コンサルタントとして留意した事
渦森団地17号館のコンサルティングを行なうに当たり、コンサルタントとしての立場を出来る限り中立に保つように考慮した。建替える為のコンサルタントは補修したい人から見れば敵対する関係になる為、対立関係を和解させるどころかむしろ激化させることに繋がりかねない。中立的な立場で係わる事で初めて少数派の本心を確認する事が出来、対立関係のポイントを見極める事ができる。対立関係のポイントを確認できないままに強引に進めれば進めるほど対立関係を深め、感情の縺れを生じさせる。この事は、建替えの為のコンサルタント又は補修の為のコンサルタント、何れの形で係わる事になろうとも同様であるといえる。基本的には、コンサルタントは、状況の整理と公開を通して解決方法を提示し、公正な条件の下で当事者が判断できる状況を作る第3者に徹する事が必要である。
渦森団地17号館は半壊で、かろうじて日常生活を行なうには支障無い被災状況であった為老朽化マンションの建替えの場合と非常に類似した状況にあった。ここで明らかになった補修派の意志が決して経済的要因からのみ来る物でなく、思想・社会背景から来る物である事は非常に重要なポイントだと言える。千里ニュータウンにおける建替え計画や東京の同潤会アパートの建替え計画で、反対している人々の論点もおそらく同様であり、これを建替え派が経済的解決を図ろうとするから膠着状態に陥る。そもそも居住財産を多数決で処理する事に問題があり、これを解決する方法は対立者の意志を確認し尊重する中からのみ生れてくると考える。その為には住民の総意が固まらない時点における任意の方向性に偏ったコンサルティングは住民間の感情対立を誘発するだけで、最終的な解決に至る事は困難である。場合によっては不合理な金銭解決で打開する事で、住民間に感情のしこりを残すものとなるだけである。こうなってはたとえ建替えが出来たとしても良好なコミュニティーを取りもどす事は不可能である。ところが残念ながら実際の所は被災マンションの建替えにおいてもその結果になっている物 も少なくないようである。理性的に解決する事が出来るなら渦森団地17号館のように当初反対していた人々も全員事業参加し、再入居を果たす事も可能である。おそらく、反対している人の大多数がその場所に非常に愛着を持ち、最もその場所に住みつづけたい人々の1人であろうから。