視野を広げ、さまざまな可能性にむけて
1、既存方法の限界を実感して
私共は設立以来、積極的に被災地の再建にかかわり、さまざまな問題に取組んでまいりました。
ほとんどすべての分譲マンションは区分所有法に基づき、その建物の管理運営に必要な意思決定を全て管理組合の合意形成に依存しています。ところが、何か重大な問題が発生した場合に、問題を解決するために合意形成を得る事が非常に困難である事が震災で明かになりました。さまざまな社会的、経済的状況に置かれている居住者間で、各居住者の人生設計に影響を及ぼすような重大な事項について、合意形成を得る事は現実的には非常に困難です。対立が生まれる多くの場合において、対立者双方の見解は双方の状況においてそれぞれ妥当性を持っている為、1つの見解に止揚する事はまず不可能であり、納得できるレベルで妥協点を見出す事が現実的解決方法であると思います。
『ディセット渦が森』の事業過程においても、対立者間の直接的対話はより溝を深くするばかりで、その延長線上に納得できる妥協点を見出す事は不可能であると思われました。そこで、私共が中立的な第三者の専門家として個々の言い分を直接ヒアリングし、全体状況を客観的に踏まえて方針提案を行う事で何とか合意形成を得る事が出来ました。
合意形成が得られない場合は、結果として何等対応を行う事が出来ず、問題を先送りして放置することになります。放置された問題は決して自然に解決する事はなく、状況をより悪化させることにつながります。ところが、この問題は区分所有法が前提とする合意形成に依存した建物運営システムに起因する為、今回の様に被災したマンション特有のものではありません。例えば、マンションが老朽化した時に修繕等行う場合にも同様に合意形成を得る必要があり、したがって全ての区分所有マンションが将来的に直面する問題であると言えます。この問題を解決しなければマンションは老朽化しても修繕をすることも建替えをすることも出来ず、そのまま放置される事で今世紀中には多くのものが不良ストックと化する危険を孕んでいると言えます。
2、長持ちする集合住宅の実現・コーポラティブ方式の可能性
『ディセット渦が森』に少し遅れてスタートした『スクウェア六甲』では、この問題を解決するため、出来る限りスケルトン・インフィルの分離を図り、スケルトン住宅として長期利用できる設計を行うと共に、事業フレームとしてコーポラティブ方式を採用しました。コーポラティブ方式は、自由設計であることにより居住者の住戸に対する愛着心が育まれ、永住意識が生まれる事で管理運営に関する意識が高まり、区分所有で必要な合意形成を将来円滑に得るためにも、有効であると言われています。また、コーポラティブ方式で事業化する上で必要な合意形成を得るために、ディセット渦が森での経験が大いに役立ちました。
3、スケルトン型定期借地権との出会い
コンペで選出され、関西初のスケルトン型定期借地権事業となった『塚口コーポラティブハウス』では、ソフト面も統括した持続可能な集合住宅を実現しています。設計的には『スクウェア六甲』で追求したスケルトン住宅を徹底し、より自由度の高い専有部分を実現しています。スケルトン型定期借地権を具体的に事業化する事で、スケルトン型定期借地権の意味と可能性を知る事が出来、区分所有の限界を乗り越える1つの解答に出会えたと感じています。
4、既存方法の限界を超えて
設計コンペで最優秀作に選出され事業化に向けて進めている『長田戸建てコーポラティブハウス』では、区分所有に縛られない戸建てでのコーポラティブ方式の運用を試みています。
以上のように、震災で実際に経験し、得た教訓を具体的な事業の中で活かそうと、現在に至るまで一つ一つの事業において方法論を模索し、具体的成果を上げてきました。今後の事業でもさらに視野を広げて様々な可能性を探っていきたいと考えています。