神戸北野から発信する持続可能な集合住宅
一般的な分譲集合住宅は、いくら長期耐久性を確保し、適切に維持管理しても、寿命が来たときには区分所有者間の合意形成という大きなハードルを乗り越えることができなければ建て替え更新することができない。合意形成という問題は、先送りすることはできても、根本的に解消することが困難であるのは区分所有建物の持つ宿命とも言える本質的問題である。
このような問題を打開する方法として、テラスハウスの再評価を試みてみたい。
イギリスの住宅の平均寿命は日本の約3倍。その多くが低層で、各戸が地面に接している連続建ての集合住宅である。イギリスのテラスハウスはなぜ長持ちするのだろうか?
一つはレンガ積など耐久性の高い構造であることが考えられる。もう一つは、接地型という建物形状に起因していると考えられる。戸建と同様に共用配管は建物外部の地下に埋められ、設備更新を個別にできる。このことで、設備の近代化に容易に対応することができたと考えられる。以上のように、構造の耐久性の高さと、設備更新のしやすさによって、ライフスタイルや時代の変化に対応し、長持ちすることにつながったと考えられる。
では、日本のテラスハウスはどうか? 日本でも、1970年頃からテラスハウスは導入されたが、現在では減少している。その理由は、一つには構造耐久性が低かったこと、もう一つに隣接住戸間の遮音性が低く、住戸の独立性が十分に確保されていなかったことが挙げられる。さらに、これが本質的かつ最大の問題だが、テラスハウスが戸建のイメージを装って販売されたことだ。多くのものが、土地を区画ごとに分筆し、建物は戸建登記して販売された。その結果、建築計画的には集合住宅であるにもかかわらず、区画間の権利関係は断絶されており、建物を共同で管理する法的バックボーンを持つことができなくなって
しまった。そして、建て替えはおろか、改修することも難しい状況に陥ってしまった。
以上のことから、日本のテラスハウスは非常にネガティブなイメージを伴うようになってしまった。しかし、これらは全てテラスハウスが本質的に持っている問題ではない。問題点を解消すれば、長寿命なテラスハウスを実現することも可能なのではないか?
長期耐久性は構造上の配慮により確保することができる。幸いに、低層接地型の計画は、長期優良住宅の認定を取ることは難しくない。住戸ごとの独立性は、建築的に対処できる。2枚壁、1住戸単位で構造的に独立させることで、隣戸間の独立性を高くすることが可能だ。このようにすれば、1住戸ごとの更新の道も開けてくる。そして、長期利用に必要な維持・管理・運営を行うことが重要だ。マンションのように、土地を共有し、区分所有登記を行い、管理組合を結成、管理規約を定めて維持・管理・運営をする。このようにすると、区分所有法に基づく維持・管理・運営が可能になる。その結果、1住戸ごとの更新ルールも規約で規定することが可能になる。
さらに超長期を見据えた場合、ルールが陳腐化したときには、規約改定でルールを変更する柔軟性も確保できる。このように、管理規約で更新ルールを設定することにより、時代を超えた持続性を持つ景観保全も可能になる。
また、全体で一つの敷地を共有する形になるのでゲーテッド化することも可能となる。敷地内照明を管理できるので、夜間景観の演出や、照明によるセキュリティ性向上も可能となる。
区分所有法をテラスハウスに活用すれば、持続可能、環境共生、セキュリティを実現する持続可能な集合住宅が可能となる。開発手法として区分所有法を活用するとさまざまな可能性が見いだせる。建築基準法86条の一団地申請を活用して建物を分散配置すれば、さらなる可能性を見いだすことも可能になる。
今回、神戸北野の伝統的建造物群保存地区の中でも、最も古く開発されたエリアに位置する邸宅跡地で、このようなコンセプトに基づく集合住宅を実現した。区分所有法改正のきっかけとなった阪神淡路大震災で被災した神戸において、神戸のまちのイメージを象徴する北野町で実現できたことに感謝したい。