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イメージなし 日経アーキテクチュア
2000年 8- 7 No.-
コープ住宅ブームのチャンスとリスク
 

企画者主導、つくば方式、竣工まで2年弱
塚口コーポラティブハウス
コーディネーター・設計:キューブ
組合総会わずか6回
地主唸らせた用途複合提案

スケルトン定借『塚口コーポラティブハウス』が、兵庫県尼崎市に完成した。鉄筋コンクリート・純ラーメン構造の6階建てで、1階は地主の息子が開業する診療所、2階から上が11世帯分の住居になる。
事業コーディネートから設計までの一切の業務に当たったキューブは、1996年 に開設した設計コンサルタント事務所だ。代表の天宅毅氏はリクルートコスモスに務めていたが、阪神大震災の被災で多くの難題に直面した分譲マンションを相 変わらずつくり続けることに疑問を感じて独立した。同じリクルートコスモス出身の梶原文生・都市デザインシステム代表とは協力関係を結び、情報交換をして いる仲だ。
今回、塚口コーポラティブハウスに取り組んだのは、関西でつくば方式の普及にあたっていた「大阪まちづくり研究会」の開催する事業コンペに勝って、定借用地を手に入れたため。一般公募によるコープ住宅を手掛けるのは2度目の経験だったが、当初の日程通りに事業を終えた。その成果を携えて、現在独自に所有権型のコープ住宅を3ヵ所で仕掛けている。

地主の収益高め、コンペで勝利
塚口コーポラティブハウスの特徴は、1階 に地主の息子が開業する診療所を併設したところにある。コンペに出されたキューブ以外の案は、通常の定借マンションと同じ保証金方式だったが、預かり金で ある保証金は地主の金ではないので、地主は診療所のための費用を別に用意しなければならない。これに対してキューブが提案したのは、権利金方式を利用し て、地主の負担ゼロで診療所が手に入る方法だった。ただし、それを実現するには権利金を地価の2分の1以上にすることが条件となる。2分の1以上であれば譲渡所得とみなされるが、これを建物の取得に充てれば課税しないという立体買い替えの特例があるのだ。キューブはここに目を付けた。「一般的な定借では収益性が低いので、地主は興味をも たないと思い、定借に詳しい顧問会計士や不動産鑑定士、税務署と相談して練りに練った」と天宅氏。
2分の1以上の権利金にした場合に懸念されるのは、事業費が高くなることだ。だが立地条件は良いし、コープ方式にすれば多少とも経費が節約でき、自由設計も売りにできる。その狙いは当たり、募集から約3ヵ月で11世帯の参加者が集まった。
コンペでは建物のメンテナンスを管理会社に委託することも提案した。最初のうちは専門家に任せた方が上手くいくと判断したからだ。管理会社をどこにするかは、建設組合でプロポーザルを行って決めることにした。
4ヵ月半の間に仕様まで確定

建物については募集段階で一通りの内容を固め、外壁の色と住戸内についてだけ組員の意見を反映させている。設備建材は好きな製品が選べるが、開口部についてはメンテナンスのためにメーカーを指定した。水まわりの位置もほぼ固定している。

水まわりを動かさないのは、配水管を長く横引きすることで、将来予期せぬ欠陥を招くのを避けるためである。共用縦配管も 専有部分内に設け、逆スラブも採用していない。「スケルトン・インフィル分離のために開発された新技術が、本当に将来的にも問題がないのか確信できない。 デベロッパーを介さないコープ住宅では、事業者である組合は他社に責任を問いにくいので、現時点で評価が確立している技術に絞り、トラブルの種を残さない ようにした」。設計担当の天宅玲子さんは説明する。
盟友の都市デザインシステムと比べると、設計の自由度は低い。ただし、事業のスピードはこちらが勝る。住戸内の変更作業は組合設立後にすぐ着手し、約4ヵ月半後には組合員と「実施設計確認書」を交わして変更内容を確定させている。この4ヶ月半の間に、キューブの設計者3人が11戸と診療所について個々に打ち合わせを行い、確認申請から実施設計、見積もり調整までこなした。しかも、実施設計段階でほとんどの仕様について品番まで決定して、着工後に大きな変更が生じないようにしている。確認申請の変更届けも、一部を除いて行っていない。
キューブがここまで設計を急ぎ、設計変更を減らしているのは、ただでさえ重い施工者の負担を少しでも軽くして、ミスのないきちんとした工事をしてもらうためである。施工にあたった不動建設の高石裕之氏は、「間接経費ではかなり泣いたが、工期的には9ヵ月で延びることもなく適正だった。早めに対応してくれたので、大きな手戻りはなかった」と評価している。
一方、組合員からは、「忙しい設計者とは別に、もう1人設計者を頼んで手間をかければ満足度がもっと高まったかも」との声も聞かれた。
組合集会についても、数を6回に限定し、1階当たり2時 間程度で終わらせた。「ユーザーにとっては面倒なだけだし、当事者同士が話し合うと、声が大きい人の意見が通るなど、物事がうまくまとまらなくなる」。天 宅氏は共同建て替え事業などの経験から、こう考えるようになったという。その代わり、集会を開く前に資料を配布して、質問があれば集会の前にやり取りした り、意見を集約する場合はまず個別に聞いて、相違がなくなるまで調整したうえで集会を開いている。受けた質問については全員に返答して、情報の共有を図っ た。
集会数は少なくても、工事費の上限を定めてVE提案を募り、その内容で施工者を選ぶなど、中身には工夫を凝らしている。「キューブに安心して任せていた」と組合員が答えているのも、こうした努力の積み重ねによるものだろう。
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