![]() |
|
![]() |
自分スタイルの住まいづくり コーポラティブハウス体験記 出版社:廣済堂出版 |
阪神・淡路大震災を機に独立、コーポラティブハウスに取り組む | |
キューブは、関西でのスケルトン定借によるコーポラティブハウスの第一号を実現した。コーポラティブハウスのコーディネート・設計を行うまだ若い会社である。 代表の天宅さんは、リクルートコスモスの出身で、都市デザインシステム代表の梶原文生さんとは同期入社。東京と大阪で別々ではあるが、何か因縁めいたも のを感じさせる。コーポラティブハウスの事業のノウハウについては、お互いに協力体制もひいて、情報交換もしているという。 天宅さんにとって、1995年の阪神淡路大震災が大きな転機となったそうだ。ご自身が神戸に住んでおり、またディベロッパーの中にいたこともあって、震 災で被害を受け、さまざまな難題を抱える旧来通りの分譲マンションをつくっていくことに疑問を感じ、大手設計事務所に勤めていた奥さんの玲子さん等と震災 の翌年、1996年に会社を設立した。 少し回り道になるが、天宅さんがコーポラティブハウスを手がけられるに至った過程を整理する。 会社を興こし、まず、最初に手がけた仕事は、災害マンションの建て替えだった。 住民の中で建て替えと補修の意見が二分化して、収拾がつかなくなった状況の中、住民が天宅さんに相談を持ちかけ、マンション建て替えに関わることになったのだ。 このマンションは、建物の一部が損壊し若干傾いていたものの、上下水や電気等の設備は復旧しており、住み続けることは可能で、震災後約1年経っていたが ほぼ全員が居住し続けていたのだ。全壊であればまだしも、このマンションのように、生活を続けることができる例では、住民間で、建て替えに対する意識の温 度差があった。天宅さんは、マンションの50世帯全てに個別ヒアリングし、個々も世帯の置かれた状況の把握を行った。 そのうえで、建て替え賛成派、反対派どちらにも与しないで、あくまで建築・不動産の専門家として、マンションの構造の調査を行い、住民が選択できる進路 を中立的な立場でまとめ、これを住民に示した。その結果、建て替えへ向けて、住民の合意が図られていった。この際、反対者の意見をできるだけ尊重し、情報 の平等化に細心の注意を払った。 「最終的に、反対者も含めて全ての人が戻ってきた震災復興マンションは、この『ディゼット渦が森』だけだと思います。」と、天宅さんは自身をもってい う。なぜなら、多くの復興マンションでは、反対決議にまわった住民は、経済的な面ばかりか人間的な関係のトラブルもあり、権利を売り払ってマンションを出 ていく例が多かったからだ。 天宅さんの温和な人柄と、専門家として公正でねばり強い対応が、建替えを成功に導いていったのだ。 次いで、六甲道、八幡商店街沿いの阪神淡路大震災による五軒の長屋が全壊した地で「スクウェア六甲」というコーポラティブハウスのプロジェクトを手がけ た。このとき、コーポラティブ事業にしたのは、先の「ディゼット渦が森」の建て替えに当たってのコンサルタントの役割とコーポラティブハウスのコーディ ネートの役割が似ていると考えたからだ。 もともとの地権者の住宅の再建と、土地の高度利用によって分譲マンションを併せてつくるプロジェクトだ。この際、分譲する分の部屋については、コーポラティブ方式で、あらかじめ入居者を募り共同化事業を進めた。 新聞チラシで行った入居者募集では、即日で入居者が確立し、その後大きなトラブルもなく、当初の予定通り募集から約8ヶ月で着工に至った。 「塚口コーポラティブハウス」は、スケルトン定期借地権という借地権方式のコーポラティブハウスだ。 このコーポラティブ事業では、組合総会をわずか6回で済ませた。普通、「ライト系」と呼ばれるコーポラティブハウスでも、その倍くらいの会議を行う。 天宅さんはこう考えている。「集会の場で喧々囂々をやる必要はないのでは。コーディネーターがお膳立てしてあげることで、参加者の負担は軽くなると思います。」 そうした考えと、「スクエア六甲」での経験から、天宅さんは集会での検討内容・開催回数をどんどんスリム化していった。 「これまでのコーポラティブの参加者主体の議論では、参加者がそれぞれ持っている意見を一通り出し合って、議論を詰めていかなければならない。しかし、合 理的な方向性は、おのずと分かっている場合が多い。コーディネーターが全体を見ながら大筋の方向を示し、それに意見をもらって調整する方が、時間も労力も 少なくてすむと考えています。こうすることによって、コーポラティブは負担が大きい、という人にも気楽に参加できるようになると思います。」 都市デザインシステムの梶原さん同様、マンションディベロッパーの出身らしく「煩雑な」コーポラティブと分譲マンションの中間をねらう、「ライト系」コーポラティブの一つのあり方を示しているように思える。 コーポラティブのメリットの一つといわれるコミュニティについてはどうか、という質問に対して、天宅さんは、この方式でもコミュニティはうまく育まれると語る。 「なにも、何十回も何百時間も議論を戦わせたからコミュニティが育まれるわけではないでしょう。私の採用している方式でも建設組合の設立、つまり住み始め る2年前から、顔見知りになるし、6回の集会や、上棟時や竣工時に開くパーティなど、お互いを知り合うきっかけは設けています。その際、お互いの職業がな んであるか、家族構成はどうであるか知り合えるので、分譲マンションとは、はるかに違うはずです。住民主導型のコーポラティブで、濃密な議論で対立して、 住み始めてしこりが残るような間柄になる例もあると聞きます。この集会に労力を割かない「ライト系」コーポラティブは確実にニーズがあります。」 天宅さんは、コーディネーターに必要な資質が、3つあると言う。それは、客観性と透明性と専門性である。 「客観性は、平等と中立ということですが、人によって違うことを言うようでは、不信感を持たれることになるでしょう。誰にでも、平等な立場を貫くことが コーディネーターの大切な資質。次に、コーポラティブは原価主義ですから、そうした事業費面の透明性はもちろんのこと、議論のやり取りについてもみんなに 明らかにしていく透明性が必要です。最後に、これも当然ですが、建築のプロとして参加者の信頼に足る専門性も大切だと思います。」 天宅さんの、物腰のやわらかい誠実な人柄は、一世代のコーポラティブの推進者とは対局に位置するもののように見える。コーポラティブの事業者に必要不可欠な信頼を得るということが、丁寧な仕事ぶりにあらわれていると感じた。 キューブでは、塚口コーポラティブハウスの完成から間を置かず、現在3つのコーポラティブのプロジェクトを同時進行中だ。また、キューブが千葉大学延藤 研森永チームと組んで応募した、神戸市・長田東部地区「復興まちづくり型分譲住宅」設計コンペ「震災空地を活用する良質ミニ開発」では、みごと最優秀賞を 受賞し、事業化に向けて準備を進めている。 |
|
■close | |
All rights reserved, Copyright (C) 2008 CUBE Co.,Ltd. | |
![]() |