「スケルトン定借による木造テラスハウス」
事業化が難しい敷地で定借を活用したコーポラティブハウスを建設。
「長期優良住宅モデル」として認定を得る
京都市内の高級住宅街で10年間放置されていた土地を優良住宅地として蘇らせた「京都宇多野コーポラティブハウス」(京都市右京区)。これまで8件のコーポラティブハウスを手がける等、関西エリアで多く実績を残してきた潟Lューブ(神戸市中央区、代表取締役天宅 毅氏)が手がけた同プロジェクトは、「スケルトン定期借地権」を軸にさまざまな手法を組み合わせ、自然との共生やまちなみの継承等を実現し、「平成21年度(第1回)長期優良住宅先導的モデル事業」に採択された。
立地は良いものの、旗竿地であるなどの問題が
「京都宇多野コーポラティブハウス」は、約1410uの敷地に地上2〜3階地下1階建ての木造テラスハウス4棟(総戸数13戸、延床面積約970u)を分散配置し、うち7戸(約82〜100u)を定借分譲、6戸(約30u)を賃貸住宅として開発したものだ。
対象地となったのは、京都市内でも高級住宅地としてブランド力があり居住ニーズの根強い右京区宇多野福王子で、敷地面積だけでみると中規模マンションの建設なども可能な広さであったが、さまざまな問題を内包し、10年間放置状態であった。
路地状部分は幅3.6m、延長約36m。細長い侵入路の奥に地所がまとまって存在する典型的な旗竿地で、さらにある程度まとまった地所の部分は傾斜地である。また、南向きで日照条件は申し分ないが、放置期間が長かったため雑木林と化し、地所内には最大2m近い高低差がある。規制も複雑で、賃貸はもちろん分譲としても市場価格での住宅供給が困難と思える条件であった。
従前は屋敷があった同敷地のオーナーは、不動産会社等にたびたび土地活用を依頼していたが、条件が悪いせいかなかなか話が進まず、最終的に同社に相談が持ち込まれたのだ。
同社代表取締役の天宅氏は当時をこう振り返る。「所有地のお子さんが障害を抱えられていて、この土地を収益を生む財産にして継承する予定でした。所有者には『この土地を糧に子供に自立した生活を送らせたい』という切実な思いと、『この緑をできるだけ地域に残したい』との意向がありました。
こうした条件のもと、安定した収益を生む不動産として再生させるにはどうしたら良いかと真剣に検討したのです」。
京都は都市構造の到達点。「持続可能性」をテーマに
同社はまず、京都というまちが、1200年以上にわたり都市であり続けた歴史を有しサステナビリティ(持続可能性)を保つ都市構造の到達点であることに着目。「持続可能性」をプロジェクトテーマに設定し、そのうえで、土地のデメリットをメリットに変えるよう、逆転の発想で企画を詰めていった。
「建物を分散配置させ、土地の高低差はそのままに樹木を温存すれば広葉樹の木立に包まれた自然と共生した住まいが完成します。また、路地状部分はその環境と独立性を高める仕掛けとして使える。これを実現できれば唯一無二のプロジェクトになると考えました」(同氏)。
一方、事業化のリスクを低減するため事業参加者をあらかじめ確保し、参加者の希望に応じてプランニングすることができる「コーポラティブ方式」を採用した。さらに価格のメリットを打ち出せるよう、定期借地権を設定し、そのうえで長期耐用の構造駆体であるスケルトン・インフィル(SI)住宅を建設する「スケルトン定借」を導入した。同方式は、基本的に30〜35年間は借地・持ち家居住となるが、借地期間満了後は建物譲渡特約によって土地所有者が建物を買い取る。建物の状態が買取価格に影響するため、居住者は適切な維持管理に努めるようになり、優良な状態で建物資産が次代に引き継がれるという仕掛けだ。これこそが同プロジェクトのテーマである「持続可能性」を可能にするのだ。
ただ、スケルトン定借はもともとはマンションの老朽化やスラム化対策の有効手段として考案されたもの。今回のケースでは地形上、重量構造物の建築は難しく、規制上からも高さを積んで戸数を増やすことはできない。そこで同社が考えたのが木造連棟の区分所有建物、つまり“木造テラスハウス”の導入だった。これなら建設費は大幅に削減することができ、工事車両の乗り入れや資材搬入なども容易となる。さらに複数棟を1棟とみなす建築基準法第86条のいわゆる「一団地建物設計制度」を活用、この土地の制約を克服し、計画的な分棟化を可能とした。また、屋根にいぶし瓦を採用したほか、格子を直線的なラインにする等、伝統的なデザインコードとすることで京都のまちなみの景観継承にも一役買った。
つまり、同プロジェクトは、京都の都心部に低層の集合町家を実現するという「京都方式」と呼ぶに値するエポックメイキングな開発事例となったのだ。こうした点が高く評価され、国の第1回長期優良住宅先導的モデル事業(現・長期優良住宅先導事業)で、わずか4件しかなかった新築共同住宅認定のうちの一つに採択された。
地代を前払いに。割安感から応募が殺到
建物全体の開発費は約1億7000万円。賃貸住宅の建設については、所有者の相続負担を軽減するため出資金を2500万円まで抑え、賃貸部分の想定賃料は手ごろ感のある月額5万5000円、6戸合わせて年396万円の家賃収入が得られるように設定し、この部分だけで年間投資利回り(表面)を15.8%稼げるようにした。
定借分譲部分は借地権料として前払い地代3500万円(月額地代14万円)、取得価格を2300万円〜2800万円を設定している。
天宅氏は、「前払い地代は事業時に取り切りの一時金として徴収するので融資も利用でき購入者からみれば権利金と同様に受け止められます。前払い地代を加味したうえでの3.3u単価は95万円となり、地代は固定資産税+アルファ程度。取得者側からみて割安感を出すことができ、それが円滑な募集につながった」と解説する。事実、リーマンショック直後にコーポラティブ参加者募集に踏み切ったにもかかわらず、7口に50件超の応募が殺到したという。
スケルトン定借を開発した小林秀樹千葉大学教授も、「SIの建築コストをどうみるかがスケルトン定借の課題の1つだったが、低層木造テラスハウスの導入は正解と言える。しかも立体的な空間利用もでき、戸当り面積の広がりで割安感も出せた。地主・購入者双方の選択肢も広がるので大いに評価できる」と話している。
必然として生まれる収益性を伴いながらのサステナビリティを実践する。住宅供給にとどまらず、これからの都市政策を考えた場合、「京都方式」は事業者が想定する以上の可能性と問題解消への糸口を示唆している。