1.スケルトン定借とは
私どもが手がけました関西におけるスケルトン定借の第1号、「塚口コーポラティブハウス」が昨年の5月末に完成し、それから約1年が経ち、実際にお住ま い頂いている方々のお話もお聞きできるようになりましたので、この事業はいい事業だったのか、そうでもなかったのかというようなことも含めまして、今日皆 様にご説明をさせていただきたいと思います。今日の私の話が皆様方の今後の土地活用のご参考になれば幸いです。
まず総論として事業をおこないました私の率直な感想を申し上げれば、非常に良い事業が出来たと感じています。そして、一昨年建設省の小林さんがスケルト ン定借の骨組みをご説明された際にあまり触れられていない部分に、むしろ「よかった」と感じたポイントがありますので、そのあたりを中心に今日はご説明を させていただこうかと思っています。
では、まずスケルトン定借とは何かということですが、簡単に申し上げると、定期借地権の一種である建物譲渡特約付定期借地権を応用して100年以上の耐 久性を持つスケルトン住宅を建てる仕組みです。茨城県筑波市の旧建設省建築研究所で開発されたため「つくば方式」とも呼ばれています。定期借地権にはご存 じのように3種類あります。一般定期借地権、建物譲渡特約付借地権、事業用定期借地権の3つです。その中には今お話した「建物譲渡特約付定期借地権」とい う借地権はありません。これは造語で、一般定期借地権に建物の譲渡特約付借地権を組合わせた借地権の事を指します。
(集合住宅の問題点をスケルトン定借が解決)
ではなぜ建設省が、こういう仕組みを10年もの歳月をかけて開発したのでしょう。それは日本の住宅寿命が非常に短いからです。これを何とかしたい、それ がそもそもの発端だと伺っています。アメリカは100年以上、イギリスでは140年以上、日本と同じく大いに戦争被害を受けたドイツでも80年以上の住宅 寿命があります。それに比べて、日本では平均して大体30年くらいしか建物がもたない。もちろん木造住宅でスクラップアンドビルドが繰り返されてきたとい う日本固有の風土に基く長い歴史がありますから、ある程度はいたしかたないのですが、問題は戦後になってRC建築という非常に堅牢な建物が建ち続けている にも拘わらず、これくらいしか建物寿命がないということです。特に問題なのが、区分所有という細分化した所有形態をとる分譲マンションです。
マンションの寿命の短さの一番の理由は一体何にあるのでしょうか。マンションを良好な状態で維持していくには、多額の修繕費用を要します。どれだけ最初 にきっちり設計したとしても、例えばエレベーターなどの機械物あるいは各種配管排水設備等は年月と共に老朽化します。いつかは更新しなくてはいけなくな る。だいたい30年目くらいでその時期がやってきます。しかしながら、その時点での修繕費用が非常にかさむことから、実態として補修がなかなか進まないの が現実です。そこに建物寿命の短さの大きな理由があると考えられます。
その費用が必要となる30年くらい経った日本のマンションは一体どういう状況になっているのかと言いますと、住宅金融公庫等金融機関が一般的に築後20 年までの建物しか中古マンションの融資をしないということもあって、築20年を過ぎた建物では中古マンションとしての流通性が低くなり、賃貸比率がどうし ても上がってきます。部屋を貸している元の居住者は、貸していくらの世界ですから、修繕維持費をたくさん掛けて建物を良好に保とうという意識はどんどんと 落ちていく、というよりそのような意識はほとんどありません。そうしますと30年目頃に非常に重要な大規模修繕を行わなければならないとなった時でも、必 要なお金が集まらない。これは仕方がないことですが、結局、大規模修繕が行えず、水漏れ雨漏りが起こっても、ごまかしながら対処するしか方法がないわけで す。
ですから、普段から補修なり維持管理をちゃんとしていれば十分長持ちする建物であっても、それよりもかなり早い段階でスラム化が進んでいく。そういう事情が今の日本の集合住宅の短命化を促進していると言われています。
日本の集合住宅の歴史はまだ浅くて、一般的な普及は昭和30年代に住宅公団の供給が本格化してからです。昭和40年代に入ってからは長谷工さんなどの民 間会社が大量供給されましたが、技術的に未熟だった時代のものが今、丁度築30年を迎えつつあります。ということで、修繕しても使い続けるだけのものに元 々なっていなかったという状況もあったと言えます。
そういう反省から、建物自体が長く使えるものでなければならないという社会的要請が起こり、そしてまた修繕も円滑に行えるようなスキムが出来ないかということから、このスケルトン定借という事業形態が開発されました。
(スケルトン定借とは)
ではスケルトン定借のベースになっているスケルトン住宅とはどういうものか。従来の集合住宅は居住部分であるインフィル部分が老朽化すると、それに合わ せて何ら問題ないスケルトン部分も壊され、建物自体も長持ちしませんでした。そこで、その問題をクリアするために、まず共用部分と専用部分とを空間的に完 全に分離させると同時にその区分をルール化させました。そうすることによって、共用部分であるスケルトン部分を残したままインフィル部分だけを完全にリ フォームできるようにしたのです。このような住宅をスケルトン住宅といいます。
ただ、建物がそういうように分離して造られたとしても、先ほど申し上げた修繕維持が円滑になされるスキムがなければ、実際には建物を長持ちさせることは できません。スケルトン定借は、建物を長持ちさせる仕組みをハード面だけではなく、修繕維持といったソフト面までも包括したシステムです。
簡単にスケルトン定借の仕組みをご紹介しますと、まず最初に地主さんに土地を提供していただいて、その土地の上にマンションを建てますが、そのマンショ ンに住みたい方を建物を建てる前に集めます。そして、その方々の資金でスケルトン住宅のマンションを建てます。その時に60年の一般定期借地権を設定しま すが、同時に30年後に建物を地主に譲渡するという建物譲渡特約も合わせて締結します。
従って、マンション入居者は当初30年間は借地権上の建物の区分所有者となります。30年後に建物を譲渡した後は借家人になります。ただし、建物を地主 に譲渡する金額と30年後から60年目までの賃料(家賃)を相殺しますので、60年目までは地代相当の負担だけで住み続けることができます。
このことを地主サイドから見れば、建物を買い取る資金を必要とせずに30年後に自分のものになる建物が建ちます。しかも60年目以降も賃貸マンションと して貸せる建物を出資ゼロで取得できるわけです。しかしその一方で、30年後世の中がどうなっているかわからないという心配もありますので、地主にリスク がかからないよう、30年目時点で建物の譲渡を受けるか受けないかの選択権を地主に与えています。
もしその時、建物を買い受けないとすれば、単純に60年の定期借地権だけです。建物を買い受ければ30年目以降は地主の賃貸マンションになりますが、 60年目までの賃料と相殺されますので、地主が得る収益は従前の地代相当額と同額です。しかしながら、建物本体は100年以上もつスペックで造りますの で、60年後以降も一般の借家と同様、市場家賃で賃貸マンションとして利用していただける事になっています。
(大規模修繕を乗り切る仕組み)
なぜ30年後にスケルトン部分をわざわざ買い戻すようなややこしいスキムが必要なのか。それは30年後に必要とされる大規模修繕を強制的に乗り越える仕 組みを、そこに組み込みたいからです。その為の方法として30年目に地主が建物のスケルトン部分を買取ります。そこにこのスケルトン定借の最大の意味があ ると思います。
どういうシステムを組み入れたかというと、30年後のスケルトン部分の買取価格に修繕状況が反映されるような契約を、当初の「譲渡特約付定期借地権契 約」の中に入れて締結します。具体的には、買取り価格は修繕維持積立金の積立て状況にあわせて個別に精算されるようになっています。即ち入居者が修繕維持 積立金をキチンと納めなければ、その分買取り価格が安くなります。買取り価格が安くなるということは、30年目から60年目までの賃料が高くなるというよ うに反映されます。つまり、修繕維持積立金をキチンと払わなかった人はその分家賃が高くなるのです。
そのため、30年目までは30年以後の賃料に対するインセンティブ、すなわちちゃんとお金を納めた人はその分賃料が安くなるというインセンティブが働きますので、入居者の修繕維持積立てが積極的に行われると考えられます。
30年目から60年目までは地主側に修繕維持を行う責任が移りますが、建物は性能的には100年以上もつように作られていますので、修繕維持さえ行って いれば60年目以降も賃貸マンションとして利用することができます。このことが、建物を良好に保とうとする地主の意識を修繕維持に積極的に向かわせるので はないかと考えられます。
日本の感覚からすれば、建物が本当に100年もつのかという不安がありますが、ヨーロッパでは100年以上建っている集合住宅は一杯あります。日本で は、集合住宅に住むという居住形態がたかだか30年40年の歴史しかありませんので、そういうイメージが湧きにくいだけだと思います。
実際にはこれだけの集合住宅が都心部に蓄積され、今では技術的にも西洋のものと遜色がないものになってきています。ただ、大規模修繕を乗り越えるスキム が分譲時点でなされていない為に、30年40年経ったときに必要なお金が集まらなくて、建物本来の性能があるにもかかわらずスラム化していく心配が出てく るのです。そのような事を起こさせない一つの方法が、このスケルトン定借だと思っています。
こういう話をしますと、西洋ではなぜそういう問題が起こらないのかという疑問が出てきますが、日本のように普通の人々が建物を平等に分かち合って持つ区 分所有という所有形態は、西洋では非常に希有なのです。実質的に階級性がある中で、旧貴族的な方々が都心部に作られたストックを、みんなが利用権みたいな 形で利用している。ですから、建物のスケルトン部分の修繕義務は建物所有者に一本化されているようです。日本で言うところのスケルトン賃貸という形態に近 い所有形態がヨーロッパでは一般的です。
本当は、日本でもそういう事が可能であればいいのですが、インフィル部分の利用権を取得するだけでは担保価値がないということで融資が付かないという問 題があり、買うことができません。そこで、今の日本の融資制度のままで西洋のスケルトン賃貸に近い所有形態を作り出そうとして開発されたのが、このスケル トン定借だと思います。
地主にとって、このスケルトン定借の一番重要なポイントは、権利返還が段階的で確実であるという部分にあると思っています。更地返還を前提とする一般定 期借地権では、権利返還前のスラム化により不法占拠などが発生した場合、本当に解体出来るかどうかが危惧されます。それに対して、このスケルトン定借は解 体を前提としないので60年目以降も市場家賃で住み続けることが出来る為、権利返還が確実に遂行されると考えられます。要は不法占拠したところで、出てい くことによる退出金などのお金に結び付かないので、そういうことをしても意味がないのです。単に築60年の賃貸マンションに住んでいるだけです。さらに定 期借家権を利用すれば、地主サイドとしてはより安全な条件での事業化が可能だと思います。
また、30年後の社会状況にあわせて、地主が建物を買取るか買取らないかの判断を下せるようになっていますし、さらに60年以後は地主単有の建物となるため、遠い将来において建物の解体、補修を決定しなければばらない時も地主単独の判断で行えます。
それに対して、区分所有建物である分譲マンションはどこまでいっても何をするにも入居者全員の合意を必要としているため、何事も進みにくいのです。「建 物が老朽化してきたので建替えたい」と多くの人が思っても、全員合意でないと基本的にはできません。それではと、「補修だけでも」とみんなで話し合って も、必ず建替えの話が出てきますから、「一円のお金も建物にかけるのはもったいない」という事になって、結局、補修さえもできない。そのまま何も出来ない まま放置されて、建物が本来持っている寿命以上の早い段階で老朽化が進んでいっているのが、現状ではないかと考えられます。
それを、このスケルトン定借は60年という限られた期間ですが、誰が、どういう責任を持って、どう維持していくかということを最初に決めますので、そういう一切合切の問題を解消した事業手法だと思います。
この辺の話は小林さんはあまりされなかったと思います。それは、建設省がそういうようなことを言うと、一般の分譲マンションをある意味で否定することに なるからです。しかしながら、こういう方式を考え出したというのは、本音ではこういうことが大事であるという意識があったからではないかと、私は思ってい ます。
2.コーポラティブハウスの実例紹介
私どもが事業化しました「塚口コーポラティブハウス」について簡単にご説明させていただきます。場所は阪急塚口駅から徒歩4分の所です。駅前には再開発 で誕生した「さんさんタウン」というダイエーの入った大きなショッピングモールがあります。映画館、銀行もあり、利便施設はほぼそろった非常に便利なとこ ろです。少し歩くと、マンションも結構多いのですが、静かな落ち着いた住宅地となり、その一角に位置します。
事業計画地の面積は約200坪。地主さんのご子息が診療所を開業される希望がありましたから、建物の1階はすべて診療所用として、70坪強確保しまし た。その上に2階に3軒、3階に3軒、4階5階に2軒づつ、6階に1軒の計11軒の住宅が入る計画にしました。外観は見たところばらばらには見えないので すが、窓とかをよく見ていきますと、全部違っています。内装、間取りについても各一軒一軒の意向が反映された造りになっています。
これが2階の平面図ですが、建物はこういう形で3戸配置しました。真中にエレベーターがあります。西の部屋はムクの木材を使った非常に落ち着いた住宅です。収納等も入居者の意向にあわせて、各部屋に設置した計画になっています。
次は真中の家です。小さなお子さまが二人いらっしゃる30歳過ぎのご夫婦の家ですが、デザイナーのご主人が家でも仕事をされるということで、大きな書斎 と納戸を設けました。子供部屋は将来子供が大きくなったときは家具などで間仕切りを設けて2部屋にすることができる計画です。和室とリビングは連続してお り、和室とキッチンの間に小さな窓を開け、和室から料理が取れるようにしています。この和室は寝室とダイニングとリビングを重ねたような使い方をされると いうことで、このような間取りになりました。
次は3階の部屋ですが、北側は建物が上に載っていませんので勾配天井として、高さも高くとりました。この20畳近い部屋は回りに隣接している住戸が全く ないということで防音室にされ、ステレオセットを設置したAVルームとして使われています。あとの部屋はワンルームにされて、その一角を寝室として使われ ています。ワンルームプラス防音室のような作りです。ここにお住まいの方は「こういう住まい方をしてみたかった。分譲マンションでは到底無理だったので、 この事業に参画した」とおっしゃっていました。
他の住戸も非常にバラエティーに富んでいます。東のこの部屋も、ご主人が極力扉を作りたくないということで、扉が全然ない。リビングの一部に仕事ができ るような書斎を設けられたり、納戸を作られたりしています。この家はキッチンをオープンにし、家族全員が常に顔を合わせられるような空間にされています。 ここも同じ勾配天井になっていますので、それを利用しユニットバスの上にロフトを作られ、このロフトに天窓を設けられました。ここのご主人は部屋から星を 見るのが夢だったということで、その夢を実現された住戸になっています。
これは4階の東側の住戸で、だいたい100uくらいの広さがあります。こちらの奥様は、靴と服で一杯になるような部屋が欲しいと、主寝室の隣りに10畳 位の衣装部屋を設けられました。また部屋の感じをヨーロッパのホテル風の雰囲気にしたいということで、見る人が見れば品が良いのか悪いのか解らないきわど い内装だったのですが、入れられた家具が非常に良いものだったので、いまお宅にお伺いすると、こんなになるのかと言うくらい、上品ないい家に仕上がってい ます。
これは5階の西側のお部屋で、まだ30代の方がお住まいですが、これから子供さんが生まれるということで、先に子供部屋を作っていますが、今はそれを全 部取っ払ってオープンにしてあります。将来は子供の数に合わせて、間仕切るような造りになっています。壁面は全部収納にしました。
これが最上階の6階に1軒だけ載っているお宅です。この家は完全に一戸建ての雰囲気です。屋根はかまぼこ状になっていて、リビングは非常に高い天井を実現しています。主寝室や納戸のあたりの天井部分は全部ロフトにして、そこに全部しまいこめるような形になっています。
以上が各戸のインフィルの状態です。
次に、実際この計画を具体化する中でどういうことを工夫し、どういうことを感じてきたかということをお話させていただきます。
私どものキューブという会社は阪神・淡路大震災後に作った非常に若い会社ですが、震災で倒れたマンションの建替えとか、接道不良の土地がどんどん出てき て一戸建てを更新するのにどうすればいいのかとか、共同化して建て替えなければならない話とか、そういう大変ややこしい話にどっぷり浸かった中から、今こ ういう事業をやり始めています。
この震災で、それまで顕在化していなかった問題点がいろいろな形で噴出してきたのですが、そういう事業に関わったお陰で、様々な教訓がそこから得られました。それは、この事業を進めて行く上でも大変参考になりました。
その代表的な事例の1つとして、神戸市東灘区渦が森でのマンションの建替え事業があります。ここはもともと50軒のマンションだったのですが、私が係 わったときは、建替えか補修かで意見が分かれ、お互い口もきけないくらいの険悪な状況にありましたが、どうにか建替えに話を一本化することができ、建替え に至る事ができました。この時は法的な問題もあり大変苦労しましたが、どうしたらみんなが納得できる状況を作る事が出来るのか、根気強く丁寧に対応した結 果、これは再建事業の中でも希有な例だと思うのですが、当初建替えに反対されていた方も全員再入居という形で事業を終えることができました。
この仕事で感じましたのは、賛成反対で完全に分裂していて、どうしようもない状況であっても、話の進め方次第でそれなりにまとめ上げていくことができる ということです。そうであれば、コーポラティブのようにもともと家を買いたい人が集まってきたのであれば、そういう人をまとめることは、これに比べれば遙 かにたやすいのではないかと思います。
今までのコーポラティブは、いろいろな問題が指摘され、うまくいかなくて空中分解した例もあると聞いています。しかしそれは、事業のやり方、進め方に問 題があるのであって、その辺りをきっちり整理していけば、もっともっとうまく円滑に進めていけるだろうし、入居される方のリスクも低減できるのではないか と思っています。
もう一つの六甲の例は、丁度渦が森をやっている途中からやりだしたのですが、従前5軒の長屋が震災で倒壊して、その建替えの相談を受けました。さまざま な事業シミュレーションの結果、共同化を図る事になりました。当初ディベロッパーを誘致する方向で動いていたのですが、こういう小さい事業でディベロッ パーの利益を確保すると従前地権者の権利評価がほとんでできなくなってしまう。そこでコーポラティブ方式で事業化する事にしました。しかし、従前の地権者 に80代の高齢の方も多数いらっしゃったので、従来の喧々囂々の議論をしながら進めていくコーポラティブ方式では、とてもではないがやっていけません。
そこで、参加者のみなさんに公正に平等に、そして利益を還元出来るような方法を、第三者である我々コンサルタントがきっちり提案していくことが出来れ ば、そして参加者のみなさんがそれに納得していただける環境を作る事ができれば、そのような方々でも十分参加していただけるシステムが作れるのではない か。そのような事を考え、いろいろな知恵も絞り、こういう苦労を積み重ねながら事業を進めた結果、すばらしい成果を得る事ができたと感じています。 3.コーポラティブハウスとは
ここで、コーポラティブハウスとはどういうものかということを少しご説明したいと思います。
一般分譲のマンションは、マンションデベロッパーである事業者が土地を買って、設計事務所に設計を依頼し、建築会社に建物建築を発注して、出来上がったものを住宅分譲という形で購入者に売っていきます。
それに対してコーポラティブハウスは、一般の分譲マンションのように完成した住宅を買うのではなく、最初に住宅の購入を考えている方々が集まって、まず 居住者組合を作り、そしてコーディネーターと協力しながら、地主から土地を買い、各自の要望を取り入れた設計を設計事務所に発注し、自らが建設会社に工事 の発注を行って住宅を取得する。これが基本的な仕組みです。
普通の人が何人か集まって共同で建物を建てる例は無いことも無いのですが、これは通常非常に困難を伴います。これをうまく進めていく為には、どうしても コーディネーターが参画する必要があります。そのコーディネーターの立場なり能力が事業を円滑に進めていく上で極めて重要なポイントになります。またそう いう事業であるといわれています。
このコーポラティブ方式のメリットを簡単に整理しておきます。まず1つは分譲リスクが入居者の利益という形で返ってくると理解出来ます。つまりデベロッ パー利益や経費が除かれる為に、分譲価格を低めに設定した上で土地評価を高く設定できる。一般的に言えば、デベロッパー利益は事業費の10%から15%、 経費は6%から8%程度といわれています。最近はそこまで読めない事も多いでしょうが、基本的には大体その辺りだと思います。
それに比べて、コーポラティブハウスは、コーディネート費という別の費用が要りますが、これを含めても非常に安く済みます。それはなぜかと言うと、事業 を始める前に入居者を集めますから、事業リスクに対する利益を読む必要がないからです。そのことによって収支に余裕がでてきて、工事代金等の原価が圧縮を 受けない為に工事に十分なお金を回すことができます。そのことで、長持ちする丈夫な建物を建てることが可能となる。理論的にはそういうことになります。
2つ目のメリットは、基本的には入居者が集まりさえすれば、そこからすぐに事業を進める事が出来るということです。普通の分譲マンションの場合は、土地 の選定、購入から販売まで最短でも3ヶ月から4ヶ月、一般的には6ヶ月位の期間がかかると言われています。何故なら、宅建業法上建築確認がおりないと売物 が確定しないので販売が始められないのです。これに対して、コーポラティブハウスの場合は入居者が集まれば、それで即事業開始です。その点が違います。
ということは右肩下がりと言われている販売市況の中で、非常に早い時点で募集をかけることができるということです。それは、土地所有者に対してもそれだけの利益還元できるということでもあります。
3つ目は先ほどの実例で見ていただいたように、入居者の自由設計となるため、商品競争力が非常に強いという事です。そして4つ目は、参加者が共同して住まい作りを進めて行くので、よいコミュニケーションが育ち、入居後の管理もスムーズに行くということです。
(従来のコーポラティブハウスの問題点)
とは言うものの、実はこの4番目のポイントは両刃の剣で、プラスに働くこともあればマイナスに働くこともあります。そういうことを含めて、従来のコーポラティブハウスの問題点を整理させていただきます。
コーポラティブハウスは参加者の合意を前提とした決定・進捗を基本とします。何事もみんなで話し合って決めて行きましょうという方法を取っていますの で、問題点のまず1つ目は、度重なる会議での討議が必要であるということです。一般的には何十回もこの会議が開かれます。毎週2回も3回も集まって進めて 行くこのやり方は、時間が自由になる人でないと参加できない。普通のサラリーマンではとてもとても参加できない。
そして2つ目として、1から10まで何から何まで全部議論して決めていかないとならない。これは参加者にとっての負担が非常に大きく、建築について何も 知らない一般の方々が参加するのを難しくしてしまう。そして実際、そういう直接的な討議を重ねてみても、みんなの意見が公正に反映されるのではなく、建物 工事に詳しい人や、声の大きい人の言う通りになってしまう。これが現実の姿ではないでしょうか。
結果として、合意形成に時間がかかり、スケジュールやコストが大きく変動してしまう。問題は、そういう合意形成の困難さが、コーポラティブハウスの持っ ているメリットを全て相殺してしまう事にあります。デメリットに振りまわされると、このシステムのどこがいいのか、何がいいのかが全然解らなくなって、 「なぜこんなにしんどい思いをしなければいけないのか。もうへとへとだ」と言って、入居を迎えられるということにもなりかねない。
しかし、この問題はやり方次第で解消できると考えています。塚口コーポラティブハウスでは、コーディネーターである私共が、予め意見が分かれそうなとこ ろについては、こういうような考え方に基づいて進めるという大枠のルールを決め、それに沿って事業を進めるやり方を取りました。基本的にはコーディネー ターが全ての案を提示して、それに参加者の意見を反映させる。問題がある時は、問題の内容をコーディネーターがきっちり説明し、みんなの意見を聞く。そし てよい意見であれば、それを事業に反映させる。そういうやり方です。
全体集会も、みんなの意見が集約できて「よしこれで行こう」という、どちらかというと、しきりの場として使いましたので、最終的に解散に至るまで全体集会はわずか7回しか開いていません。しかも、その集会は参加者間の直接的な討議の場にならないようにしました。
これは極端な例だと思いますが、なぜそこまでしたのかと言いますと、震災後の建替え事業のときに痛感したことがあるのです。参加者が直接的に討議するこ とで主観の対立が生まれ、机のたたき合いの喧嘩になってしまった。それは当事者の心の中に遺恨として残ってしまいます。出来ればそういうことは避けたい。 また、不幸にしてそんな事が起こった時、妥協点を見い出せるのは第三者しかいない。当事者では絶対にありえない。利害が関係しない第三者が「お互いの言い 分は解った。だからここで手を打ちませんか」という言い方の中でしか結論は導かれない。そういう事を強く感じたので、塚口では、喧嘩に発展する可能性のあ る議論を直接行なう場は設けないように配慮しました。そういう工夫をすることによって、予定したスケジュール、予定したコストで事業を進めることができた と思っています。
このとき、コーディネーターは第三者の客観的な専門家としてのスタンスに徹する必要があります。誰かに近い、あるいは誰かに遠いというようなことを絶対 に感じさせてはいけません。公正で平等な距離感を保ちながら、正しいものは正しいと言い、そうでないものは間違っていると言う是々非々の立場であることを みんなに解って頂けるよう、そういう意識を持って対応する必要があります。こういう進め方ができたお陰で、非常に少ない全体集会でも皆さんの意向を十分吸 い上げられましたし、最終的に納得していただける住宅ができたのではないかと自負しています。
このようにやり方次第で、コーポラティブ方式の持っているメリットを最大限に生かすことができ、かつデメリットを最小限に抑えられるのではないかと考えています。
(塚口のスケジュール)
塚口での実際のスケジュールですが、平成10年8月に事業コンペがあり、募集を開始したのは平成10年11月、翌平成11年2月には参加者を全員決定し ました。実質活動期間は2ヶ月くらいで参加者決定を済ませました。それから大体半年で設計等を進め、8月に工事着工、翌平成12年5月に竣工。6月には入 居していただきました。このように、当初予定したスケジュール通りで進みました。
正直なところ、募集期間には大変苦労しました。普通のマンション販売と同じように新聞にチラシを入れて、人を集めて、説明会を行いました。ですが、そこ に来られる人は、単に安いマンションがあるから来ているだけの人達で、そういう人達に今日のような話を延々とするわけです。話しているうちに皆さんはどん どん眠たくなってこられる。難しい専門的な話が多すぎて、話についてこれないのです。
最初は、建設省の小林さんが言われていたように「定借だから安い。コーポラティブだから自由設計である」というようなことだけを説明していたのですが、 どうも反応が悪かった。なぜかと考えますと、30年目に権利返還があると説明している一方で、その30年目の権利返還の意味を説明していないのです。そこ で30年目の権利返還の意味を説明しようとすると、スケルトン定借の持つ、大規模修繕を乗り越える仕組の話をする必要がありました。
普通の分譲マンションでも30年以降も管理水準を良好に保つのは大変なことです。管理運営にかかわる事は、すべてが住んでいる人達の合意形成に委ねられ ますから、入居者の意見が一致しないと何事も始まりません。先ほど説明したように30年もたつと、どうしても賃貸比率が上がってきます。そうすると、そこ に住んでいる人が「もっともっと管理を良くしたい」と思っても、賃貸に回している人達の管理意識は低いので、維持管理のお金が集まらない。お金が集まらな ければ管理レベルは下がってしまう。これが現実です。
その管理水準を引き上げようと思っても、合意形成に依存する方法を取っている限りは絶対に無理です。その部分に強制力を持たせること、つまり最初から意識の低い人にはペナルティーがかかる、そんなスキムを組むことができて初めて可能になると思います。
ところが200世帯とか300世帯の大きな分譲マンションでは、住みだして何年か経って、一部の人が修繕費積立金を段階的に上げないと管理の水準が悪く なるという意識を持って「みんなで修繕積立金を1.5倍にしましょう。2倍にしないと将来はだめです」と言ったところで、だれもそれに合意しない。どれだ けデベロッパーが長持ちするようなスペックで建物を建てたところで、当事者意識がない中では建物の管理水準は高く維持できない。即ち入居者のレベルによっ て建物が長持ちするかどうかが最終的に決定付けられてしまう。このように一般的なマンションが迎える現実に対してスケルトン定借が持つ可能性を説明する と、集まられた方々の反応は次第に良くなりました。
ところで、スケルトン定借というのは、コーポラティブというスキムといつも一緒に語られますので、コーポラティブでないとできないという誤解を招いてい るかと思いますが、実はコーポラティブである必要性は全然ありません。必要条件でもなんでもないのです。一般分譲でも可能なスキムです。
なぜ一般分譲のスケルトン定借をしないのかと言うと、デベロッパーサイドでコーポラティブと分離出来ないという誤解があることと、やはり販売が難しいと いう先入観があることでしょう。説明が難しいということで後ろ向きになっている場合が多いように思います。しかし、現在の右肩下がりの経済状況下、マン ション自体のストックが過剰になっていく中で、独自の商品力を持つということは付加価値をどう提案していくかということに終始しているように思います。こ のスケルトン定借は、そういった付加価値を越えた絶対価値を持っているのではないかと思っています。
参加された方に「なぜ参加されましたか」とお聞きすると、「60年なら60年間、途中で修繕積立金を引き上げないとやっていけないことのないように。そ して平和に60年間管理水準の良いところで住み続けられる環境が他に無かったから」とおっしゃいます。60年間といえば40代、50代の方ならほぼ死ぬま で平和に住み続けることができる。特にご年輩の方々にとって、たかだか30年やそこらで建替えというやっかいな話に巻き込まれたくもないし、修繕積立金を 上げないと環境が悪化するからといって、自分が先頭に立って旗を振りたいとは思っておられません。ただ、平和に住み続けたいと考えておられるだけです。
阪神大震災のお陰で、マンションというのは非常に怪しい権利形態だ、区分所有というのは怪しいぞと、みんな実感されているのではないでしょうか。しかし、消極的選択枝としてマンションしかないからマンションを買っている。そういうことが実際あるのではないかと思います。
たかだか30年程度で問題が起こってくるというのは、50代の方であれば80才ですから、今の平均年齢から言いましても十分に生きていられるでしょう。 その80才になった時に、建替えを自己負担でしないといけないというような話をされたらたまったものではない。それよりは60年間はそういう話は一切な く、自分が自助努力をしなくても管理水準の高い家であってほしいと思われるのは当たり前です。このコーポラティブハウスは、始めからそういう意識を持った 方だけが集まって住みます。ですから安心して長く住める。50歳の方にとって60年後というのは、もし生きていたら110歳ですから、その時に考えたらい いぐらい先だなと思って頂けるだけの期間が、実質利用価値として提供できる事業方法だと思います。
(従来のコーポラティブの問題点)
話はスケルトン定借の方に行ってしまいましたが、ちょっと戻りまして、従来のコーポラティブ方式には、先ほど申し上げた以外にも問題があります。例え ば、従来の建築供給システムの中に多品種少量型の需要に対応するシステムがないので、自由設計をやろうとしても出来ない。簡単に言えばゼネコンがそれに対 応できないのです。
実際、塚口をやる前にコーポラティブの事例を見て回ったのですが、はっきり言ってどこも工事はひどかった。あんな工事だったら内覧会の時にトラブルので はないかと思って、聞いてみましたら、やはり紛糾している例が多かった。工事施工レベルが低いと入居者の満足度が低下します。満足度が低下するとスキムと いうかシステムそのものに対する疑問が出てきます。「へんなものをつかまされたのではないか」という話になっていってしまうのです。
住宅を提供する側は、最低限の施工レベルを保った建物を提供する義務があります。出来ないものは出来ないと最初に言うべきであるし、出来ると言ったのであれば、その範囲内の性能については保証する必要があると思います。
その他、従来型のコーポラティブの問題点として、監理の不徹底に起因する施工上の間違いが起こる事があげられます。現場は必ず間違うのです。間違ったま ま内覧会で入居者に見せると「全然違うものが出来ている」と不満が出てくる。この満足度が低下すると設計施工だけに止まらず、事業全体に対する不信感につ ながっていきます。東京のあるスケルトン定借事業において、こういう話から訴訟になる直前にまでいった事例があったと聞いています。それはやり方に問題が あったのではないかと思います。
そういうことがありますので、塚口では現場の管理状況に最大限の配慮をしました。基本的には実施設計完了時点で全設計を完了させました。また、工事請負 契約内容と実施工事内容を出来るだけ一致させるように監理し、施工レベルを高く保つことに最大限の努力を払いました。その結果、入居者の満足度が非常に高 くなったと思っています。
入居者の満足度をアップさせるためには、入居者の希望内容を100%反映させなければならない。そのためには監理内容を徹底させる必要があります。そう 考えながら塚口ではやってきましたので、内覧会では細かい傷等があること以外は全く問題にならず、満足してご入居いただきました。今に至るまで入居者の皆 さんと私どもコーディネーター、設計者とも円滑な人間関係を継続させていただいています。
入居者の満足度が上がることが、その後の良好なコミュニティーを形成する上で大いに寄与すると思います。そのためには建てる前に十分な話をして意志の疎 通を図ることは実はどうでもいいと私は思っています。議論が対立して、下手すると喧嘩別れになる恐れがある時に、深い議論をする必要は無いと思っていま す。事業を進めていく上で一番不安定なこういう時期は、できるだけサラッと流していきたいのです。住みだしたら何十年も一緒に住んで行かなければならない のですから。その中で仲の良い人はどんどん仲良くなって行けばいいし、気の合わない人はそんなに仲良くなる必要もないのです。町というのはそんなもので す。あの人とはそりが合わないなと思っても、顔を合わしたら、知っているから挨拶をする。その程度の付き合いで十分です。みんながべたべたと深い付き合い をするようなコミュニティーは、逆に気持ちが悪いとすら思います。
次に、この塚口のスケルトン住宅の建物仕様についてですが、震災を踏まえた建物構造を提案させていただきました。仮にスペック以上の地震が起こったとし ても、非常に柔らかい靱性の強い建物にすることによって、人の命を守れるように設計しました。設備更新については、基本的には理論の為に現実を犠牲にする のはおかしいと思っていますので、現実的な方法で対処したいと思っています。
次にコストについてですが、ランニングコストに配慮した、つまり修繕維持に必要となるコストを非常に意識した仕様設定を行っています。例えば、10年ごとに足場を組まないと修繕ができない様なことがないように仕様を設定しています。
(マンション管理のあり方)
管理については、コーポラティブの場合は自主管理している事例が多いようですが、設備的にもこれだけ多岐にわたる建物を自主管理するのは非常に無理があ ると考えています。その点管理会社には蓄積したノウハウがありますので、それをうまく引き出して、みんながそれを見ながら進めていくことができればいいの ではないかと思い、当初から管理会社に日常の業務を委託する形で考えました。最終的には管理会社選定コンペで管理会社を地主さんと入居者に選んでいただき ました。
なお、地代徴収などの日常業務についても、その管理会社に委託して、地代が滞った入居者に、地主が「払ってください」と、お願いにいかなくてもいいようなスキムにしています。
先ほどご紹介した建替えをしたマンションは築23年で震災にあいましたが、震災に遭うまでは50代後半から60代くらいの方々が中心になっていて自主管 理されていました。しかし、80代90代の入居者もおられましたので、以前と同様の自主管理では平等性を維持できなくなっていました。例えば、90歳のお ばあさんに炎天下、「草むしりをして下さい」とは言えません。かといって30代40代のむちゃくちゃ忙しいサラリーマンに早く帰ってきていただいて、「一 緒にしましょう」ともいえません。特に最近は共働きの方も増えてきていますので、実質的に自主管理は不可能になっているのです。
しかしながら、自主管理から委託管理にしようとすれば、当然月々のコストが掛かり、合意を得るのが難しい。ということで管理委託をしたいと思いながら5年以上もごまかし、ごまかし自主管理をやってこられた。そういう状況でした。
それに輪番で理事を出されて自主管理をやられていたのですが、この理事の負担があまりに重いので、再来年に理事長が回ってくるとなると「来年のうちにマ ンションを売らないといけないな」と本気で思うくらい、みなさん強迫観念を持たれていました。それ程理事の負担が大きくなっていたのです。
しかし、これは決して理想の姿ではないと思います。今回この事業をする上では、そういう負担を入居後に入居者間で持ち合うことのないように、委託管理を前提として募集を行ないました。
スケルトン住宅普及センターでは、スケルトン住宅の理事長会を年一回開催されていますが、私どものマンション以外はほとんどが自主管理でやられていま す。去年の理事長会では、どの理事長さんからも「管理委託したい。良い管理会社を知りませんか」という話が出て、やはり相当負担が掛かっているなと感じら れました。
また当事者間では話しにくい話もあるし、解決し得ない話もありますので、客観的な第三者の専門家を介在させることは、円滑に管理していていく上で非常に重要なポイントになると思います。
実際の管理コストはコンペで行いましたから、結果的には非常に安くすることができました。具体的には専有面積80uの住戸で月々7,760円。修繕維持 積立金は8,800円、合計月々16,560円です。平米単価は207円ですから大変低くおさえられたと思っています。なお、修繕積立金は当初に基金とし て戸当たり32万円を納めて頂いています。これによって35年間、一時金の徴収も積立金の増額もなく長期修繕計画を組むことができました。
塚口コーポラティブハウスの事業費は、参加者募集時よりも最終的に1千万円程度圧縮できました。逆に言えば、最初からその位のバッファを読んでいたというのが正直なところですが、事業総額が確認出来た時点で一度精算し、最終事業完了時に最終精算を行いました。
通常コーポラティブハウスで募集をする場合、コーディネーターが「安い、安い」と言って入居者を集めてから、実際に土地を買い、「あれも要るこれも要 る」と、どんどんお金を出させて、最終的に精算すると多額のお金がかかったという事例もあるようです。しかし、そんなことになれば、参加した人が「結局高 くついて、騙されたみたい」という気持ちがクレームに繋がっていき、あとあと機嫌よく住めないものになっていくのは目に見えてます。そうではなく、「安く ついたから」と、お金を返してあげる形にできれば、参加者の満足度が非常に高まります。それが、入居後も機嫌良く長く住んで頂ける秘訣ではないでしょう か。 4.定期借地権の課税上の課題
後ほど友弘さんから課税関係のご説明をいただきますが、今回の事業では前例のない提案をさせて頂いていますので、そのことについて少し触れさせて頂きます。
この事業では定期借地権の等価交換という手法を取り入れました。定期借地権を事業化されたことがある方は経験されていると思いますが、定期借地権事業は あまり儲からないスキムだというのが、一般的なイメージかもしれません。権利金方式にしますと、税金が高くあまり手元に残らない。そうかといって保証金方 式にしますと、低いリスクで高い運用益を見込める事業が少ない。結局、定借事業は土地利用が固定化される割には儲からないと感じられているのではないで しょうか。
今回塚口の事例で利用した等価交換というのは、権利金の額が土地評価の2分の1を越えると譲渡所得になります。その分を等価交換で床取得に充てれば、そ の時点では課税が一切発生しないという「立体買換え」の手法を使いました。結果だけを申し上げますと、土地は約200坪、土地評価は2億2千万円。そこに 定期借地権の設定対価として5割を少し越える1億1500万円の権利金を設定し、その1億1500万円で一階部分の床72坪を地主さんに取得していただき ました。
地主さんが取得する1階部分の72坪はご子息が医院として使われますが、一般的に見て坪当たり1万円以上は取れるところですので、店舗床の収入として 70万円強の収入が想定されます。また地代収入として戸当たり2万円くらいいただいてますので、合わせて90万円以上の収入になっていると考えられます。
以上、この事業の結論を、地主サイドから申し上げると、200坪の土地に資本投下ゼロで月90万円以上の収入を発生させる事業だということです。なおかつこれはつくば方式ですので、建物は将来全部自分のものになるのです。
ここがこの等価交換方式の非常に重要なポイントです。なぜならば、従来の等価交換では、地主が土地所有権を建物の一部と等価交換するため地主は単なる1 区分所有者になってしまいます。30年後、40年後の一区分所有者なんていうのは非常に限定された権利に過ぎません。土地と建物との等価交換は長期的に見 れば土地が減っているのと同じであり、地主にとってあまりメリットがないのです。
しかしながら、私どもが提案している定借事業は、等価交換しても何もなくならない土地利用方法です。基本的には入居者が建物を建てますので、地主は借り 入れなしに建物を建てたことと同じです。30年間のローンを入居者に肩代わりしてもらったようなものです。しかも医院部分の床も取得した。そしてその期間 が終われば、建物全体は自分のものになる。なおかつその間土地からの収益も地代という形で得ることができる。まさに一石二鳥どころか一石三鳥の事業ではな いかと思います。
通常の場合、土地評価の2分の1を超える権利金を設定すると事業費が高くなるので、なかなか募集が難しいという面もありますが、ここで先ほどお話した コーポラティブハウスのメリットが生かされます。事業利益というデベロッパー利益が必要ではありませんので、その分安く提供できるのです。実際、塚口で は、平均して大体80uのものが3000万円(建物2300万円+権利金700万円)、地代2万円くらいの設定です。募集当時の周辺の一般分譲マンション と比較して、平均坪単価で62%ですから、約4割安くなっていました。地代相当額を当時の金利(募集当時は2%でした)で換算した600万円を加えた土地 込価格比にしても75%にしかなりません。かなり安く提供することができたと思います。
5.スケルトン定借のメリット・デメリット
最後にスケルトン定借のメリット・デメリットをまとめてご説明させていただきます。
8つメリットを掲げさせて頂きました。皆様が割と混乱されているのが@自己資金ゼロでのマンション経営とA事業リスクを確実に軽減できる、というこの2 つです。これは定借のコーポラティブのメリットであって、つくば方式である必要は全然ないわけです。定借のコーポラティブであれば、この2つのメリットは 発生します。
つくば方式独自のメリットは次の3つです。B収益率を上げる複合化が可能、C相続対策として有効。このCに関しては、賃貸マンション経営が親不孝経営で あると言われているのに対して、こちらは親孝行経営になります。そして、D確実に土地を存続できる。これは土地の返還が確実であるということです。この3 つはスケルトン定借のメリットだと思います。
もっと本質的には、E区分所有権の限界を超えるスキムであって、F良好な都市ストックの形成に繋がるということがあります。地主にとって一体どこがメ リットなのかと思われるかもしれませんが、良好な管理水準にマンションが維持されることは良好な都市ストックの集積になるので、建物が建っている周辺の環 境が良くなり土地の値打ちが上がるのです。もしそれが、将来スラム化するような建物であれば、その周辺の土地の評価は引きずられて下がってしまう。RC建 築物の様に堅牢な建物は、その維持管理状況の周辺に及ぼす影響が甚大です。ですから、持っている土地の利用として、良好な管理水準に建物を維持すること は、将来における他の土地利用に対してもプラスに働くということです。
最後にG小規模で好立地の敷地の事業化に適しています。スケルトン定借はコーポラティブと必ずしも不可分ではありませんが、コーポラティブの良いところ は小さくてもできるということです。30戸も40戸も必要なくて10戸程度で良いのです。3戸4戸でも十分事業化できるところにその特徴があります。
例えば駅前の便利な場所、そこに住宅があれば住みたと思うような場所、従来であれば賃貸マンションが建てられていたような場所であれば、そんなに大きく なくても十分に事業化は可能です。特にこんなご時世ですから、従来ならば当然賃貸マンション経営されていたであろう地主さんが、今は事業に対して後ろ向き になられている。人口が減ってくる、若年層が減ってくる、ワンルームなんか要らないようになると言われ、土地利用に消極的になられている中で、このスケル トン定借は基本的に地代収入を原資としていますから、収益が落ちることはありません。借地人が出ていく時には必ず売って出て行かれるのですから、必ず誰か が地代を入れてくれます。なおかつ地主による資本投下が要らない。自己資金はゼロです。借入金ベースの事業にならないので、地主さんにとっては大変安心感 のある事業だと思います。特にデベロッパーが事業化できない小規模の立地においては、コーポラティブの良さが生きてくるのではないかと思います。
デメリットにつきましては、先程も言いましたが、スキムが複雑で、募集時の説明が非常に困難だということです。しかしながら、説明の仕方を考えて、ちゃ んと聞いてもらえるだけの時間が取れて、その人の耳に届けることができれば、逆にこれはオンリーワンの選択になり得るのではないかと思います。
塚口に入居された方は、他にも山のように分譲マンションが出てきても目移りされませんでした。というのは、この話に納得して参加された方は、他に選ぶ選 択肢がないからです。そういう意味では、これだけ供給過剰だと言われている関西においても、全く競争相手のないこの事業は、今までは売りにくいという一面 はあったと思いますが、こういうことをきっちり伝えていくことが出来れば、絶対的価値を持つ商品として市場を獲得するのではないか。そういう事業手法では ないかと思っています。
デメリットのもう1つに、コーポラティブ方式の事業運営にはそれ相応のノウハウが必要だということがあります。しかし、何度も言いますが、コーポラティ ブであることは必要条件ではありません。一般定借事業をやられる位であれば、この方式を取り入れてされる方が社会的な意義もあるし、地主さんにとっても意 味あることではないかと感じています。
今日お話させていただいた塚口の例は、私自身これまでやってきた事業の中でも非常にいい事業だと感じています。ただ非常に複雑なスキムで、その良さも多 岐にわたっていますので、なかなかご説明しきれない部分もあったかと思います。もし、この事業にご興味ある方がいらしゃいましたら、私の能力の許す限りご 説明させていただきます。また具体的な案件等がありましたら、ご相談を受けさせて頂きますので、よろしくお願い申します。
(終わり) |