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JIA NEWS 近畿 日本建築家協会近畿支部 |
集合住宅においてスケルトン定借が提起する可能性について | |
株式会社キューブ 代表取締役 天宅 毅 |
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阪神・淡路大震災は、私達が常識と考えていたものがいかに曖昧な根拠の上に成立しているかということを顕在化させました。しかし、震災から6年以上経ち、
阪神間の町並みに平静時の装いが戻るに従い様々な記憶も薄れつつあります。実際のところ復興の中で私達が得た様々な教訓もあまり具体的な形で生かされてい
ないというのが実感です。 今回、私達は関西初のスケルトン定借事業となる「塚口コーポラティブハウス」の事業に関る中で、スケルトン定借のスキムの中に集合化住宅がかかえる様々な 本質的な問題点を解決する可能性を見出す事が出来ました。スケルトン定借の概要は様々な形で紹介されておりますので、ここではあまり紹介されていない、ス ケルトン定借の持つ本質的な可能性と私が感じた事を中心にご紹介したいと思います。 私も当初はスケルトン定借は一般的に説明されるように安さと自由設計が魅力であると考えていました。ところが、借地期間途中におけるスケルトン買取りの 意味をきっちりと理解しなかった為、スケルトン定借は単に30年間の定期借地権に過ぎず、一般定期借地権に比較してもより限定された権利であるという誤解 をしていました。おそらく、専門家の中にもこの様に理解されている方も少なくないのではないかと思います。しかしそのスキムの本質は、区分所有という我が 国の分譲集合化住宅で最も一般的に採用されているシステムが持つ限界を乗り越える可能性を持つものでした。 スケルトン定借は永住型のマンションを実現するために、建築的な側面のみならず権利的な側面まで統括してシステム化した画期的な住宅供給手法だと思います。これを理解する為には、将来において一般の分譲マンションが直面する避けられない問題を踏まえておく必要があります。 一般に供給されている分譲マンションの購入者は建物は永続的な物と当然の事としてイメージしていると思います。しかし、当初にいかにメンテナンスに考慮し た設計を行なおうと、また住民が十分なメンテナンスを行なっていようと、約30年以上経てばエレベーターや機械式駐車場等機械設備類の更新や配管等の更新 といった大規模修繕は必ず必要となります。この大規模修繕を実施する為には戸当たり数百万円の費用と、これに対する区分所有者の合意形成が必要となりま す。ところが阪神・淡路大震災で被災したマンションの再建でも明らかになったように、共同住宅に生活する入居者の状況は様々で、同一の方向に入居者の合意 を得る事は現実的には非常に困難です。また、築20年を超えると(住宅金融公庫等金融機関の融資基準から)中古マンションとしての流通性が低くなる為賃貸 比率が高くなり、この事がさらに合意形成を困難にしています。 また、現在供給されているマンションでは、将来必要な排水管等設備配管の更新等について充分に考慮していないものもあるようです。そのような場合は、大規 模修繕が技術的に困難となり、建替えの検討もせざるを得ません。建替えは全員合意が前提となりますので、合意形成はさらに極めて困難です。今でも多くの老 朽化集合住宅で建替え・補修をめぐる紛争が起こっている状況です。結局、大規模修繕をする事も建替えをする事も非常に困難となり、この場合そのまま放置さ れスラム化が進むような状況に陥ります。入居者はまさかローンも払い終わるか終わらない内にそのような状況になるとは夢にも考えていないと思いますが、こ れが実際に起こりつつある現実です。このように、将来において必ず迎える状況に対して、現実的に得る事が困難な合意形成を前提とした建替えや大規模修繕し か対処方法を持たないのがマンションの現実であると言えます。 また、一般定期借地権マンションでは最終的には解体し更地にして返還するため、借地期間満了時までの継続した十分な修繕維持を望むことはさらに困難で、将来的なスラム化が危惧されています。 スケルトン定借はこれらの問題を解決するために現在考えられる中で有効な一つの方法論だと思います。スケルトン定借では約30年後(塚口コーポラティブハ ウスでは35年後)の建物買取り価格に修繕状況を反映させる契約を地主と入居者が個別に締結します。その結果、もし修繕状況が十分でなかった場合には買取 り価格が安くなりますから、買い取った後不足費用を補填して地主が修繕を行なえばよい事になります。また十分な修繕状況であれば地主の買取り価格は高くな りますが、地主は当面は修繕をする必要が無い事になります。買取り価格は買取り後の入居者の家賃と相殺されるので、買取価格の高い人(すなわち修繕費用を きっちりと支払っていた人)は買取り後の家賃が安くなる(家賃=地代相当額+管理費相当額+修繕維持積立金相当額+税金相当額)し、買取価格の安い人(す なわち修繕維持費用をきっちりと支払ってこなかった人)は買取り後の家賃がその分高くなるようにシステム化されています。この様に入居者が十分に修繕を行 なう事がインセンティブとして、修繕を怠る事がペナルティーとして機能する事で、合意形成を必要とせずに建物の修繕維持が確実に為され、60年間良好な状 態のマンションに地代並みの低いコストで住みつづける事が可能となるわけです。 また、たとえ良好な管理水準を維持しつづけたとしてもいつかは建物の耐用年数が訪れます。スケルトン定借ではそれまでに建物の権利が土地所有者に一本化さ れるので最終段階での意思決定も確実に行う事ができます。このようにスケルトン定借は、区分所有権の限界を乗り越えるために非常に有効なシステムだと思い ます。 一方、土地所有者側から見てもスケルトン定借は一般定期借地権で危惧されている土地の返還を確実にするというメリットがあります。一般定期借地権では借地 期間終了時における更地返還が基本とされていますが、その前提として退出、解体がなされなければなりません。これが確実になされなければ土地の返還は困難 になります。スケルトン定借では途中で借地権から借家権への返還を行ないますので入居者の権利を段階的に低減しています。その上、60年後以後も賃貸マン ションになるため継続して居住を希望する入居者を退出させる事が不要です。このようにスケルトン定借は土地所有者にとって、より確実に土地を戻す方法でも あると思います。そして、このことが結果として良好なストックの集積、そして良好な都市環境形成に繋がっていくと思います。 以上の様に、スケルトン定借は長期にわたり安定して高水準の管理状況の建物で住み続けたい入居者、安心して安定した土地活用を行いたい土地所有者双方に とって非常にメリットの大きい事業手法であると思います。ところが今までのスケルトン定借事業がすべてコーポラティブ方式で事業化されたため、その本質が 見えにくくなっています。このような観点から見れば、スケルトン定借は必ずしもコーポラティブ方式である必要はなく(供給時点で設計に自由度がある事すら 必要条件ではない)、むしろディベロッパーによる一般定借分譲で採用される事でその本質が認知されるのではないかと思います。スケルトン定借は、合意形成 に対する徹底した諦念と絶望の上に構築された、区分所有権の限界を乗り越える可能性と方法を提示する、非常にクールなシステムであるのにもかかわらず、事 業運営を建設組合員の合意形成に依存するコーポラティブ方式と一体で語られてきた事でその可能性が見えにくくなり、この事が本格的な普及を妨げているよう な気がします。きっちりと分けてスケルトン定借の持つ本質的な可能性とその意味を整理する必要があるように思います。 21世紀に入り、ストック型の社会に移行していく事が予想される中、いかにストックが健全に管理運営されるかが、都市環境を良好に保つ為の鍵になると考え られます。既に明らかとなった本質的問題を解決する事無く、刹那的な資本の論理により現在も分譲集合化住宅は供給されつづけ、私達建築家もそれに荷担して います。このような状況の中で、スケルトン定借は私達建築家に強烈な問題提起をするとともに、一つの光明を見せてくれていると感じるのは私だけでしょう か? |
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