特集 住宅供給の新たな試み 〜 ユーザー参加型の住宅づくりへ 〜
スケルトン定借も組み合わせ、地主・入居者双方にメリット
住戸内部の自由な設計・変更が可能で百年間耐用の強固な構造躯体を持つスケルトン住宅と、低価格供給が具体化できる定期借地権、住民共同参加の建設組合方式コーポラティブハウスを組み合わせた「スケルトン定借」による関西発の共同住宅「塚口コーポラティブハウス」が六月二日に竣工した。事業コーディネートは潟Lューブ天宅毅社長。同社は、阪神・淡路大震災後の九六年六月二十日に設立した神戸市の設計事務所である。被災地の長屋などの共同再建をコーポラティブで行なうなど、設立当初からユーザー参加型のコーポラティブハウスに力を入れている。現在募集中のコーポラティブハウスは三つ。今後も年に五棟のペースでコーポラティブハウス事業に取り組んでいく予定である。
地主は投資ゼロで土地活用が可能
「塚口コーポラティブハウス」は、六十年間の期間を設定し、三十五年目に建物譲渡特約によって地主がスケルトン部分を買い取り、その後賃貸住宅に移行する仕組み。建設費は入居者の住戸購入資金で賄うほか、三十五年目の買い取り費用もその後の賃料収入と相殺するので、地主は投資ゼロで土地活用ができるうえ、入居者は自由設計に近い住宅を低価格で取得できる。同事業では一階に店舗床を配置、これを地主がゼロ負担で取得、賃料収 益を確保できるよう、権利金を活用した等価交換方式を初めて採用した。
構造・規模は、鉄筋コンクリート造地上六階建て、延べ床面積一千三百九十八平方メートル(うち専有部分面積九百十一平方メートル)、一階部分に店舗(二百四十二平方メートル)二階以上に住戸十一戸(専有面積六十九・五〜九十九・九平方メートル)を 配置。充実した維持管理の実行を想定して用意に更新できる設備・配管を投入、道路に沿って植栽を設けるなど周囲の街並みに融合するよう落ち着いた外観とし た上で、長期耐用を見込んで外壁や屋根などの仕上げには、構造躯体を保護しメンテナンスの容易な高断熱アルミパネルを使用したほか、バリアフリーの徹底や住戸内間取りの可変性を確保するため柱と梁で構成する純ラーメン構造を採用している。
SI部分は基本計画を提案し、短時間で誘導
阪神間の比較的高級な住宅地である尼崎市塚口地区(塚口南町三丁目、阪急神戸線塚口駅徒歩四分)の立地で、六百五十七平方メートルの土地に、昨年二月、コーポラティブ参加者で設立した建設組合が事業主体となって着工、今年六月に竣工し入居を開始した。設計・監理・コーディネートをコンサルタント会社のキューブ、施工を中堅ゼネコンの不動建設、完成後の管理をKBSシラカワ(神戸市)が担当している(施工、管理会者とも組合が選定)。
借地期間は住宅ローン返済期間の関係から三十五年間とし、三十五年目に建物譲渡特約によって地主が建物を買い取るか買い取らないかを選択する。買い取った場合、その後六十年目までを賃貸住宅として運用、入居者はそのまま居住できる。
三十五年目までは入居者は地代(月額約二万円)と ともに、修繕積立金を管理組合を通じて積み立て、計画的な建物維持管理を行ない、建物の資産価値の劣化を防ぐ。スケルトンのインフィルについては最初にた たき台となる計画をコーポラティブ参加者に提案、参加者各自と設計を詰めることで、入居者が満足できる住まいづくりを比較的短時間で誘導した。
事業の発端は、スケルトン定借をまちづくりに活用するため、住宅金融公庫大阪支店が一昨年に地主向けのセミナーを開催、スケルトン定借での土地活用を行ないたい地主を募ったことにある。スケルトン定借普及をめざして公庫主導で発足した「大阪まちづくり研究会」(昨年四月から「スケルトン定借普及センター関西支部」に発展)に参加していたキューブなど三社グループが、九八年夏に地主に対して事業化に向けた公開コンペを実施、地主が提案を選択して事業化した。
参加者はシステムを理解した人のみ
コーポラティブ参加者(入居者)は、折り込みチラシや公庫のセミナー来場者向けDMなどで募集し、問合せは百件を超えたが、「その中には塚口という場所で分譲マンションを探していた方が多く、複雑なスケルトン定借を十分に理解・納得できなかった人は徐々に離れていった。逆に最後まで残った参加者はシステムを十分理解していただいた」(天宅社長)。
コンサルタント会社として主導的役割を果たしたキューブの天宅社長によると、事業提案段階の大きなポイントとして、地主メリットの徹底的な重視をあげる。地主の収益性をいかに高めるかをめざす計画づくりを行った。
その背景には、「地主が土地活用に消極的になっている」(天宅社長)という点がある。一般的な定借はマンションを含め「収益性が低い」(同氏)。さらに、地主には「土地は一度貸せば返ってこないという意識が根強い」(同氏)という。旧借地借家法に基づく借地権が底地権より「いつの間にか強くなっていたことが阪神大震災で一気に顕在化し、そのことに地主が気づいた」(同氏)。
その上、借地期間満了時の建物取り壊しを前提とする定借マンションでは、入居者の建物維持管理意識が希薄になりやすく、 「早い段階でのスラム化を招くおそれが強い。そうなれば不法占拠も発生しやすく、取り壊し時期に占拠者を追い出せず、取り壊せなくなるのでは」と心配する 地主も多い。今年いっぱいで期限切れとなるはずだった更地への宅地並み課税の震災特例(特例廃止による更地課税化で固定資産税増額)が向こう五年延長されたという特殊要因も地主の土地活用意欲を低下させている。
キューブはこのため、通常の定借では一時金として保証金を徴収するところを権利金方式(地上権への対価)としたうえで、一階店舗床部分について「定借の等価交換、つまり定借の立体買い換え手法を用いた」(天宅社長)。
スケルトン定借での等価交換なら「価値は増大」
所有権の等価交換は普及しているが、天宅社長によると、地主にとっては交換を行なった時点は等価だが、時間の経過に従って減価していくという。例えば、マンションなどで地主が等価交換によって土地と専有部分を交換しても、地主は一区分所有者になるだけで、建物も時間の経過 とともに償却し、いつのまにか地主が保有していた資産が消失する。しかし地主が床を保有しながら、最終的に建物すべてが自己所有になるスケルトン定借での 等価交換なら「逆に価値は増大する」という。
ただ、権利金は返還義務のある保証金と違って課税対象になる。地主が受け取る権利金の総額が、@土地の評価額の二分の一 以下ならば税務上、賃料収入と同じ不動産所得扱いA二分の一超ならば譲渡所得課税の対象になるわけだ。例えば地主の年収が五百万円の場合、権利金を仮に二 千万円取得すれば、その年の収入は二千五百万円となり、所得税は五〇%の最高税率が適用され、実際に手元に残るのは一千二百五十万円となる。権利金がなけ れば一〇%課税ですみ、手元に四百五十万円残っていたので、権利金を取得した場合の一時収入は差し引き八百万円ということになる。定借事業で保証金方式に する例が多いのは、権利金が課税対象になるためだ。
しかし、保証金は返還しなければならない上、低金利が続いている現状では運用先も少なく、土地の固定化に対する地主の見返りとしてはあまりにも低い。キューブはこうした問題点に関して、@コーポラティブ方式を採用しているためディベロッパー利益(分譲益)を基本的に考えずにすむので、土地評価を高めに設定でき、二分の一(定借での一般的な設定率二〇%)を超える権利金設定を行なっても十分市場性に合う商品企画ができるA譲渡所得をその土地に建てる建物の床取得に使った場合、通常の等価交換と同様に課税の繰り延べ対象になることに着目。
土地評価の五割を超える権利金の設定を行ないながら、一戸当たり価格を権利金と消費税込みで二千六百八万から三千八百九十七万円に抑制、価格面での市場性を押し出すとともに、権利金(=譲渡所得)を一階店舗床の取得費用に充当、課税の繰り延べ特例を適用できるようにした。つまり地主は、自己所有となる店舗床を権利金によって持ち出しなしで、しかも無税で取得したうえ、その店舗を商業物件として賃貸に回し、賃料収入も見込めるようになった。
このケースでは地主の長男が勤務医のため、長男が床を賃借し開業するが、天宅社長によると、周辺相場を参考にすれば店舗賃料は月額七十万円で、地代十一戸分約二十二万円を合わせると、九十万円強もの安定収入が毎月あるといい、「定借だけでこれだけの収益を確保するのはまず 無理」だとしている。
三十五年後には地主の意志で大規模修繕可能
天宅社長は一方で、スケルトン定借の最大の利点として「解体・更地化を基本的に前提としていない」点をあげ、「現時点で区分所有の問題点を解消できる唯一の手法」と強調する。
区分所有の大きな問題点として同社長は、建物が老朽化した際に大規模修繕を行なうのに住民合意の形成が必要なことを指摘する。震災で倒壊したマンションを建て替えるのに、住民の五分の四の合意が得られず難航した例が多々あったことからも、区分所有の限界が露呈された。しかも大規模修繕が必要な築二十年以上の建物には融資も付きにくくなるし、住民の経済的負担の大きさも修繕の足かせとなる。
しかし、修繕ができなければ商品としての流通性が低下、住み替えのための売却も難しくなり自然と賃貸比率が高まってくる。そうなれば住民のメンテ意識は一層ダウン、修繕への合意形成は更に困難になるなど、悪循環に陥る可能性が高まる。つまりマンションのスラム化とコミュ ニティの崩壊を招き、結局建物の寿命を縮めてしまう。優良ストックの形成が政策的にも大きな潮流になろうとする中、合意形成を前提とする区分所有は「最初から矛盾しているシステム」(天宅社長)であるわけだ。
天宅社長はさらに、「五十年後の借地期間満了時での解体・更地化を前提とする定借マンションが区分所有に取って変わるのか」と疑問を投げかける。鉄筋コンクリート造の堅牢な建物を取り壊すのは、ストック形成によるまちづくりにつながらないし、建築コスト面でもバランスが取れず、環境にも悪影響を与える。取り壊されるのがわかっているので、住民の建物維持管理意識も高まらないと指摘する。
これに対してスケルトン定借は、三十年後に建物譲渡特約で地主が建物を買い取るので住民の合意形成は不要で、六十年後には建物が地主資産としてそのまま残る。つまり取り壊しをせずにすむ。さらに、建物の資産価値を劣化させないためのメンテナンスシステムも用意されている。 地主による建物買い取り価格が、それまでの修繕状態によって左右される仕組みになっているわけだ。
コーポラティブハウスを通してまちづくりを
スケルトン定借では当初から綿密な維持管理計画を立て、入居者は毎月修繕積立金を積んで計画に沿って修繕を行なうことになっている。建物の買い取り価格はその後の賃料と相殺するので、もし修繕が計画に比べ不十分であれば、建物買い取り価格はその後の賃料と相殺するので、もし修繕が計画に比べ不十分であれば、建物買い取り価格が低下、三十年後以降(塚口コーポラティブハウスの場合は三十五年後以降)の賃料が上がり入居者負担が増える。「修繕費を積み立てているのだから、きちんとした管理をする方が得」というインセンティブが入居者に働くわけだ。さらに修繕積立金は建物買い取り後の維持管理費用として地主が承継。六十年後に通常の賃貸マンションになった際、施設が老朽化していれば、賃料収益にハネ返るので地主にも維持管理のインセンティブが働く。
仮に買い取り後に大規模修繕が必要な場合でも、スケルトンの所有権は地主に移っているので地主一人の判断で実行できるし、給配水管などの設備関係の更新を当初から想定しているので大規模修繕自体のコストも抑制できる。
「塚口」の場合は、入居者は最初に修繕維持積立基金として一平方メートル当たり四千円を拠出、入居後は月額同百十円を積み立てていく。専有面積八十平方メートルなら当初に三十二万円、月額八千八百円を積み立てれば、三十五年間の修繕費用はすべて賄える計画。通常のマンショ ン(公庫優良分譲)では一般的に月額六千円程度を積み立てるが、三十年後の大規模修繕費としてはまったく足りず、「この倍は必要」だという。入居者が負担する費用は積立金以外に地代、管理費(一平方メートル当たり九十七円)、税金(固定資産税)、ローンで、八十平方メートルの場合ローンを除いて月額契約四万円となる。 三十五年後に地主が買い取った場合もきちんとした修繕を行なっていれば賃料として同額支払うだけですむ。
こうした点から天宅社長は、「スケルトン定借は区分所有の限界を乗り越えるスキームを持つ」としたうえで、「入居者コ ミュニティと建物維持が長期にわたって可能で、通常の区分所有建物より利用価値が高い。地価の安い場所では定借の事業性は低いが、利用価値の高まるスケル トン定借は地価に関係なく事業化できる」と可能性を指摘している。
近年、住民参加意識が高まってきているため遠方からのコーポラティブハウスについての講演依頼も多く、また同社では、 「芦屋川コーポラティブハウス」「宝塚千種コーポラティブハウス」「御影コーポラティブハウス」の参加者を募集中。これらにも問い合わせは多く、今後も 「神戸を中心としてコーポラティブハウス事業に力を入れ、将来的にはまちづくりまでを手掛けられたら…」(天宅社長)と今後にかける意気込みは強い。
スケルトン定借(つくば型)
スケルトン定借は、定期借地権の一種である建物譲渡特約付き借地権と、住民共同参加の建設組合方式(コーポラティブ)を活用しながら、100年間の長期耐用が可能で住戸内部(インフィル)を入居者が自由に設計できるスケルトン(骨組み)方式による集合住宅を建設、定借のメリットを生かして住宅を低価格で供給する一方、良質なストック形成を促進する手法として開発された。建設省建築研究所などが中心になって研究、1996年に茨城県つくば市で第1号が完成したことから「つくば方式」とも呼ばれている。
最大の特徴は、まず全期間を60年と設定したうえで、建物譲渡特約に基づいて30年目に地主が建物を買い取り(「塚口コーポラティブハウス」の場合は35年目)、残り期間を賃貸住宅として借地経営するか、そのまま借地として経営するか選択できるようにした点。入居者は住戸を購入してから当初30年間は、通常の定借住宅と同様、購入ローンのほかに地主へ地代を支払うが、地主が建物を買い取ると借家契約に切り替わり、入居者は残りの期間、地主(建物オーナー)に 家賃を支払う。
建設省によると、一般の定借と異なり借地期間満了時の建物取り壊しを前提としないため建物取り壊しコストを必要とせず、割高になりがちなスケルトン住宅の建設費を拠出しても低負担で満足できる住宅を取得できるうえ、30年後以降は、地主の建物買い取り価格と入居者家賃を毎月相殺する「家賃相殺契約」を締結するので、借家に移行しても月々の賃料は通常の賃貸マンションより割安になるし、その時点で住宅ローンは終了しているので実際の入居者負担は大きく軽減されるという。
全入居者が事前に集まってから事業化するコーポラティブ方式のため、空室懸念といった経営リスクがないうえ、入居者が建設するので地主の初期投資は必要ではなく、30年後に買い取りを選択した場合でも、家賃相殺契約によって実際には買い取り費用は発生せず、全期間にわたって持ち出しゼロで土地経営ができる。建物買い取り時点では、ローン終了で抵当権などが解消、権利関係が一本化されるため、大規模修繕などでの住民合意も不要で、計画的な維持管理計画によって建物価値の劣化も抑えることが可能だ。
わざと不完全なつくりにし、今後の家づくりを楽しむつもりです
塚口コーポラティブハウスのことを初めて知ったのは一昨年秋ごろ。折り込みチラシでした。その半年ほど前から土地付きのコーポラティブハウスを見に行ったこともあってコーポラティブ制度自体を知っていましたし、スケルトン定借は原理的にはわりとスッと飲み込めました。
結婚を機に3年前に尼崎に越してきて賃貸住宅に居住していました。住宅購入はもっと資金を貯めてからと考えていましたが、チラシを見たのと、ローン控除や低金利もあったので思いきって募集に参加、しっかりした会社がやっているなと感じました。
専有面積は82uで、モデルプランをもとに一年弱かけて設計。和室を収納スペースと埋め込み本棚のある書斎に変更したり、洋室と和室の間の収納に両方から入れるようにしました。動線が増えるという妻の提案でカウンター型のキッチンをカウンター型のキッチンをオープン型にアレンジしたり、浴室上部の空間を利用し、天窓付きのロフトにしたりしています。設計はキューブさん主体で進めたのでスムーズに進んだと思います。ただ完成度はわざと不完全にしています。これから徐々にアレンジし、家づくりを楽しみたいからです。
スケルトン定借の良さは、やはりまず価格が分譲や土地付きに比べてかなり安いことです。3分の2を公庫融資で賄ったのですが、積立金や管理費などローン以外の入居コストも以前の賃貸の3割程度で、残りの分をローンの支払いに回せます。自由設計に近く自分のアイデアを生かした自分好みの家づくりを楽しめることも良い点。つくるまで時間がかかるというデメリットもありますが、住む前に入居者の顔ぶれがわかるので、気がねなくスムーズに安心して生活できます。全部で11世帯ですが、ほとんどがファミリー世帯で、老後の住まいとして購入された方もおられます。6階のお宅に広めのルーフバルコニーがあるので、入居者が集まってパーティーを…と提案がでているところです 。
(家族構成松岡史朗さん=29才、妻・妙子さん=32才、長女・史恵さん=2才)