村不動産「オーダーメイドマンション」、朝日建物「フリーディオ」など、その潮流を感じ取ることができる。コープの住宅が増えて きているのもその流れを表わす一つの事例かもしれない。
CSを追求し続けるコープ住宅が、マンション業界ひいては住宅業界に与える影響は、その供給戸数以上に大きくなっていくだろう。

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