新住宅供給スタイル「スケルトン」定借特集
考察ー構造的転換の時代住宅供給の可能性
30年後に建物買い取り選択 ストック形成まちづくりへ 維持管理も徹底
次代の住宅供給の新スタイルとして位置づけられる「スケルトン定借」の特徴はどの点にあるのか。同方式の開発者の建設省建築研究所第1部住宅計画研究室長、小林秀樹氏に聞いた
リスク少なく
――スケルトン定借、いわゆる『つくば方式』の特徴からうかがいます。
「百年耐久のスケルトンマンションと、供給価格を引き下げる定期借地権を組み合わせたものです。五十年後に建物を取り壊して土地を地主に返還するのが通常の定借マンションだが、それでは百年住宅の概念と矛盾するので、地主が入居者からスケルトンと呼ばれる骨格部分を受け継ぐことでそれを解消する」
――地主がスケルトンを買い取る?
「そうです。それによって長持ちする住宅を安く供給できる社会的効果があるし、入居者にすれば通算して六十年間持ち家として居住できる。特に、間取りや内装といったインフィルを環境変化に併せて自由に交換する(つくり変える)ことが可能な分、それだけスケルトンを長期にわたって使用する、つまり長持ちさせることができる」
「スケルトン各住戸の面積は決まっているが、バルコニー側の外壁を変更可能にすることで、サンルームを設けるなどバルコ ニーにも増築できる構法がある。自由設計できるという点はやはり大きな魅力で、定期借地権を使うことでこうした住宅に低コストで住める。ただ、その分通常の定借マンションよりは若干割高になるし、六十年間以上の耐久性が必要なので躯体全体の建築コストも五%前後アップします」
――地主のメリットは?
「現在の土地活用・経営は、入居者確保に不確定要素のある賃貸住宅経営が一般的だが、景気後退や今後の少子化などで経営リスクは大きくなる傾向にある。このためそれに変わる経営手法がなければ土地活用ができにくくなる。ある程度持ち家感覚で住めるうえ、一度入居すれば空室になりにくい定借方式は、スケルトン定借を含め入居者需要が見込みやすい面がある」
「スケルトン定借と通常の定借とでは大きな違いが二点ある。第一は、地主が三十年後に建物を買い取るかどうか選択できる点。建物を買い取ってその時点から賃貸住宅として経営してもいいし、無償で返還される六十年後まで待って、そこから賃貸経営してもいい。そうした特約を契約当初に盛り込むわけです」
――その場合、三十年後の買い取り価格はどうなりますか。
「基本的にはスケルトン部分にかかった建築費の四割。一戸当たり百u程度のスケルトンなら二千万円程度なので買い取り価格は八百万円前後。四割というのは、耐用年数を六十年と設定した場合の減価償却をはじいた割合です。」
修繕費を増減
――第二の相違点は?
「入居者による維持管理が徹底されるという点です。通常の定借のように建物を取り壊して土地を返還する場合、入居者が維持管理をしなくなってついにはスラム化の危険性がある。四十年もすれば、どうせ取り壊すのだからと修繕費用を払わない人が出てきたり、その結果建物が荒れるので退去したりする人も出てくるわけです。スケルトン定借ではこれを回避する」
――その仕組みは?
「マンションは一般的に三十―三十五年目にかけてエレベーターや給排水管などの全面交換といった非常に大規模な修繕を行う必要がある。この費用が一戸当たり約六百万円と高い。通常は修繕積立金などで対処するが、これは外壁の塗り替えや防水工事など十二、三年目に行う大規模修繕を想定したもので、設備交換などの超大規模修繕を乗り切るには住民の合意形成で積立金を引き上げるか、例えば六百万円を別に支払う必要がある。分譲マ ンションではこれが乗り切れず、だいたいこの時点で建て替えとなるが、五分の四の決議が必要だし、その時点の容積率問題も出てくる」
「その点つくば方式では、三十年目の地主の買い取り価格に、建物の修繕状態を加味して増減する。例えば二十八年目にこうした大規模修繕を行えば、その費用の二分の一を買い取り価格に加算する。一方で修繕をしなかった場合には、相当額全額を減額する」
「入居後一部の入居者が修繕費を払わないケースも想定されるため、当初の借地契約時に全入居者が地主と個別に建物処理に付いて合意・契約する仕組みにしている。このため住民の合意形成も特に必要としません。つまりストック形成のためにも維持管理にかかる費用を入居者がきちんと負担し、建物の修理を円滑に進めるという点にスケルトン定借の目的がある」
――研究はいつから着手されましたか。
「十年ほど前からです。高齢化社会を控え、お年寄りが都心部にも居住できるのにふさわしい住宅をというのが元々のテー マ。ところが都心部では価格も高いし、マンション自体の質も高齢居住に耐え得るものではない。それなら@間取りも自由で車イス対応も簡単にできる構造A低価格のための期限付きの権利―をという条件を設定した」
――この時点ですでにスケルトンという構想はあった?
「ありました。当時はまだ定期借地権がなかったので、スケルトン自体の三十年間の利用権を一括購入する『スケルトン利用権』という形でした」
――その場合は、スケルトンの所有者は別になる。
「そうです。当初は公社・公団などの公的セクターを想定していた。ただ、当時は利用権という法律がなかったうえ、建設費負担の問題もネックとなりました。価格を安くするには建設費の半分を三十年間誰かが肩代わりしなければならない。長期に及ぶので民間ではできにくいし、債券を発行して公的セクターが建設することも考えたが、やはりすぐには実現しにくい」
――そこに定期借地権が出てきた。
「総です。定借の譲渡特約、つまり建物買い取りのスキーム、これは使えるのではないかということになり、最終的につくば方式ができた。これまで、つくば市内で二棟が完成し、世田谷区で今週に一棟(松原アパートメント)が完成。現在三ヵ所(目白、世田谷経堂、横浜鶴見)で建設中で、前橋市では十五戸の入居者(コーポラティブ参加者)を募集中です」
「いずれも面積が八百―千uの中規模土地という点で共通している。従来の土地経営手法では地主単独での事業化には中途半端な規模で、その面からもこうした土地を抱える地主にとっては選択の幅が広がるといえます。利回りも基本的には通常の定借と同様なうえ、コーポラティブをとるのでリスクは少なくなる」
――一方で、優良ストックの形成にも役立つ。
「社会的観点からはそうです。特に街並みに配慮した住宅を建てやすく、まちづくりに貢献することになるでしょう。中心商店街の疲弊が現在問題になっていますが、こうした地区への人口呼び戻しによる活性化の具体的手法となり得ます。一般的に商店街は容積率が大きいので四百u 程度の土地であれば、スケルトン定借を導入できる」
――地価下落に歯止めが掛からない状況では、地主、入居者双方のメリットが薄まるのでは?
「定借だけとしての面から捉えると価格競争の性格がどうしても強まる。しかしつくば方式は、内部を自由設計できるし、六 十年間の維持管理システムで分譲マンションより安心して住める。コーポラティブの組み合わせで経営リスクも回避できる。こうした価格以外の価値がクローズアップしてくる。特に地主にとって、地価下落でほかの経営手法に限りが出てくるので、余計につくば方式が大きな選択肢となり得ます」
普及への”裸売り”
――今後の推進に当たっての問題点は?
「二つあります。第一はつくば方式を実際に進めるにはかなりのノウハウが必要だということです。特にスケルトンという建築の仕組みと定借の仕組みの両方をある程度以上理解する必要がある」
「このために人材研修が重要。これについては七月六日『スケルトン定借(つくば方式)普及センター』が発足し、一応のメドがつきました」
――第二は?
「建築面の課題です。大きく普及させるにはスケルトン売り=裸 売りができないといけない。つまり、スケルトンを建売するつくば方式です。つくば方式にコーポラティブを採用する理由は、事業リスクを回避するだけでなく、間取りを自由設計できるというスケルトンのメリットをはっきり打ち出すということもある。しかしコーポラティブは手間がかかる。建売で分譲し、かつ入居者が間取りを発注する。これには、建築基準法の完了検査の問題上から同法の改正が必要になる」
――『骨組み』は完了ではない。
「そうです。やはり建築完了とするのは無理があるので、現在、仮使用承認制度の活用を考えています。例えば、マンションでは半分の入居者が決まり、残りはがらんどうでもいい。仮使用承認を得ることで、半分は入居、残りは入居者が決まり次第中身を発注する。つくば方式だけでなく、一般分譲マンションへの適用も有効になります。」
スケルトン定借で一気に解消 投資はほぼゼロ 地主・入居者、低負担でニーズ実現
スケルトン定借は、定期借地権の一種である建物譲渡特約付き借地権を活用、百年間の長期耐用が可能で住戸内部(インフィル)を入居者が自由設計できるスケルトン(骨組み)方式による集合住宅を建設し、定借のメリットを生かして住宅を低価格で供給する一方、良質なストック形成を促進する手法として開発された。
最大の特徴は、まず全期間を六十年としたうえで、建物譲渡特約に基づいて借地期間を三十年とし、借地期間終了時に地主が建物を買い取り残り期間を借家経営するか、そのまま借地として経営するか選択できるようにした点。
入居者は住戸を購入してから当初三十年間は通常の一般定期借地権と同様、購入ローンのほかに地主への地代を支払うが、三十年後に地主が建物を買い取ると借家契約に切り替わり、入居者は残りの期間、地主(建物オーナー)に家賃を支払う。
一般の定借と異なるのは借地期間満了時の土地返還に伴う建物取り壊しを前提としないので、保証金を必要とせず、割高なスケルトン住宅の建設費(インフィル部分の工事費含む)を拠出しても低負担で満足できる住宅を取得できるうえ、三十年後以降は、地主の建物買い取り価格と入居者家賃を毎月相殺する「家賃相殺契約」を締結するた め、借家に移行しても結果的に月々の賃料は通常の賃貸マンションより割安になる。住宅ローンもその時点で終了するので実際の入居者負担は大きく軽減されることになる。
地主にとっては、建物建設資金など初期負担が不要であるうえ、全入居者が集まってから事業化するコーポラティブ方式を取るため空室懸念といった経営リスクがなくなる。三十年後の建物買い取りを選択した場合も、家賃相殺契約によって実際には買い取り費用は発生せず、前期間にわたって持ち出しゼロで土地経営ができる。六十年後は更地化するかそのまま賃貸経営するか地主が選択する。
11月7日梅田で入居者セミナー
住宅金融公庫大阪支店は十一月七日、大阪梅田の阪急電鉄本社ビル一階「エコルテホール」で、スケルトン定借に関する入居者向けの公開セミナーを開く。
スケルトン定借の開発者である建設省建築研究所の小林秀樹氏が同方式の概要や仕組み、入居者メリットなどについて解説。 放送大学教授の本間博文氏が「入居者が語るスケルトン定借の魅力」について語るほか、関西で現在進行中の具体事業五件の紹介や、公庫大阪支店の竹井隆人氏がスケルトン住宅取得のための融資支援などについてわかりやすく解説する。
対象は一般ユーザーで、参加費は無料、定員は三百人。公庫大阪支店企画広報課(大阪市中央区南本町四―五―二〇、FAX06−282−9271)までFAXか郵送で申し込む。
土地活用 居住満足 まちづくり 3つのニーズ・課題
コーポラティブ採用で 住民・地域が融和 探訪 住所供給新手法
住戸内部の自由な設計・変更が可能で百年間耐用の強固な構造体をもつスケルトン住宅と、低価格供給が具体化できる土地活用手法の定期借地権、住民共同参加の建設組合方式(コーポラティブ)を組み合わせた「スケルトン定借」への取り組みが本格化してきた。建築研究所などが中心になって開発、九十六年に茨城県つくば市で第一号が完成したことから「つくば方式」とも呼ばれ、今後の住宅供給モデルの一つとされる。関西でも住宅金融公庫大阪支店の主導で専門家などからなる研究会が発足、普及への足場が固まってきた。
Point スケルトン
従来のマンションは、@建物の構造体(鉄筋コンクリート)が相対的に百年単位の超長期耐用となっていないA設備や間取り、内装が当初から決まっているうえ、生活様式の変化などに合わせた変更・更新が簡単にできないB建物の修繕費用負担が大きく、勢い建て替えを選択する―などから、長持ちする建物とは決していえない部分があったが、こうした点を解消するのがスケルト ン住宅だといえる。
スケルトン住宅は、耐久性のある構造体と改造しやすい間取り・内装(インフィル)を当初から明確に分離した住宅のことで、入居者(住戸購入者)は入居当初からニーズに合ったインフィルづくりを行えるうえ、将来の生活様式の変化にもインフィルの交換で手軽に対応できるため、スケルトン自体を取り壊す必要がなく、入居者も満足度を得やすい利点がある。さらに、高い階高と十分なコンクリート厚をもつ良質なスケルトンなら、住宅からオフィスや店舗などに変更も可能で、「有効に使える土地部分が立体的に連なる」概念に近い建築として長時間の利用が可能だ。しかし一方では、それだけ建築コストが高くなり普及べースには乗りにくい面があった。このため「つくば方式」では定期借地権を活用、コスト低下を具体化した。さらにローン期間を三十―三十五年とすることで、抵当権などがローン終了時にいったん解消するので、その頃必要となる大規模修繕などの住民の合意形成が不要で、建物の維持管理も円滑に進められる。
Point 建物譲渡特約
通常の定借では前提条件となる借地期間満了時の建物取り壊しを不要にしたのが、建物譲渡特約の活用。
入居者は当初三十年間を定借住宅として持ち家所有する一方、地主は地代を受け取り借地経営を行う。三十年後に特約に基づき地主が建物を買い取るが、この場合、@退去する入居者はスケルトンの再建設費の四割の譲渡金を受け取るA退去しない入居者はそのまま賃貸居住に移行する―ことになる。
住み続けた場合、賃料は地主の買い取り価格と相殺するうえ、すでにローンが終了しているので六十年後まで低コスト居住が可能。地主にとっては、賃料収入が安定的に見込めるうえ、六十年間にわたる節税効果と相続税対策が可能になる。また、スケルトンの一階部分を店舗にするなど、一部を賃貸経営にまわせば、収益の増加と一層の相続税軽減効果も見込める。
Point コーポラティブ
事業化前に入居者希望者を集めるコーポラティブ方式を採用することで、地主にとって空室の心配がなく土地経営が一層安定して行えるうえ、不審者の排除も行いやすいといったメリットが見込める。
一方、入居者メリットは、スケルトンによる個人ニーズの実現を図ったうえで建物全体をそれぞれの暮らしにあったものにしやすく、コミュニティも形成されやすいといった点。全体をオーダーメードするわけだ。
考察ー構造的転換の時代 住宅供給の可能性
「地域連携」促進へ積極化 ユーザー地主の高い関心に手ごたえ
関西でスケルトン定借をいかに普及させ、その支援をどう行うのか、大阪まちづくり研究会事務局の役割も果たす住宅金融公庫大阪支店の山口完爾支店長に地域づくりの視点から聞いた。
初動期が重要
――スケルトン定借に関する公庫の取り組みから、おうかがいします。
「従来型のコーポラティブに、自由にインフィルづくりができるスケルトン住宅と建物譲渡特約付き定期借地権のに手法が融合したのが『スケルトン定借』です。事業化のためには土地の情報をいかに集め、住み手をコーポラティブにいかに参画させていくか、いわゆる事業の初動期が大切で、これが円滑に進めば事業としてほぼ立ち上がる。公庫(大阪支店)はその過程に積極的に関わっています」
「コーポラティブ住宅は新たな住宅・まちづくり手法として注目できますが、大きく普及しているとは決して言えないのが現状で、そのハードルをクリアする可能性を持つスケルトン定借を活用しようと考えています」
――なぜ、その様な取り組みが必要なのでしょうか。
「コーポラティブは、地域連携という公庫が目指す政策融資の方向に非常に沿ったものであると認識している。地域ごとのまちづくりの観点から住宅政策が生まれ、国の住宅政策はそれを支援するというスタンスで、こうした側面は今後ますます強まるでしょう。このため公庫にも、地域の住宅政策を支援するという役割が今後一層求められる」
「ただ、それを担う主体は、やはり地域の住民、つまり個々の住まい手でこうした人々がいかに多くまちづくりに参画していくか、地域連携をどう行うかが大切なわけです。その点で当初から住民が参画するコーポラティブは有効な手法の一つとなる」
――そのコーポラティブを推進するうえでも、地主に安定した土地経営をもたらすスケルトン定借は土地供給=土地情報集約という面からも効果が期待できる。
「その通りだと思います。しかもスケルトン定借は住まい手の満足感も得やすい。地域づくりというのは、例えば住宅の共用部分で住民が交流を育むといった一種の社会性が重要で、地域の単位であるコミュニティを住宅政策全体にいかに結び付けるか。その一つとしてコーポラティブがある」
「そうしたコーポラティブ住宅は社会要請として長期耐用が求められ、そのために百年耐久のスケルトンが登場する。その一方で長期耐用住宅にかかるコストをいかに圧縮するかが課題となり、そこで定借の活用が出てくる。ようするに多種多様な手法の組み合わせが有効になるわけで す」
――つまり、それだけ選択の幅が広がっているわけですね。
「その選択肢の中からいかに有効なものを選び組み合わせ、各地域にあったものとして供給するか。公庫はそれをどう支援するかということになります」
「さらに生活者も従来型の出来合いのもので満足するのではなく、各々のニーズをどれだけ盛り込んだ住宅を取得するか。需要者側も参加して自身のニーズを実現するという方向に変わってきている。供給側もそれに対応した取り組みを行うなど、市場の需給構造自体が大量供給時代から大きく変化しつつあります」
――選別の時代ですね。
「そうした時代であるからこそスケルトン定借を進める価値が出てくるし、また(需給両サイドから)評価される方式となり得ると思います。同方式を推進することで、市場の変化・動向を支援するという点に公庫の役割の一つがある」
セミナーも好調
――その推進のためにも昨年十月、大阪まちづくり研究会が発足した。
「研究会は、地域連携具体化のための展開の一つのあり方です。まず、今年三月には、事業化できる土地情報の集約のため、神戸で地主向けセミナーを開催、スケルトン定借の考え方やメリットなど紹介したうえで、地主から土地の提供の申し出を募りました。八月には申し出のあった土地に対して参加企業による公開の事業化コンペ(提案競技)を実施、十一月には入居者向けセミナーを行い具体の計画物件を紹介する予定です。この案件が完成すれば、関西では初となる」
――ただ、現在は市場が非常に冷え込んでいる。スケルトン定借への地主の土地活用需要は見込めるのでしょうか。
「現在の景気は循環要因だけでなく、やはり構造的不況。今後景気が回復しても以前の大量供給時代と市場構造は同質なものにはならないでしょう。そうした中、住み手のニーズを実現しやすい住宅を低コストで供給でき、地主にとっての土地経営メリットのあるスケルトン定借は有効に働くと思います」
「これまでの土地活用は賃貸住宅経営が主流だったが、現在は入居率も悪化傾向にあって、地主の賃貸住宅建設・経営意欲は減退しているのが実情です。これに対して事前に入居者が参画するコーポラティブを前提としたつくば方式は空室リスクがない。人が集まらなければ事業を中止すればすむ。こうした面からも(地主の)関心は高い」
「実際、前述の地主向けセミナーでは四百人の定員のところ六百人の参加応募がありました。特に阪神間では復興のための大量供給の直後ということもあり、これまでと同様の賃貸供給は地主として見合わせる傾向が強まっている。その中でもスケルトン定借に興味を示す地主が多かっ たわけです」
――一方で、普及をにらんだ場合、企業が積極的に動き出す必要がある。
「その一環が八月のコンペでした。デベロッパーはこれまで、コーポラティブはいろいろなコストがかかるとして動きは鈍い面がありましたが、今回研究会には大手も参加している。研究会の活動を通じて事業化の際に豊富なノウハウを持ったデベロッパーが参画できるようになればと考えているし、手間がかかる初動期に特にデベロッパーの参画が必要です」
――今後の入居者参加の見通しは?
「公庫主催による計画物件の紹介を含めた入居者向けセミナーの開催について、新聞紙上で告知を行うほか、公庫の住宅債券積立者約一万人にも案内DMを発送しました。セミナーへの参加については予定枠の三百人は確実に超えそうです。」
情報支援を拡大
――今後の取り組みについてお聞かせください。
「研究会はやっと一クール終わったところ。研究会自体の運営についても発展方向で見直す必要もあるでしょう。公庫としてもこれまで行ってきた情報支援のスタンスをさらに推進する考えです。」
「スケルトン定借を採用することで、例えば密集市街地の再編や都心型居住スタイルの提供による定住人口呼び戻しなど、自 治体が抱える地域の課題の解消に役立てると期待している。もともと震災復興に定借がどう活用できるかと関心を持っていた神戸市と意見交換した際、スケルトン定借を紹介したことが研究会発足のきっかけの一つとなった。土地の有効利用や震災後のコミュニティ形成を住宅づくりの中でどう具体化させるか。そうした視点でスケルトン定借に取り組んでいきます」