毎日新聞    1997.3.12

あせらずじっくり住民合意

マンション解体ようやくスタート
震災から2年2ヶ月 渦森団地17号館<東灘>

あせらず、じっくり住民合意 来年8月までに再建予定
「借金は増えるが、新築よりは・・・」

阪神大震災で半壊した神戸市東灘区の分譲マンション「渦森団地17号館」(5階建て、50戸)が再建に向けて、今月下旬、震災2年2ヶ月にして解体工事に着手する。工期は来年度にまたがるが、公費解体制度が来年度も再延長される見通しで、同制度の利用が可能になった。住民代表は「現時点で最も遅いマンション解体になるが、時間がかかった分、むしろ円滑に住民合意ができた」と喜んでいる。

同マンションは市住宅供給公社が1972年に建設、分譲。震災で、西側20戸分の基礎杭が損傷し、最上部で約10a傾いたほか、床に亀裂が生じた。しかし、住み続けることも可能なため、@現状維持A補修B建て替え―の3選択肢をめぐり、協議。二重ローンなど新たな負担の可否をめぐり意見が分かれ、粘り強く会合やアンケート、個別ヒアリングを重ねた。
最終的に建て替え希望が大勢を占め、昨年12月に、正式に「建て替え決議」の採択にこぎつけた。賛成42人、反対8人だったが、反対者もその後、決議を尊重し、全員同意での建て替えが決まった。
再建手法は、全住民がいったん民間デベロッパーに土地・建物を売却、デベロッパーが新たに建てる建物(6階建て、71戸)を希望者が買い戻す方式で、住民側は売却だけも可能。買い戻しの実費負担額(購入と売却の価格差)は、再建前と同規模の居室を購入する場合、1千万円程度になるという。
住民の会社員、村上佳史さん(38)の場合、子供2人の成長に合わせ間取りを広くしようと、現在の60平方bから再建後は82平方bの居室を購入予定。残りのローンは1600万円から約2倍に膨れ上がるといい、「30年以上も返済し続けねばならず確かに苦しいが、新築マンションを買うと思えば、と決意した」と話す。再建組合理事長、藤田佳之さん(58)は「半壊だったため時間をかけることができ、住民も冷静に考え、感情論に走らずに済んだ。会合に参加できなかった人にも会報で情報公開し、マラソンでいえば最後方を走る人のペースに合わせたことが良かった」と2年余りの苦労を振り返る。
新マンションは来年8月完成予定。住民たちは再会を期して、工事期間中のそれぞれの仮住まい先へ引っ越しを始めている。
被災マンションは、再建費の新たな負担などをめぐり区分所有者の間で解体合意が図れず、再建を断念して補修にとどめるケースも多い。神戸市によると、解体を申請しながら工事に着手できないマンションがなお6棟あり、関連予算の新年度への繰り越しを前に、各マンションは最終判断を迫られている。

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