阪神淡路大震災では、集合住宅の持続可能性の限界が顕在化した。それから四半世紀、未だこの問題を解決するには至っていない。近年急増している超高層マンションにおいては、課題は一層深刻である。本連載では、持続可能性獲得に向けた本質的な課題と、その課題の解消に向けた具体的な取り組みを紹介する。
-連載-集合住宅と持続可能性
第1回 合意形成に依存する意思決定
マンションは何か物事を決めようとするときには、必ず区分所有者の合意形成、つまり多数決で決めなければならない。建替えに関して合意形成を得る時、非常に誤解の多い意見調整のイメージがある。
大規模修繕に必要な合意形成の割合は3/4。建替えに必要な合意形成の割合は4/5。大規模修繕に必要な合意形成が得られるのであれば、もう少し頑張れば建替えに必要な合意形成が得られるように思われている。しかし、これは大きな誤解である。
実際は、大規模修繕を望む人は建替えしたくないと考えており、両者のベクトルは逆の方向を向いている。従って、大規模修繕から建替えに合意内容を転換する為には、非常に多くの区分所有者の方向転換を必要とする。そして、建替えの合意も大規模修繕の合意も取れない間は、建替えはおろか、修繕する事もできなくなる。建替えに向けた検討を始めると、このように維持管理にも更新にも手がつけられず、放置せざるを得ない状況に陥りやすいという必然が、ほとんど知られていない。この構造は、マンション建替え円滑化法が整備された現在においても、本質的には変わっていない。

建替えに向けた合意形成が非常に難しいのであれば、建替えの必要な時期を少しでも先延ばしにする為に建物の耐久性を高めることが重要である。そのような状況の中、平成21年、マンションに限らず日本の住宅の長寿命化を促すために長期優良住宅の認定制度が整備された。
しかし、マンションでは長期優良住宅の基準を満たす耐震性能確保が難しく、マンションにおける長期優良住宅の実績は新築着工戸数の1%未満と極めて限定的に留まっているのが現状である。本来、建替えに向けた合意形成が難しいマンションでこそ、長期優良住宅として建設されるべきである。
結果、長期を経ずして建替えに向けた合意形成が必要となる状況は変わっていない。合意形成への道筋が整備されていない以上、日本の集合住宅は未だに持続可能性を持つに至っていないと言える。
日本の集合住宅は、未だ持続可能性を獲得するには至っていない。一方世界には、高い持続性を持った集合住宅が存在している。それは、どのようなものなのか?それを参考に、日本で高い持続性を持った集合住宅を実現することはできないかを考える。
-連載-集合住宅と持続可能性
第2回 持続性の高いイギリスの住宅
イギリスの住宅の平均寿命は日本の約3倍。その多くが、各戸が地面に接している連続建ての集合住宅、テラスハウスである。イギリスでは200年以上前からテラスハウスは建設され、現在でも全住宅のおよそ6割(セミデタッチドハウス含む)を占めると言われている。
イギリスのテラスハウスが高い持続性を持つ理由として主に2点が考えられる。1点目はレンガ積等耐久性の高い構造であること。もう1点は、接地型という建物形状がもたらす、設備更新のしやすさである。戸建てと同様に共用配管が建物外部の地下に埋設され、設備の個別更新が可能であり、設備の近代化に容易に対応することができた。
以上の様に、構造耐久性の高さと設備更新のしやすさによって、ライフスタイルや時代の変化に対応し、高い持続性を持つ事につながったと考えられる。

日本でも、1970年頃から分譲テラスハウスは導入されたが、現在では減少している。
その理由に、日本のテラスハウスの構造耐久性や独立性の低さ、そして所有形態があげられる。最大の問題は、テラスハウスが戸建てのイメージを装って販売されたことだ。
多くのものが、土地は区画毎に分筆、建物を戸建登記して販売され、建築計画的には集合住宅であるにも関わらず、区画間の権利関係は断絶され、建物を共同で管理する法的バックボーンを持たない所有形態のまま供給されてしまった。その結果、中古融資がつきにくく、中古流動性が低く資産価値を毀損することに繋がった。
日本で長寿命なテラスハウスを実現できるか。イギリスのテラスハウスを見てわかるように、従来の日本のテラスハウスが持っていた問題は全て本質的な問題ではない。問題を解消すれば持続性の高いテラスハウスを実現する事も可能なのではないか。
構造耐久性は、耐久性の高い構造を採用すれば確保できる。低層接地型の計画は、長期優良住宅の認定を取る事も難しい事ではない。住戸ごとの独立性は建築的に対処できる。
長期利用に必要な維持・管理・運営を行う環境は、区分所有法を活用することで構築できる。マンションのように、土地を共有し、区分所有登記を行い、管理組合で管理規約を定めれば、区分所有法に基づく維持・管理・運営が可能になる。
従来の日本のテラスハウスが持っていた問題を解消すれば、持続性の高いテラスハウスを実現する事も可能なのではないか。実際の事業の中で探っていくと、当初は考えも及ばなかった様々な可能性が見えてきた。
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第3回 問題解消に向けた取り組み
従来のテラスハウスが持っていた問題を解消する枠組み構築に向けて、建築計画(ハード)面では構造耐久性を高め、住戸間の界壁を2枚壁とし、住戸単位で構造的に独立させることで高い独立性・遮音性を確保した。また、管理(ソフト)面では土地全体を共有、建物を区分所有とし、区分所有法に基づく管理組合が定めた管理規約で全体を管理。このようにする事で、維持・管理・運営を規約でコントロールすることが可能となった。その結果、新築時のみならず中古流通においても住宅ローンの利用が可能となった。
従来のテラスハウスは中古流動性が低く資産価値を毀損していたが、これらの問題をハード・ソフト両面からの対策により完全に解消することができた。
区分所有法を活用
最大の発見は、住戸単位で構造を独立させ、管理規約によって更新ルールを定めることで、将来的に住戸単位の建替更新が可能な枠組みを構築できることである。このことにより、従来のマンションが宿命的に持つ合意形成に依存した「建替えの困難さ」を克服できる可能性を発見した。これは、集合住宅の持続可能性実現に向けた発見でもある。
広がる可能性
この枠組みを活用した事業を進める中で、様々な可能性が見えてきた。一団地認定がいくつもの行政で認められ、広い敷地の中に2戸1や3戸1などの住棟が点在する計画を実現することができた。敷地内照明を演出、植栽の剪定や共用空間の清掃を実施、全体をゲイテッド化し防犯カメラによるセキュリティ性を確保するなど、様々な共用サービスを実現できることもわかった。 まだ応用の余地は残されており、テラスハウスは持続可能な集合住宅の一つの形式として、今後一般化していく可能性を持っているのではないかと感じている。
現在進捗中のプロジェクト
◆「ルーシアコート宝塚清荒神駅前」は分譲集合住宅セミデタッチドハウス4棟と、共有のパティオを囲む全8戸の分譲テラスハウスが道を挟んで向き合う配置を計画。事業主はゼロ・コーポレーション。
