86条2戸1団地に区分所有法を融合 「京町家」自治スタイル再現
長期優良「100年住宅」ブランドで京都住宅最大手のゼロコーポレーション(金城一守社長)と、神戸市の都市コーディネーター、キューブ(天宅毅社長)は、京都・嵯峨嵐山で、@建築基準法86条の「一団地」認定A建物区分所有法の管理規約−を活用し、町としての形が半永久的に持続できる仕組みを持った戸建て風2戸1低層集合住宅団地づくりの新スキームを構築した。景観配慮とその維持のため区分所有法上の管理規約を町の運営ルールに導入。外観は邸宅風だが実質はマンションとして供給する。応用範囲の広い普遍性のある町づくりシステムになる。
低層住棟運営に管理規約
マンション建て替え円滑化法成案に携わるなど区分所有法とマンション問題に詳しい弁護士の戎正晴明治学院大学院教授が助言した。
京都市右京区嵯峨門前二尊院門前の約3500u(約1060坪)が事業対象地。歴史景勝地、高級ブランド住宅地の嵐山・嵯峨野にあるため幾層もの規制があり、景観配慮が最も求められる。
戎教授によると、「この場合、景観形成を維持するうえで重要な町としての統制、つまり団地のルールをどう作りあげるかがポイント」。「一団地」で全体の町並みは創造できるが、その後の景観や環境の保全、そのために不可欠な住民自治を統制する担保が必要で、そのために法的裏付けのある区分所有法の管理規約を持ち込んだ。これによって町の形態をルール内で半永久的に持続させる。
この土地の規制をクリアしながら同法活用に必要な区分建物として最小単位である2戸1連棟を用いる。構造的にも柔軟な路面接地型低層木造建てにすることで、建設・維持管理コストを大きく圧縮。建て替え決議などマンションの抱える合意形成問題も大幅に緩和できる。
建物は、ゼロが同社ブランド「100年住宅」を1つの敷地に「2戸1」6棟が点在する戸建て型集合住宅つまり現代版京町家にアレンジ、京都市の「平成の京町家事業」モデルとする。
戸境を2重壁にするなど各戸(=専有部分)の居住自由度をアップ、限りなく戸建てに近い形態にする。技術的にもインフラ・給排水管を立体方向ではなく水平方向で設置でき維持管理の費用・手間も大幅に簡略化できる。
さらに、土壁風の塀とかつて町単位に存在した「木戸番小屋」を模した歩行者用入口が付帯するオートロック格子戸門扉で周囲を固めた「ゲーテッド団地」とすることで、外見は邸宅、内実はタワーマンション並みのセキュリティを備えた”2戸1マンション団地”になり、京都・嵯峨野というブランド地区内で高い競争力を持った集合住宅を登場させることができる。
管理規約の改正も通常マンション同様4分の3決議要件を適用するため規約改正のハードルは高く町のルールとしてそのまま存続させやすい。逆に4分の3の合意を得れば変更もできるわけで、変化に併せた運用ルールの変更もやろうと思えば住民の自主判断で可能など、硬軟併せ持った持続性のある仕組みになる。ほぼ戸建て形態だけに住民もより柔軟に判断しやすい。規約が住民自治を後押しすることにもなり、独自ルールで町を運営・維持してきたかつての町家群のように、新たな独自ルールを伴った「新・町家」として甦る。
天宅氏は、町としての存在を半永久的に存続させるためのスキームになり得ることから「1000年集合住宅」の実践だとし、戎教授も、「京町家が内包する自治システムの復元あるいは現代版の提示。町々は独自ルール『町式目』に則って自治運営をし町を作ってきた。ここでは団地管理組合が『町』で管理規約が『町式目』となる」と話す。
マンション法である区分所有法の活用を、戸建て開発の側面から検討し生まれたスキームで、戎教授は「区分所有法を町の運営ルールに活用することで同法が低層街区づくりにも十分応用が効く新たな開発手段としての側面を持つことを見出せた。ここだけでなく様々なケースに適用できる」と意義と普遍性に言及。金城氏も「スタンダードになるべきもの」としている。
今後の方向性示す
集合住宅に詳しい小林秀樹千葉大学教授の話
住環境を維持するためには「規制が強い方が望ましい」という考えが注目されよう。そのために管理規約を活用するのはよいアイディアで、今後の方向性を示すものだ。2戸1区分建物とするのは現実的でよい解決策。管理規約4分の3の合意は極めて高いハードル。長期にわたり管理規約が維持されると考えて差し支えない。