持続可能な集合住宅の実現に向けて
〜「1000年集合住宅」が意味すること〜
イギリスの住宅の平均寿命は日本の約3倍。その多くが低層で、各戸が地面に接している連続建ての集合住宅(テラスハウス)。イギリスでは200年以上前からテラスハウスが建設され、現在でも全住宅のおよそ6割を占めると言われています。イギリスのテラスハウスは何故長持ちするのでしょうか?
一つはレンガ積等耐久性の高い構造であること。もう一つは、接地型という建物形状に起因していると考えられます。戸建と同様に共用配管は建物の外部に地下に埋められ、設備更新を戸別にできることで、設備の近代化に容易に対応する事ができました。以上の様に、構造の耐久性の高さと、設備更新のしやすさによって、ライフスタイルや時代の変化に対応し、 長持ちする事に繋がったと考えられます。
では、日本のテラスハウスはどうでしょうか?日本でも、1970年頃からテラスハウスは導入されましたが、現在では減少しています。その理由は何でしょうか?
一つは構造耐久性が低かったこと。もう一つに、隣接住戸間の遮音性が低く、住戸の独立性が十分に確保されていなかったことが考えられます。さらに、これが本質的かつ最大の問題だと思いますが、テラスハウスが戸建のイメージを装って販売された事です。多くのものが、土地は区画毎に分筆し、建物を戸建登記して販売されました。その結果、建築計画的には集合住宅で有るにも関わらず、区画間の権利関係は断絶されており、建物を共同で管理する法的バックボーンを持つ事ができなくなってしまい、建替えはおろか、改修する事も難しい状況に陥ってしまいました。
以上の事から、日本のテラスハウスは非常にネガティブなイメージを伴う事になってしまいました。しかし、イギリスのテラスハウスと見比べてみてわかるように、これらは全てテラスハウスが本質的に持っている問題ではありません。
一方、日本で一般化したマンションはどうなのでしょうか?超長期を見据えた利用を考えた場合、将来的に必ず必要となる配管等設備の更新を伴う大規模修繕の合意形成が難しいと言われています。これを乗り越える手段を持たなければ、イギリスのテラスハウスのように超長期にわたる持続性を確保する事は難しいと言えます。これは、日本の集合住宅が共通して持つ根本的問題であり、現在急増している超高層マンションでも同じ問題を抱えています。
先述の通り、日本のテラスハウスが持つ問題は本質的問題ではありません。従来の日本のテラスハウスが持っていた問題を解消すれば、イギリスの様に長寿命なテラスハウスを実現する事も可能なのではないでしょうか?
長期耐久性は、長期耐久性を持つ構造を採用すれば確保することができ、低層接地型の計画は、長期優良住宅の認定を取る事も難しい事ではありません。住戸毎の独立性は、建築的に対処でき、2枚壁で1住戸単位で構造的に独立させることにより独立性を高くすることが可能です。このようにすれば、1住戸単位の更新への道も開けてきます。そして、マンションのように、土地を共有し、区分所有登記を行い、管理規約を定めて維持・管理・運営をすれば、区分所有法に基づく維持・管理・運営が可能になります。その結果、一住戸単位の更新ルールも規約で定める事が可能になります。一住戸単位の更新が可能になれば、段階的更新によって全体が超長期にわたる持続可能性を獲得することも可能となります。
このように考えると、テラスハウスこそが、日本で持続可能性を持った集合住宅を実現する方法の一つではないかと感じてきます。テラスハウスを前提に区分所有法を見直すと、区分所有法がいかに良くできているかがわかり、驚かされます。このような観点から「ラ・テラッセ住吉山手」「ラ・テラッセ大手町」を、さらに一団地の総合的設計制度を活用して建物を分散配置した「神戸ハウス北野」を企画・事業化しました。
事業化を通じて、さらなる可能性も見出すことができました。「神戸ハウス北野」は、伝統的建造物群保存地区の、非常に景観規制の厳しい立地に位置します。その中で周辺の街並みの魅力を抽出して計画に反映しましたが、超長期を見据えた時、団地管理規約の中で更新ルールを定めることで、更新が繰り返されても集合住宅全体の魅力維持が可能です。さらなる超長期を見据えた場合、そのルールが陳腐化した時には、規約改定でルールを変更する柔軟性も確保できます。このように、更新ルールを設定する事により、街区として、時代を超えた持続性を持つ景観保全が可能になります。
また、全体で一つの敷地を共有する形になるので、マンションの様に、敷地全体にセキュリティーラインを設定して、ゲイテッド化することも可能です。その事で個々の住棟は開放性を高く保つ事が可能になり、開放性と安心・安全が両立した住まいを実現する事が可能となりました。
さらに、敷地内照明を管理できるので、夜間景観の演出や、照明によるセキュリティ性向上も可能です。また、共用の植栽を団地管理組合で管理・剪定する事で、少ない個々の負担で緑豊かな環境を享受することができる等、今まで戸建では不可能だと思われていた様々な事が、区分所有法を適用する事でスムーズに対応できることに気付きました。
このような可能性は、追求していけば、まだまだ見つけることが可能だと感じています。このように、区分所有法を活用して、持続可能、環境共生、セキュリティーを実現する持続可能な集合住宅の事を、私共は「1000年集合住宅」と呼んでいます。
持続可能性を持っているかどうかは、想定する時間軸を極端に長く伸ばしてみた時に明らかになってきます。一般的な分譲集合住宅でも、長期耐久性を確保し、適切に維持管理すれば100年程度は持たせることが可能かもしれませんが、おそらく1000年持たせることは不可能です。この事からもわかるように、集合住宅が持続可能性を持つことは、ハード面だけではなく、ソフト面も包括しなければ達成する事ができないのです。
阪神・淡路大震災を機に設立したキューブ。設立以来20有余年、集合住宅の持続可能性獲得に向けて、様々な視点からアプローチを行ってきました。その中から生まれた一つの到達点として、私共は「1000年集合住宅」を提案しています。

