大阪都心・内淡路、高級住宅地・芦屋 2ヶ所でコーポラティブ
自分自身の思い描いた家に住みませんか―住宅の購入を、気に入ったその場所で考えている人々が集まり、土地の取得から設計・建築まで共同で満足のできる住宅を建てて居住する「コーポラティブ住宅」プロジェクトが大阪都心と芦屋市内の2ヶ所でスタートする。コーディネーターの基本提案を軸に、入居者となる事業参加者が設計段階から事業主体として参画、それぞれの住戸ごとにそれぞれのプランを自由に描けるマンション事業で、コーポラティブに数々の実績があるキューブ(神戸市、天宅毅社長)がコーディネート、参加者募集を始めた。その一環として23日に、大阪市北区天神橋6の大阪市立住まい情報センターで「コーポラティブハウスセミナー」が開催される。
セミナーのテーマは、「自分の好みや住まい方・予算に合った住まい創りを」。完成した住戸を購入する通常の分譲マンションなどとは違い、参加者が集まって「共同で自らの手で自らの住宅を建てる」コーポラティブ住宅の理念を凝縮した。
事業予定地は、天満橋、谷町四丁目、北浜3駅徒歩圏の大阪市中央区内淡路町と、JR・阪神芦屋駅の中間にある平坦な街区内の2ヶ所。内淡路町はこれまでコーポラティブハウスが数多く建設された都心居住スタイル発信拠点だった旧東区に位置していることから、今回のプロジェクトでもコーポラティブを軸にした「新・都心居住」を提案。一方の芦屋では、高級住宅地としての都市品格を継承しながらも、コーポラティブによって独自のライフスタイルを追求・表現できる住まいづくりができることを実証する。
セミナーでは、メリット・デメリットを含めてコーポラティブ手法の内容や意義、可能性などについて解説。コーポラティブハウスのことを十分に理解してもらったうえで両事業への参加者を募る。
基本的に両事業ともコーポラティブの公式通り、参加者が組合員となって事業主体となる建設組合を設立。同組合が土地の売買契約や建築請負契約などの事業行為を行っていく一方、参加者それぞれは自分が所有する住戸を自由設計でデザインしていく。
組合が行う契約行為や会計処理といった運営、参加者それぞれの融資相談など専門的な手続きなどはコーディネーターであるキューブが助言・実施。事業の基となる全体の基本計画や参加者間の意見調整などもキューブが取りまとめて行う、いわゆる「簡易型コーポラティブ」として実施するので、円滑に事業を推進できる。
コーポラティブは一般的に自由設計によって参加者が満足できるプランニングができる一方、事業の初動期段階から事業主体として参加者が参画するのでコミュニティが形成しやすいうえ、資金フローがガラス張りになるし、分譲者利益を確保する必要がなくその分コストの圧縮も図る事ができるなどから、供給者側の都合が先行する従来型住宅供給にとって代わる手法だとして、その可能性について再評価の声が高まっている。
内淡路コーポラティブハウスで専門家集団の一角として募集協力を行うランズ不動産販売(大阪市)は今回の事業が「簡易型」であることを踏まえて、「専門知識を持たないエンドユーザーでも、分譲マンションを購入する場合と同様に、『都心で』 『自分のライフスタイルに合った』 『ローコストな』住宅を取得できる」とし、「コーポラティブ方式は、『よいものをより低価格で』というエンドユーザーの意識が高まってきているこれからの時代のニーズに応えられる効果的なシステムだと思われる」と話している。
同じく芦屋コーポラティブハウスに参画する信和住宅販売(神戸市)は、「コーポラティブは新しい集合住宅のの創り方。既製品ではなし得ない設計や使い勝手の満足度を向上させ、マンション管理組合の費用節約や建物全体の維持管理の意思疎通を図ることができる。優良な住宅地だがデベロッパーが手出しできない大きさの宅地を有効活用でき周辺住民との強調を図っていけるのも大きなメリット」と事業参画を決めた理由をのべ、「価格的にも一般分譲に比べて割安感が出るのがポイント。設計オーダーができるので満足度も得られる」。「不動産会社が用地をいったん取得し土地売主として事業化したり地主との交渉を行うことで用地確保が短期間で行えスケジュールの確立を促進させることも可能」で、状況ごとに柔軟に対応できるとも指摘している。
国内外の集合住宅事情や都市問題などに詳しい政治学者の竹井隆人氏は、さらに広い視点からコーポラティブの可能性を指摘している。
竹井氏は、「共同性」をキーワードに集合住宅の持つ意義から民主主義のあり方を論考した著書「集合住宅と日本の人」の中で、集合住宅のコミュニティ形成能力のあり様について触れ「コーポラティブ方式は微々たる供給にとどまってきたが、ネオコーポラティブ方式の普及こそが、集合住宅のみならず”まちづくり”あるいは都市や国家の求めるべき『共同性』にも光栄をもたらす」と論説している。
コーポラティブにはメリットも多いがデメリットももちろんある。しかし、一般の分譲マンションでは味わえない充実感があるのは確実だし、限界が指摘される一般の分譲マンションに代わる供給・居住スタイルとして大きな意義があるのは間違いない。デメリットをできる限る抑え、メリットを最大限に生かせるコーディネートを行いたい。
住宅を取得する際に、最も重要になってくるのが資金計画で、その中心になるのが住宅ローンだが、月々の家計負担を大きく左右するのが金利の動向だ。ローンを組んで住宅を購入するのであれば、コーポラティブ住宅でも通常の住宅でもこれは変わらない。
借り入れ金利の違いで返済負担がどれだけ変わってくるのかを試算した。金利が年2.65%(A)をもとに、0.5%高い年3.15%(B)の場合とで、月々の返済額と借り入れ期間満了時の総返済額の違いをみた。長期固定型ローンの代表的指標である住宅金融支援機構の「フラット35」を利用して35年償還で2000万円を借り入れたと想定、機構のシミュレーションによって計算した。
それによると、35年間の総返済額は、Aが約3070万円なのに対して、Bは約3300万円で、Aに比べ230万円返済額が増える。金利が0.5%違うだけでエコカー1台買える差が出る。低金利がいかに有利かがこれでわかるわけだ。
コーディネーターは「指揮者」 能力次第で居住者満足度を左右
コーポラティブ住宅のメリットとデメリット、そしてその特有の住宅取得・供給形態がどのような可能性を秘めているのか。住宅政策・都市問題に詳しい小林秀樹千葉大学教授に聞いた。
識者の見方
―コーポラティブ住宅は通常の分譲・賃貸に比べ居住者の満足度が格段に高まるとされるが。
「設計・施工面、価格の透明性の確保といった面から、一般に満足度は高まるのは確かだ。ただしコーディネーターの能力に(事業の成否が)左右される点に注意が必要だ。がこの点も、熟練のコーディネーターが実施すれば、ほとんど気になるデメリットにはならない」
―完成までに時間がかかる、建設費が割高になりやすいのが若干の難点だとの指摘もあるが。
「時間がかかることと建設費の問題は、注文建設では当たり前のことだと認識するべき問題。仮に転売する際の値付け(流通価格)では、個別設計して費用がアップした分は評価されにくいのが普通(車にオプションを付けても中古時の評価アップはわずかであるのと同じ)。しかし、標準設計程度または同等以上には評価されるため、不利と言うほどのことではない。コーディネーターが最初の段階で、『自由設計した建築費のアップ分は中古段階では評価されにくい』ことを伝えて事業を進めれば、不満はほとんど聞かれない」
―コーディネーターの役割については?
「コーポラティブには、ユーザー主導型とコーディネーター主導型がある。実績の9割以上は後者。前者のユーザーが主導し、コーディネーターが調整役にとどまる例は希であるとともに、ユーザー同士の合意形成も大変になる」
「コーディネーター主導型は、簡易型コーポラティブとも呼ばれ、手軽にコーポラティブ住宅の自由設計メリットを享受したい人々に歓迎される。この場合のコーディネーターは、事業を円滑に遂行するための全責任を担う『指揮者』。その能力が高ければ、自然に居住者満足度も高まり、建物のでき上がりもよくなる」
―コーポラティブ住宅の可能性についてはどうか。
「今後は、マンションの自主建て替えや密集地の共同建て替えなど、コーポラティブ住宅のノウハウが必要になる場面が多くなる。このため、広い意味でコーポラティブ住宅への期待は高まる。それだけに、十分な経験とノウハウを身に付けたコーディネーターに対する期待は大きい」
中間経費省略で費用も「割安」に
「コーポラティブハウス」とは・・・
入居希望者が集まって事業主体となる「組合」を結成、土地の取得から設計、建築行為(それらの担当事業者の選定も含む)まで行って建築する集合住宅(コーポラティブハウス)のこと。分譲やメーカー住宅より設計自由度が大きく、設計変更に伴う費用も、分譲マンションに比べかなり低く抑えられる。中間業者を省略できるので割安ですむほか、設計プロセスで住人となる参加者間の交流が必然的に行われるので、完成後の住棟もしくは街区のコミュニティが形成されやすいといった利点がある。
反面、完成までに時間と手間がかかる、奇抜な意匠の場合、転売しにくい、といったデメリットも指摘される。このため、ある程度の基本プランやスケルトン(建物の骨組み)を当初から用意・提示したり、外観デザインを分離する簡易型のコーポラティブ方式が採られるケースが多い。

論点 コーポラティブを考える
コーディネーター その役割は・・・ 円滑な事業のために
コーポラティブハウスを実際に実現するには様々なやり方・方法があるが、入居者となる参加者の考えを集約しながら、集合住宅づくり事業としていかに円滑に進め、個々の希望を実現していけるかは、全体を取りまとめて調整するコーディネーターの手腕いかんにかかっている。コーディネーターはコーポラティブ事業に具体的にどうかかわるべきなのか。関西でのコーポラティブ住宅の第一人者として評価の高いキューブ(神戸市)社長の天宅毅氏が語った。
■”矛先”になる
「キューブでは、最もスムーズに事業を進められると考えられる案をコーディネーターとしてまず提示する。それに基づいて『参加者の意見を反映して進める』というやり方をとっている。そうすることで、全参加者がゼロから勉強してスキームを構築していくのではなく、コーディネーターの経験を踏み台にして積み上げていく方法を取ることができる。(従来コーポラティブでは当然と考えられてきた)直接的な討議は一切行わないで参加者から提案があるときはすべてコーディネーターにぶつける。」
「よい提案であれば、コーディネーターがそれを全参加者に改めて提案し、参加者の了解を踏まえたうえで事業に反映していく。他の参加者の不利益や将来的なトラブルにつながると考えられるものについては、その旨をコーディネーターと提案者が納得するまで話し合い、納得に至った場合にその経緯を匿名で全参加者に報告する」
「参加者全員が共有すべきは、どんな意見があり、どう説明されたかという事実であって、誰が意見を言ったかではない。こうすることで『(意見の提案者が)細かい人』と思われる心配もなく何回でも質問することができ、内容がコーディネーターから参加者に告知されることで理解内容を全員で共有できる」
「(コーディネーターが発信する)広報はすべてメールなどで行うため、時間配分に応じて読むことができるし、自らが提案した内容も正確に広報されているかチェックできる。必要であれば、提案内容を整理して参加者に多数決を仰ぐこともできる。参加者に求められる手間は、広報物に目を通すことだけ。これだけで議論を十分積み上げていくことができる。コーディネーターは”ティーチャー"ではなく、あくまでもコーディネーター(調整役)。それに徹することでこそ円滑な事業運営が可能となる」
■自由設計への考え
「設計図は平面図だけではなく、壁面の形状を表した展開図や仕様表、設備図といった具合に複数の図面で表現されるし、それらはすべてモノクロであるため、専門家でなければ図面だけから正確に空間の具体的なイメージを持つことは不可能に近い。設計者のスケッチパースは演出意図が過剰に表現される傾向があり、完成した際にイメージした演出と異なっていても、修整するには時間と費用がかかり、品質も低下する。そこで、設計内容が最終案に近づいてきた時点で各住戸ごとにCGを作成し、イメージと合致しているか確認する」
「この時点でイメージと異なる場合は、設計変更を行うが、すでに工事がすんでしまった場合(の変更)と異なり、無駄なコストはかからず、品質低下にもつながらない。工事環境を整えることが(施工の)監理を向上させ、良質な品質の建物づくりにつながる」
「メンテナンス性に問題があると考えられるもの、評価が確定していない新商品や新工法は基本的に採用せず、建物(野維持管理)が安価に長持ちすることを前提に考えることが重要。集合住宅の社会性(都市を形づくる1つのインフラとしての性質)を踏まえ、特に共用部に関しては、デザイン性よりもメンテナンス性を重視した設計を行う(社会インフラとしての耐久性の確保=丈夫で長持ちし環境にも優しい住宅づくり)」
コーディネーター選びは・・・
・・・責任と「覚悟」をもって
自由設計ができるコーポラティブ住宅でも、もちろんそれが際限なくできるわけではない。当然ながら、拠出できる予算などを考慮しながら計画することが重要になってくる。ほうっておけば、知らぬ間に資金が膨らんだということも起こりえるからだ。だからこそコーディネーターの役割が重要になる。
コーディネーターは建築や空間設計のプロであるばかりか、事業が成功するために全体の収支・採算を見極めて計画を進行していく役割を担っているため、ローン計画などの資金プランづくりや税制などにも通じているうえ、それらに詳しい専門家などとのネットワークをもっているケースが多い。その面でも「プロ」として助言する立場にあるからだ。
つまり、そうした能力を備えているコーディネーターであるかどうかを見極めることが参加者には求められるわけだが、その見極めの手段としてまず考えられるのがコーディネーターのそれまでの実績を見ることだ。
それによって、どれだけのことを期待でき、どれだけ任せられるかといったコーディネーターの質・レベルをある程度つかめるし、どれだけ真摯に情報開示に応じるかによって、事業者としての社会的な姿勢と責任感もつかむことができる。
もちろん、コーディネーターがコーポラティブ事業に取り組むのは初めてというケースもある。その場合も含め、計画を進める際の姿勢から判断することも大きな手がかりになりえる。橋から自分の意見を押し通そうとするコーディネーターや、参加者の意見を一から十まで取り入れることに終始するコーディネーターは避けたほうが無難だ。
前者は、設計の専門家であることを自信に、自分の描いた”理想”をコーポラティブを借りて実現しようとするきらいがあるし、後者は逆に参加者が満足すればそれだけで事業が円滑に運ぶと思っている「ひと任せ的」な傾向が見え隠れする。この場合、前者を、参加者不在の「自己満足型」、後者をすべてを押しつけるだけの「参加者依拠型」あるいは「放任型」と呼ぶ専門かもいる。
前出(1面)の政治学者、竹井隆人氏は、「デザイナー(建築家・設計家)が始めるから、日本のコーポラティブではそうした問題が起こりがち」だとしたうえで、特に後者について「完全な責任放棄」だと言い切り、どちらにしても「結局、余計なモノを追加したりして価格が高くなってしまう」と指摘する。
こうしたことから、コーポラティブの第一歩は、コーディネーター選びからといっても過言ではないだろう。
しかし、熟練し信頼できるコーディネーターがあったとしても、任せきりにしてはいけない。自分にあった住まいをつくるということは、取りも直さず自身の責任の範囲内でできることをしていく自立した行為であるからだ。その覚悟が必要なのは言うまでもない。それがあってこそ、資金計画でつまづくこともないし、本当に納得できる住まいづくりができる。
事業参加に向けて・・・要諦は「長短所の見極め」
コーポラティブで「本当の満足」を得るために
コーポラティブには、メリットも多いが、やり方次第ではそれがデメリットへと転化してしまう可能性が多分にある。逆にいえば、デメリットをメリットに変えてしまえば、非常に有効な住宅取得・供給手段になり得る。それには、まずそれらを理解したうえで事業に参加することが重要になる。
自由設計で”納得” 資金フローも格段に透明化
―メリット―
■「自由設計」
コーポラティブ住宅の最大のメリットの1つとして上げられるのが、「自由設計ができる」という点だ。コーポラティブ参加者(入居者)は、自身が描く現在・将来のライフスタイルのあり方を想像、それにあわせて主に内部空間を形づくっていく。
現在普及しはじめてきた専用住戸自由設計対応の分譲マンションは着工後に販売しているため、躯体自体をいじったり、設備メーカーを変えるような設計変更などに対応し切れないといった制限がつくが、コーポラティブでは住戸単位で対応が可能だ。着工前の設計段階の変更であれば、そうした問題は霧散する。
さらに、「工事中に変更を行うため、間違いが生じたり工事の品質低下につながるのでは」「請負契約後の変更でその分のコストが定価ベースでほぼまるまる純増となるのでは」といった懸念に対しても、@着工前に設計完了するため、間違いが生じないよう監理を徹底しさえすれば品質低下を防げるし、逆に品質向上につながるA設計変更後の請負契約なので、変更コストは発注価格ベースでの差額だけ―など不具合はない。
■「納得の価格」
分譲マンションでは通常、現地以外の場所でモデルルームを開設するが、その経費は数千万にのぼる。実際に建つ建物とは関係ないばかりか、販売終了後は解体撤去破棄されるので撤去コストもかかる。これにテレビCMなど大量の広告を打てばどうか。「あの手この手で売ろうとするあまり、販売経費がますますかさむ傾向にある」という。
デベロッパーの利益が最低でも事業費の10%確保できなければ、その事業に対する与信が得られず、金融機関から融資を受けることができないという事情もあり、利益の確保が事業成立の前提になる。土地代と再販価格は市場で決定するため、結局は利益と販売経費を確保したうえで、残りの額で事業を組み立てていかざるを得ない。
これに対して、土地代、建築費、設計費など、建てるのに必要な費用の積み上げだけで事業を組み立てていくというのがコーポラティブハウスの基本的な事業化コストに対する考え方だ。
そこに居住しようという人が集まって、自分たちが居住するための家をつくる―そこには余分な販売宣伝費やデベロッパー利益などは発生しないし、入居者が主体となって工事や材料などすべてを発注するので資金フローが格段に透明化。このため価格形成にも納得できるようになる。
ただし、入居者は専門家ではない。契約行為や事業キャッシュフローの組み立てなど専門的知識を必要とする業務の実行には、それらの業務に通じた専門家の関与が不可欠になる。多くのコーポラティブの事業化例でコーディネーターが活躍するのは、このためだ。
■「コミュニティ形成」
マンションは引渡しが終わると区分所有者による管理組合が維持管理運営をしていかなければならないが、建物自体はメンテナンスフリーでは決してなく、10数年周期で修繕をしていかなければ良好な状況を維持し、長持ちさせることはできない。
しかし通常のマンションでは一般的に、当事者意識が希薄になりがちで、維持管理に最も重要であるべきコミュニティの不足が潜在的問題として以前から指摘され続けている。さらに、大規模修繕など高額の費用出費に対する合意形成が極めて困難で、それは阪神大震災の被災マンション復旧の際に大きくクローズアップされた。
コーポラティブの利点は、計画・建設段階から将来の入居者が事業参加者として、全員が当事者意識を持つとができるので、維持管理運営での合意形成を円滑に行えるようになる点にある。つまりコミュニティの事前形成だ。
自ら関与してつくりあげたマンションだけに、大事にしようという気持ちが働くし、愛着が強い分、部外者の侵入に対しての意識が働くため、ソフト面でのセキュリティー効果も大きい。警察庁の報告などでも「侵入者は人の目を最もこわがる」ことがわかっており、実際それが防犯にも大きな威力を発揮している。
■「合意形成の難しさ」
コーポラティブが持つメリットが、そのままデメリットになるケースがあるという場合も考えられる。その1つが「合意形成」。それまで見知らぬ者が多数集まった場合などは、集会を重ねるうち、ときには収拾がつかなくなって計画そのものが流れたりすることもあるという。そうなれば、メリットの1つでもある良好なコミュニティ形成以前の話になってしまう。
つまりメリットを生むはずの「直接的な討議」がデメリットを内包しているとみる関係者も少なくはない。
例えば、参加者間に対立が生じた場合、一方が妥協すると、意見が通った参加者は自分が正しかったと考える。次に対立が生じた場合、前回妥協した参加者は今回こそは受け入れて欲しいと当然考えるが、前回意見が通った参加者は、「自分が正しかった」と考えているので、今回も自分の意見を採用すべきだと主張する。論点のずれた意見にふり回され、議論が収束しなかったり、いったん結論が出ても、納得しない参加者の発言で振り出しに戻ってしまうこともある。これでは、「仲良くなる以上に、決定的な人間関係の溝をつくりかねない」という。
コミュニティ形成に「直接的討議」が必ずしも有効に働くわけではない。そのことを踏まえたうえで有効な手段も検討する必要がある。