活気よみがえる震災の街 - 行政とスラム 住まいと都市づくり -
復興住宅メッセ 着々と成果 <座談会>
座談会出席者(敬称略)
太田尊靖 神戸復興住宅メッセ 土地活用事業部門監修 (株)都市・計画・設計研究所代表
庄 幸雄 神戸・復興住宅メッセ土地活用部門
コーディネーター
天宅玲子 神戸・復興住宅メッセ 街区コーディネート部門 コーディネーター
近藤光司 西宮・復興住宅メッセ 副所長
土地活用の相談増えた 太田氏
利用したい「等価交換」 庄氏
共同住宅などPR必要 天宅氏
景観復興にも力入れる 近藤氏
阪神・淡路大震災後の住宅の早期復興をめざして、神戸市と西宮市に設立された復興住宅メッセ(以下メッセ)は、 行政と一体となり協調・共同建て替えによる被災地の住宅復興を提案するなど着実な成果をあげつつある。 震災復旧が急ピッチで進む中、今後のメッセの果たす役割はなにか、 街の復興のあるべき姿とは。これまでメッセの活動に取り組んできた方々に、話し合ってもらった。
――発足から二年。メッセの土地活用事業の歩みと課題は。
太田
メッセの誕生から関わってきた。立ち上がりから三か月間は身の上相談や隣近所とのトラブルなど様々な相談が舞い込み、 さながら”駆け込み寺”のようだった。神戸の復旧が進むに連れ、自宅・店舗併用の住宅を建てたい、複数の土地をまとめて集合住宅にしたいなど、 本来の土地活用に関する相談が増えた。応急的な復旧は予想以上に早く、昨年中で第一段階は終わったと言える。ただ、震災前百五十万だった神戸市の人口が十万人減ったまま。 とくに長田区ではかつて十五万人いたのに、いまでは七万人と半減している。震災だけの影響ではないにしても、復興という意味では遅れていると思う。 外に出た人々を呼び戻すことのできる、魅力ある街を再建するための別の視点が必要だ。
天宅
市内各地域で開かれる住宅再建相談会で協調化、共同化の提案をしてきたが、抵当権のある土地や私道をどうするかなど、 権利関係を整理する段階で挫折することが多かった。神戸市内には三十平方b以下の狭小地や路地を挟み数十軒がひしめき合う密集地が多い。 土地区画事業や再開発事業などの網にかからないいわゆる白地地域も多い。各々、資金力の差もある。 補助金制度の活用など共同建て替えがもっとも有効とは頭で分かっていても、いざ合意を取りつけるとなると本当に難しい。
ただ、大手ゼネコンやデベロッパーが共同化の成果をあげつつあるように、少しずつ前進してきた。
庄
マンション事業に関する具体的なやりとりが増えている。何度も相談に来られる人も多い。これまで提案した再建プランは百五件。 これから実を結ぶものが急増すると期待している。様々な制約で事業化できなくても、自宅だけでも再建する方法など、相談者に幅広い選択肢を提供するよう心がけている。 土地の等価交換方式など既存の制度もこの際大いに活用してもらいたい。
近藤
西宮メッセは一昨年十二月発足。宅地を賃貸マンション等に再建するケースが多く、八物件の再建を提案し、うち三件を着工にこぎつけた。 戸建て住宅に関しては、西宮市では接道などの条件が整っていなくても防災機能を強化する等により再建が可能となるケースがあり、復興はかなり進んでいる。 ただ、依然として更地は多い。市政ニュースや新聞広告で共同再建手法に関する様々な情報を流したが、まだ不足していると思う。
――今後、望ましい共同再建手法の考え方は。
天宅
まず、建物の区分所有法など先送りになっている問題をクリアすべきだ。また、共同建て替え――「ビルに住む」と思っている人が多いので、 共同住宅に住むとはどういうことかを正しく認識してもらうためのPR活動が必要だ。再建された戸建て住宅がどれも画一的なところも残念だ。震災前に比べ、街の表情も寂しくなった。 今後、復興事業を進めていく上で、景観という視点も大切なポイントになるだろう。
近藤
西宮市には、生け垣の助成制度があり、景観の復興にも力を入れている。また安井地区では住民が主体となって街づくりの提案を行うなど、
震災前の人間味ある住環境再生が進められている。同地区をモデルケースとして、市域全般にこうした働きかけを行い、景観復興という視点も積極的に訴えたい。
庄
これまでに受けた六百件余りの相談を追跡調査し、共同再建や街区の再生について提案をするなど、街づくりに貢献していくつもりだ。
先日、地方に移ったある母子から、復興の灯「ルミナリエ」に感動し神戸に帰りたくなったという話を聞いた。あの母子の願いをかなえてあげたい。
太田
災害公的住宅の建設が本格化すると、住宅の絶対数は充足される。今後は質の向上が求められるだろう。とくに、分譲マンションなど持ち家の建設が不可欠。 神戸は豊かな緑と海に面した素晴らしい住宅都市だ。他府県から人々が集う活気あふれる街によみがえるための機会ととらえ、行政と住民が一体となって取り組むことが一層重要だ。 三年目にはいるメッセの役割は大きい。
「復興住宅メッセ」事業は95年6月に神戸・三宮でスタートし、西宮、長田と広がった。住まいと街づくりを支援するメッセの主な内容は――。
1戸建住宅の建設/高齢者対応、3階建て、地震・災害に強い住宅など、敷地を有効に生かしたプランの作成から設計、施工までサポート。住宅メーカーや地元工務店の紹介も行う。
土地の有効活用/手持ちの土地をいかしたい、分譲マンションや賃貸アパートを建築したいという人を事業計画、資金計画の立案から設計、施工まで総合的にサポートする。
自治体の民間賃貸住宅資金融資あっせん制度、被災者向け特定優良賃貸住宅制度を活用した再建相談も。
街区のコーディネート/魅力ある街並みの形成、隣近所との連帯などを考慮に入れ住宅の共同化や街単位の建て替えが円滑に進むよう、調整やルールづくりを行う。
敷地を有効に活用するための隣近所との協調、共同建て替えについても相談に応じる。昨年11月にも、神戸市東灘区住吉宮町で3軒の共同建て替え住宅が完成した。
(コーディネーターの天宅玲子さんも、「施主の3軒が非常に仲良く、厚い信頼関係があった。共同再建のモデルケースになる」と評価)
不動産処分型融資制度も
神戸市住宅局住環境整備部住環境整備課長 橋本 彰氏
震災から二年、神戸市は二万六百戸を目標に低家賃公的住宅の供給を進めています。しかし、市街地西部、特に長田区での民間自力再建はまだまだ。 土地はあるが再建資金のないお年寄りに、不動産処分型の特別融資制度を創設することも検討中。今後も、復興メッセの新長田会場から、きめ細やかな提案を続けます。
土地区画整理 大きな役割
神戸・復興住宅メッセ所長 城 清明氏
神戸の復興には、土地区画整理事業が大きな役割を果たしていくものと考えます。地域の方々には、換地の位置や権利の種類を変えることなどで積極的に参加してほしい。 法律や制度に多くの課題があるけれど、事業のスピードアップのためには換地上に事前に建物を建てておき、買ったり借りたりできるシステムが必要だと思います。
住環境や文化 継承したい
西宮市建設局住宅部長 細谷 三男氏
西宮市域の復興に向けた計画的なまちづくり、耐震・耐火性に優れた住まいづくりの推進を図りつつ、西宮市が生みはぐくんできた住環境・文化を継承していくことが求められています。 また一方で、市民の住宅再建支援策として開設した「西宮・復興住宅メッセ」を通じて、住宅再生に関わる諸問題にこたえていきたいと思います。
生活と共存の地域産業を
神戸・西宮地区復興住宅メッセ事業プロデュース (株)オーセンティック 平田 滋氏
まちづくりという視点の強まりとともに市民の組織化も進んでいます。しかし地域の真の復興は、生活と共存する地域産業のすう勢に大きく左右されます。
「食えてこそのまちづくり」なのです。今後は、地域産業も加えた四者連携によるまちづくり活動に、メッセ事業も協力していきたいと思っています。