建築ジャーナル

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2013年 12月号 No.1219

阪神・淡路大震災は、私たちが常識と考えていたものがいかに曖昧な根拠の上に成立しているかということを顕在化させました。

震災後、神戸に生まれたキューブは、設立以来、都市居住の本質的な問題を捉える為共同建替・共同住宅の建替・行政コンサルティングなど、積極的に被災者の再建に取組んでまいりました。

その中で得た経験から、より豊かでより確かな都市環境に向けての提案を行い、失われた秩序を従来の枠にとらわれない柔軟な視点から再構築することを目指しています。

 

建築ジャーナル 記事

内淡路町ハウス <コーポラティブハウス>

大阪市中央区(旧東区)は、古くから大阪城の城下町として繁栄してきた地域。印刷会社の自社ビルとして建設された従前ビルは築40年を経て老朽化が進んでいた。近年印刷業の業態変化により、自社ビル内で印刷する事はなくなり、かつて印刷機器の置かれていた多くのスペースが空いていたが、自社ビルとして利用する前提で建設された建物は第三者にスペースを貸与することができるプランになっておらず、建物は早急にメンテナンスを要する状況だったが資金投下しても企業収益に結び付かないので先送りにされており、最上階のオーナー住戸も老朽化が進んでいた。
本事業では、立体買換えの特例を用いてコーポラティブ方式による建替えを行い、従前ビル所有者は資金投下をせずに印刷会社として必要なスペースを最新スペックの事務所・倉庫として確保、余剰スペースは賃貸住戸として収益を生むストックに変換、最上階にバリアフリーのオーナー住戸を計画した。
建物は純ラーメン構造で計画、事業参加者の希望に応じて専有面積調整を行い、個々のライフスタイルや趣味嗜好、予算に応じた住まいを実現した。そのバリエーションの豊かさは妻面のエレベーションからもうかがい知ることができ、マッシブな外観に変化を与えている。


ペイサージュ宝塚寿楽荘 <コーポラティブハウス>

計画地は閑静な邸宅地として知られる宝塚寿楽荘。大正の時代から別荘地として開かれ、昭和初期に高級住宅用地として分譲されるなど、邸宅地として格調高い生活文化が今なお受け継がれる地域である。
この街で見られる邸宅には、かつての職人の技量の高さをしのばせる地域の財産とも言える、見事な石積み擁壁や植栽などが施され、古くからの邸宅地の面影を今に残している。
昨今、緑を伐採し石積擁壁を撤去して画一的な住宅地が分譲されていく中、本プロジェクトは石積擁壁や木々の緑を生かし、趣と品格を継承する環境共生型住宅として計画した。
従前家屋が建っていた宅盤と前面道路に5m程度の高低差があり、この高低差を利用し、地下1階に駐車場とエントランスホールを計画。この高低差部分に施されていた緑と石積み擁壁を出来る限り残すことで、歴史に培わられてきた魅力的な寿楽荘の環境に寄与する事を期待している。


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ル・パッサージュ北野 <コーポラティブハウス>

北野・山本地区は神戸市中央区の山の手に位置し、異人館と呼ばれる明治期以降に建設された洋風住宅が和風住宅に混ざって点在する地区で、異国情緒豊かな町として国際都市神戸のイメージを象徴する地域である。キューブが手がけるこの地区のコーポラティブハウスとしては「アンビエンテ北野」に続く2棟目。
外観は、異国情緒豊かな街並みの雰囲気に合うよう、タイル、砂状塗材吹付け、吹付けタイルをバランスよく使用し、北野・山本地区の歴史・伝統に配慮している。
容積率400%と、高度利用可能な敷地でありながら、42.5坪しかなく、用途地域に見合った計画が難しかった狭小敷地における事業であり、敷地の小ささを逆に活かして、基本的に1フロア1戸の計画を行い、都心でありながら明るく独立性の高い住まいを実現している。


宇多野コーポラティブハウス  <コーポラティブハウス>

宇多野は仁和寺に近接し、古くからの豊かな自然と静けさを併せ持つ歴史文化の町・京都を代表するエリア。周辺の歴史的風致との共生をテーマとし、京都における新しい集合住宅の在り方を追求した。
起伏のある敷地形状と森の様な既存樹木群が持つ様々な価値や雰囲気を積極的に評価し、それらをそのまま温存・活用すること、更には構造体を木造とすることで建設時の環境への負荷を低減するとともに「森の中で暮らす心地良さ」という新しい価値を提案している。
既存樹木の保全と建築ヴォリュームを低減するために一団地申請を活用、ひとつの敷地のなかに住棟を複数に分棟して配置した。スケルトン型定期借地権事業としては、キューブが手がける事業では「塚口コーポラティブハウス」に続く2棟目であり、木造テラスハウスでは初となる。
外観はいぶし瓦、土間の墨色、格子の直線的なラインなどの和風の伝統的デザインコードをモルタルやアルミなどの安価な素材を用いて現代的デザインに昇華させ、地域のまちなみに溶け込ませた。
7戸の住まいはそのいずれもが住み手の個性を反映した特長的な住居形式を持ち、各住戸の全ての部屋からは外部の樹木を望むことができる。保全された敷地の起伏や樹木群は心地よく集まって住むための「程よい距離」を生み出し、宇多野の歴史を継承しつつ、新しい場所を創り出している。2011年度グッドデザイン賞を受賞。


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華り宮 嵯峨二尊院 <分譲集合住宅>

嵯峨二尊院周辺は、緑豊かで落ち着いたすばらしい環境が形成されている。この周辺環境と共生するため、土地の起伏や植栽をそのまま生かし、緑の中に建物が点在する計画を行った。建物は高品質な長期優良住宅と、京都市が推奨する平成の京町家の考え方を導入し、自然の光や風をふんだんに取り入れるプランとしている。
一般的な開発事業のように土地を造成して敷地を細分化し、個別に販売するのではなく、全体を一団地とし、区分所有法で管理することで、統一感のある街並みの維持と、時代の変遷に応じた変化が両立する環境を整えている。また、街区全体にセキュリティーラインを設けている。
規制や法規に縛られるのではなく、それを利用して新たな魅力が生まれるように発想を転換。ソフトとハードを融合し、高耐久を追求するだけでなく、循環型のシステムを構築することで集合住宅の持続可能性を創出する。その一つの回答として、「1000年集合住宅」というコンセプトのもとに、華り宮 嵯峨二尊院を提案する。

パッケージハウス

ライフスタイルや趣味嗜好の多様化が進み、固定化された最大公約数的な間取りの不自由さを感じる人が増えている。しかし、戸建住宅を取得しようとしても、一般的には建売住宅を購入するしか選択肢が無い。土地を購入して建物を建てようと考えても、実際の所、どれ位の規模の建物が建設できて、総事業費がどれ位になるのか、専門知識がなければわからない。キューブはコーポラティブハウスを通じて、様々なライフスタイル、趣味嗜好の方々の住まいに対する夢を実現してきた。その経験を活かし、予め基本プランや取得目安価格がわかるようにしてパッケージ化したものを「パッケージハウス」と称して取り組んでいる。それぞれのプロジェクトにおいて、住まい手のライフスタイル、趣味嗜好を反映した、オリジナルな住まいを実現している。

 

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北野町の家1/北野町の家2

神戸北野町の伝統的建築物群保存地区内の計画。
隣接する親族の住居であり、北野町の家2は2世帯住戸。
伝統的建築物群保存地区内ということで、周辺の異人館街の街並みに配慮し、地域の歴史的風致に沿ったデザインを心がけた。

 

金剛福寺 収蔵庫

神戸市灘区に位置する寺院の収蔵庫の計画。
寺院の隣接地に大容量の収蔵庫と本堂の控室を設置した。
高齢者の利用に配慮して、バリアフリー化を徹底した。

 


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