住宅新報 2017年7月25日号 3面

「定借」「コーポラ」で活性化策-鳥取市、独自のスキーム構築-"

テラスハウスを復権 1000年住宅スキーム構築
関住協大阪中央 持続可能な住宅へ

関西住宅産業協会(福井正順理事長)に、会員間の情報交換や研修などを効率的 に行うため地区別に設置している交流部会の一つである「関住協大阪中央地区」 (川野秀樹地区委員長)はこのほど、大阪市中央区の協会会議室で、都市づくりコーディネーター、キューブ(神戸市)の天宅毅社長を招き、「1000年集合住宅のスキーム」のテーマで今年度第1回目となる情報交換会を開催した。

講演に先立ち川野地区委員長は、「情報交換会で得た内容をヒントに(地区会員の)今後の事業に役立ててもらえれば」とあいさつ。同地区会員として参加した福井理事長も「50年前の空想技術が次々に実現する時代に、1000年先を見越したスキームの提示は、持続可能性を探求する上でも非常に有意義だ」と研修テーマへの期待を示した。

テラスハウスに注目

天宅社長は冒頭、「1000年集合住宅」の肝となる住宅形態は「テラスハウス」 だとまず解説。英国でなぜテラスハウスが100年以上にわたってステータスの高い住宅として使われ続けているのかの理由について触れた。1666年のロンドン大火災で市内の建物がレンガ造か石造にすることが義務付けられたこと、地震が少ないこともあってレンガ造の耐久性が生かされたことを挙げた上で、何よりも「地面接地型の低層住宅という形式がスケルトンとして、上下水道や電気・ガス、情報網といった日々技術革新するインフラの更新に容易に対応できる点」が大きいとした。

販売手法に問題

これに対して日本でテラスハウスのイメージが向上しなかった理由として、界壁1枚だけによる低い隣戸間遮音性と住戸の独立性が著しく劣っているなど構造上の問題を挙げた上で、法整備が不十分だった時期に供給事業者側が「本質的には集合住宅であるテラスハウスを戸建て住宅として誤認させる販売手法をとったこと」が最大の問題だったと糾弾。建物土地登記など実務書類上でも建て替えを含めたその後の更新を大きく阻害しているとし、「テラスハウスが持つ本来の持ち味がまったく発揮されていないし機能していない」と指摘した。

その良さを生かすため同社長らが打ち出したアイデアが、界壁を二重壁にした長期優良住宅による構造上の問題の解消と建物区分所有法の活用で、京都と神戸で手掛けたプロジェクトでスキームを構築した。

事業費も抑制

同社長によると、主に2戸1のセミデタッチド・ハウス形式のテラスハウスを、マンションと同等の区分保有建物として取り扱う一方、敷地全体を一団地認定し、 建物・団地ごとに管理規約を設けてルール化する手法を使った。 建て替えや修繕・更新などを通常のマンションと同様のルールを適用しながら、水平方向で設備更新ができる接地型の利点を顕在化。二重壁による独立タイプによる住戸単位の建て替えができるようにするなど「テラスハウスの復権」を具体化することで、垂直重層型のマンションが現実的に抱える「持続性への疑問」も一気に解消できる方途を開いた。しかも基本的に素地の特性を活用しながら、木造建物を採用するため、通常の団地開発やマンション建設に比べて事業費も抑制できるという。

管理規約の運用次第で「景観的にもルール化でき、街として継続利用ができるので、資産価値の向上にもつながる」うえ、「将来的に住宅環境が激変しても、その時代に合ったルール(管理規約)の変更で建て替えや設備変更が随時可能。これこそ、持続可能(サステナビリティ)な集合住宅の実現」だとし、「1000年集合住宅」とは建物構造ではなく「構造体を含めたまちづくりの枠組み」だと提示して締めくくった。

紹介事例では更に、街並みに併せた団地周回外壁やオートロック団地門扉の採用などによって、「見た目は瀟洒な邸宅街、中身はタワーマンション並みのセキュリティ機能を併せ持った街区」として仕上がっていることから、住宅地開発と販売差別化の好サンプル例にもなった模様だ。

情報交換会参加者からは、団地への区分所有法+テラスハウス活用は土地の有効活用や空き家対策などにも応用できるなど汎用性と可能性が高いことから、「目からうろこが落ちた」との声も上がり、交換会終了後も活発な意見交換が行われた。

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