持続可能性(サスティナビリティー)の獲得を目指して
1、日本の住宅のサスティナビリティー
キューブは、阪神・淡路大震災がきっかけで生まれました。設立以来積極的に被災地の再建に取り組んできた中で、一番強く感じたのは、現在の住宅はサスティナビリティーを持ったものではないということでした。 もともと日本の家屋は木造で、台風や地震で壊れたら、また建てるというスクラップ&ビルド方式でした。このように壊れてもすぐ簡単に再生できるシステムは江戸時代末期くらいまでの長い歴史の中で、風土に適応した形で構築されてきたもので、自然と協調するサスティナビリティーを持ったシステムとして高い完成度を持っていたと思います。 ところが現在は、そうではなくなってしまいました。明治時代以降、それまで日本人が持っていた住まいの文化とはちがう、自然と対峙するような石造りを基盤とする文化が西洋から入ってきたからです。石造り文化では、建物が恒久的に存在することが前提と考えられており、その建物を長く使い続けるための管理や修理が重要です。しかし日本は地震国であるという風土特性から、建物が恒久的に存在するということを前提に考えるのが困難で、独自の持続可能なシステムを構築する必要があります。日本は未だそのシステムを模索している状況で、建物を大切にアフターケアするという文化も未成熟です。このように風土に合致したシステムが未完成なことにより、阪神・淡路大震災では被災したマンションに住む多くの人が、再建か、修繕かで衝突することとなりました。この問題は、区分所有法が前提とする合意形成に依存した建物運営システムに起因するため、被災マンションに特有のものではありません。日本の住宅をほんとうに大切に永く住めるようにしていくためには、高耐久で、住む人のライフスタイルの変化に対応できる順応性の高い建物とすることが必要ですが、それだけではなく、維持管理をスムーズに行っていくための建物運営システムの構築が必要です
2、コーポラティブ方式の可能性の追求
コーポラティブ方式は、自由設計であることにより居住者の住戸に対する愛着心が育まれ、永住意識が生まれる事で管理運営に関する意識が高まり、区分所有で必要な合意形成を将来円滑に得るためにも有効であるといわれています。キューブは、震災復興やスケルトン定借、権利変換等、様々な状況に応じて土地利用にコーポラティブ方式を活用する事で、コーポラティブ方式の可能性を探ってまいりました。 デュプレックス宝塚千種は、接道条件、敷地規模など既存方式での土地利用が困難な敷地でしたが、屋上テラス、中庭や地下室など、テラスハウス形式でしか実現できない、ゆとりある自由度の高い専用空間をコーポラティブ方式で実現しています。 キューブのオフィスが入っているアンビエンテ北野は神戸北野異人館街の中の事業ですが、ここには震災後、廃墟になった建物が放置されていて、地域の人々から景観や防犯上良くないと懸念されていました。この案件も、接道条件、敷地規模など既存方式での土地利用が困難な敷地でしたが、周辺の街並みに調和するように出来るだけ配慮して、土地のポテンシャルを最大限生かした事業をコーポラティブ方式で実現しました。 帝塚山イクスでは関電不動産と共同で事業化することで、コーポラティブ方式に事業としての安定性を与える取り組みを行いました。 また、レスタジア南田辺は、従前は権利関係が錯綜した老朽化木賃住宅が建ち並んでいましたが、事業化を通じて権利変換を行い権利関係を整理し、南側が公園に直接隣接する素晴らしい立地環境を活かし、どの住居からも緑豊かな公園が庭のように見渡すことのできる建物を立てることができました。 以上のように、一つ一つ具体的な事業を通じてコーポラティブ方式の持つ可能性を探り、取り組んできました。
3、持続可能な美しいまちなみに向けて
神戸北野町で戸建て住宅群の設計をするにあたり、既存異人館を再生し、持続可能な美しい街並みを創るために、個性と調和のバランスを意識して計画を行いました。 他の建築家とともに関った、京都の『北大路まちなか住宅コラボレーション』というまちづくりでは、その土地柄を活かし、一戸一戸の住宅は、周りの景観との統一感を持ちながらも各建築家の個性による多様性に富んでいるというものでした。ニュータウンが歴史的街並みのように持続可能な美しい街並みをなかなか獲得できていないのは何故か。これらのプロジェクト等を通じて、まちなみが持続可能性を獲得する為の一つの方向性をイメージする事ができたと感じています。
4、リノベーションを通じて
都市の住宅ストックが数の上で需要を上回ったと言われて久しくなります。しかし、築年数を経たストックには、現代のニーズに合致しないことで十分に生かされていないものが数多く存在します。建築は利用されることではじめて生きた建築となり、生きた建築が活力ある都市の基盤となります。キューブでは、既存ストックを再生し生かす試みとして、積極的にリノベーションに取組むことで、建物の持続可能性が生まれる可能性を探っています。コーポラティブハウスは、全国の住宅戸数からすれば、まだ1%にも満たない小さな動きです。持続可能性を意識したまちづくりの試みやリノベーションの取り組みもまだ始まったばかりです。けれども、このような試みを通じて、日本独自のサスティナビリティを持ったシステムの構築に繋がるヒントを見つけることができれば、将来全ての住まいに波及する可能性を持っていると思います。より豊かで、より確かな都市環境を創造するために、これからも積極的に取り組んでいきたいと考えています。