がっちり「スケルトン定借」
設備、間仕切り自由に変わる
尼崎市塚口で五階建てのマンション建設が、がっちりした骨格をあらわしてきた。外観は普通のマンションだが、関西では初めての「スケルトン定借」による試み。こうした方式によるマンションは地主からは土地活用、相続税対策として期待され、購入者からはローンの返済額などの住居費が安くできるなどの魅力があり、まちの優良な住宅ストックにもなると注目を集めている。
スケルトン定借マンションというのは、定期借地権を応用してその上にしっかりした構造で建設するマンションのこと。スケ ルトンとは「骨組み、骨格」。九六年に茨城県つくば市にある建設省建築研究所が開発し、同市内に最初に建設されたことから「つくば方式」とも呼ばれてい る。
骨格は百年近く利用できる耐久性を持ち、内部の設備や間仕切りは自由に変えられて、住宅としての機能を長く保てるので、都市の優良な住宅ストックとしても注目されている。
一般のマンションは、天井は階上の居室の床と一体になっているが、スケルトンマンションは、床の下に「土台」があり、この床下空間に水道、ガス、電気や排 水のパイプを配置している。パイプが古くなれば簡単に取り替えられるし、間取りを変更してトイレや浴室を別の場所に移すこともできる。床下空間は収納庫と しても使える。
普通のマンションより床と天井の高さが二十a高いので採光も良く、将来はオフィスビルにすることもできる。ただ、丈夫な構造、広い空間の建物になるので、建設費用は一、二割高くなる。
普通の定借マンションは建物譲渡特約付き借地権に基づいている。これによって、建築後三十年間は入居者の所有で転売もできるが、三十年後には建物を地主に譲り渡す。住み続ける場合は借家人となる。手放すときは、建物の譲渡金をもらって移ることになる。
つくば方式のポイントは、三十年後に借家住まいになるとき、多額の家賃を払わなくてもいいように家賃相殺契約を結び、負担を少なくするところにある。
入居している建物を売った代金をその後の家賃の一部に組み入れて相殺する方法を取ることで、家賃は地代相当分と修繕費程度に押さえることができると見られている。
地主が買い取る建物は、土台、床、壁などの骨格、スケルトンの部分だけで、設備やふすまなどは入居者の所有物としているから、地主側の負担も少ない。
入居者 ローン返済少なく、 地主 有効に土地使える
定借マンションは、土地の購入費用の代わりに地代の支払いですむため、住居費用は安くなる。
建設省建築研究所住宅計画研究室の試算では、専有面積百平方bで、三十年ローンとして、一般の分譲マンションが月額二十六―二十八万円の支払いになるのに対して、つくば方式では十七―十九万円となっている。三十年後に賃貸マンションになっても、一般の賃貸マンションの家賃が十四―十六万円であるのに対して、つくば方式では四―六万円ですむ。
スケルトン建築であることから、間取りも自由に注文でき、設備の更新やリフォームも簡単にできることも、入居者にとっての魅力である。
土地の有効利用や相続税対策のためにマンション経営が勧められているが、つくば方式では最初の三十年間は借地経営なので、空き家の不安がない安定した収益が得られる。
一般の定期借地権付き住宅では五十年後には建物を壊してさら地にするので、入居者の管理や補修の意欲が薄れる恐れがある。つくば方式では引き続き住むことができるのでそうした恐れが少なく、良質な資産として維持できる。
スケルトン建築であることから、周辺の環境が変わっても、一階を商店にしたり、オフィスビルへ転換することも可能で、土地がより有効に使える。
100年間利用できる『骨格』、地主と居住者 協力して建設 建築家、公庫など注目
こうしたスケルトン定借マンションは、一般分譲ではなく、住宅を持ちたいと願っている人たちと有効活用を図りたい地主との協力で建設するコーポラティブ住宅の新しい方向として建築家、ディベロッパー、住宅金融公庫などから注目されている。
公庫は、コーポラティブ住宅には特別の融資メニュー「個人共同融資」の制度を作り、通常の優良分譲融資と同等の融資のほか、中間資金の交付も用意し、施工企業に配慮している。
建築家でコープ住宅推進協議会の安原秀全国幹事は「コーポラティブ住宅は、気の合った人達がそれぞれの住まいへの夢を実現することができ、建設の過程を共同で体験することで相互のコミュニケーションが深まり、入居後も楽しい人間関係で結ばれる成熟社会の住まいだ」と言う。
さらに「つくば方式は、地主と居住者の関係が密接になりコミュニティーが広がる。土地の利用の仕方を心配している近隣に対しても責任がもてる住宅ストックが提供できる」と利点を認めている。
しかし、これを広めるためには「入居者と地主が、住宅を資産として所有するのではなく、うまく利用する道具と考えるように意識を変えなければならない」と話している。
住宅金融公庫は、コーポラティブ住宅には特別の融資メニュー「個人共同融資」の制度を作り、通常の優良分譲融資と同等の融資のほか、中間資金の交付も用意し、企業が積極的に参加できるよう配慮している。
さらに、つくば方式は大震災の被災地での住宅復興や、密集住宅市街地での再開発にも役立つ方法だと、スケルトン定借コーディネーターの養成講座を応援するなど、普及に力を入れている。
建築家、都市計画家とコーディネーター、建築企業が集まって、今年五月、スケルトン定借普及センター関西支部が設立され、相談窓口を開設、支援活動を始めた。
同支部は、土地所有者向けのセミナーや、事業実施企業を選ぶための事業コンペなどを開くとともに、入居者向けのセミナーも開いて入居者募集を呼びかけるなど、事業推進を支援している。問合せ先は06-6624-2321、COM計画研究所。